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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
最終部 第一章
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「それぞれの」 06 —ルネディ、エンダー—





 サランディア国領内、北西部、夜。



 いずれ来るであろう『大厄災』の、影響範囲外と予測される街へと住民を送り届けたルネディは、感謝を述べる住民たちに手を振り息をついた。


 そんな彼女の元に、一人の三つ星冒険者が近づいてくる。


「お疲れ様、ルネディ。君のおかげで今回も無事に終わったね」


「……ありがと、エンダー。あなたがもう少しコントロールが良ければ、こんなに苦労しなくて済むのだけど」


 ジト目でエンダーを見るルネディ。その言葉を受け、優男エンダーは口笛を鳴らしながら大げさに肩をすくめた。


「ヒュー。それは諦めてくれ。君の『影』が魔物を押さえつけてくれれば、僕は魔法を至近距離で撃てるからね。僕たち、相性がいいんじゃないかな?」


「冗談。あのね、私、光って嫌いなの。私は月の出ていない時に力を貸せないのだから、あなたも私に頼らずに戦えるようになさい」


「はは、そうだね。ほんと、彼らには頼りっぱなしだ」


 エンダーの視線に釣られてルネディが目を向けると、そこには冒険者、サランディア国兵、さらには元ロゴール国の兵士が談笑している姿があった。


 ルネディは目を細めて、彼らを見つめる。


「……そうね。私は外の世界をあまり知らなかった。頼れる存在がいるっていうのは良いものね」


「そうだろう? 僕も仲間を巻き添えにしないように一人で戦ってたけど……あの時グリムに頼られて、どんなに嬉しかったことか」



 避難計画は、順調に進んでいる。それも、月の出ている間はルネディの鉄壁の防御があり、さらには月の出ていない間も彼らが奮闘してくれているからに他ならない。


 そんな中、また一人の冒険者が近づいてきた。


「お疲れ様です、ルネディさん、エンダーさん。いやあ、お二人のおかげで、俺なんか出る幕ないっすよ!」


「あら、あなたは確か……」


「ビラーゴ、だね。一つ星冒険者の。いや、君たちがみんなを励ましているから、避難は順調に進んでいるのさ」


「お、俺なんかが恐れ多い!」


 ビラーゴは一転、目を白黒させて否定する。しかし、ルネディは思う。


 彼が『白い燕の叙事詩』を歌い、皆に希望を届け続けているからこそ、大きな混乱もなく避難は進んでいるのだと。


 酔っているのだろうな、とも思う。世界滅亡の危機だ。人々は『白い燕』という偶像にすがり、自分を誤魔化し落ち着けている側面もきっとあるのだろう。


 でも——それでもいいじゃないか。ルネディの知る『白い燕』は、確かに人々の希望となり得る存在なのだから。


 ルネディはクスリと笑い、ビラーゴに語りかけた。


「恐れ多いもなにも、私は無印冒険者であなたは一つ星冒険者。頼りにしてるわ、先輩」


「ひゃあ! ルネディさんなんか『白い燕の叙事詩』に歌われている一人じゃないすか!『大厄災』の件が終わったら、絶対に三つ星冒険者になりますって!」


 いよいよ泡を吹き始めたビラーゴを見て、ルネディは口元を押さえた。エンダーは頬を緩めて、ビラーゴに向けて指を鳴らした。


「さ、明日も早い。早く夜営の準備をして、ゆっくり休むんだ。まだ避難計画完了までは、何往復もしなくてはならないんだからね」


「了解っす! エンダーさんたちのテントもお任せください! それじゃ、お疲れ様っす!」


 そう言って元気よく皆の元へと戻るビラーゴ。その背中を見送って、エンダーは目を伏せた。


「……『大厄災』ね。ルネディ、君は参加するんだろう?」


「当たり前じゃない。リナが戦うというのなら、当然」


「……君の『再生能力』が、無効になる相手だって聞いたけど?」


 その言葉を聞いたルネディは、間髪を容れずに答えた。


「だから戦わないという選択肢はないわ。それはリナも……いいえ、あの戦いに参加する者全員が同じ条件なわけでしょ? ここで尻尾を巻いたら、笑われてしまうわ」


「……そうか。なら、僕も参加するよ」


 一瞬の沈黙。周りの喧騒が聞こえる中、ルネディは真面目な顔で答えた。


「そ。恐らく、生きては帰れないわよ?」


「ヒュー、怖いねえ。でもね、戦いに勝利さえすれば、僕は死してなお英雄になれるかもしれないだろ?」


「……あなた、名誉のために戦うの?」


 エンダーは帽子を目深に被り直し、彼女に答えた。


「そうだね。こんな僕を認めてくれた、仲間たちの『英雄』にね。だったら勝利のために例え僕の命が散ろうとも、別に惜しくはないさ」


「……ふふ。じゃあ、私と一緒ね」


 二人は顔を見合わせて笑い合う。ひとしきり笑ったあと、ルネディは意地悪く言った。


「でも、魔法の暴発だけは勘弁してね」


「はは、その時は君を頼るとするよ——」



 月は沈み、陽は昇る。眠らない女ルネディは、朝焼けを見つめつぶやいた。



「……メル、マルティ。あなたたちもちゃんと、頑張ってるのかしら……」



 彼女は同じ空の下、同じく人々のために動いている二人を案ずるのだった。




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