表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
最終部 第一章
566/610

「それぞれの」 05 —カルデネ、アルフレード—






「妖精王様、おいでですか。レザリアです。『月の集落』のレザリア=エルシュラントが参りました」


 妖精王アルフレードの神殿の前にたどり着いたレザリアは、扉を叩いた。ほどなくして、中から返事が返ってくる。


「入ってくれ」


 その声に、扉を開き中へと入っていくレザリア。カルデネもあとを続き神殿内に足を踏み入れると——



 ——中央のテーブルに腰掛けているのは妖精王アルフレード。そして、この神殿に常駐しているグリムの姿があった。





「突然の訪問、失礼いたします、妖精王様。本日もお願いがありまして……」


「ああ。あらましはグリムから聞いているよ、レザリア。カルデネが僕に頼み事があるんだって?」


「はい。では私はこれで」


 レザリアはピシッと礼をし、その場を立ち去ろうとする。カルデネは慌てて彼女の服を引っ張った。


「レ、レザリア? もう行っちゃうの!?」


「当たり前です。このために私はお暇をいただいたのですから。ああ、リナ……このレザリア=エルシュラント、今すぐあなたの元に馳せ参じますからね……!」


 そう言い残し、レザリアはカルデネを振り切って神殿から出て行った。勢いでべちゃりと床に倒れるカルデネ。その様子を見たアルフレードは、呆気に取られた様子でグリムに尋ねた。


「なんだい、あれは。リナがどうかしたのかい?」


「気にするな、アルフ。いつもの病気だ。リナは今、修行に出かけていてね。レザリアは我慢していたが、ついにリナ成分が底をついたらしい。それを補給しに行ったというわけだ」


「……はあ。千年経った今でも、僕はエルフ族のことが理解できないよ」


「確かにエルフ族は不思議なところはあるが、あれは彼女特有のものだ。理解しようとするな、そういうものだと受け止めてやれ」


 のんびりと会話をする二人の話を聞きながら、カルデネはよろよろと立ち上がる。


「……失礼いたしました、妖精王様。それで、あの、お願いがございまして……」


「そうだったね。まずは椅子に座ってくれ、カルデネ。紅茶でいいかな?」


 返事をしながらカルデネは椅子に腰掛ける。アルフレードが作り出した紅茶をグリムはカルデネに差し出し、彼女に尋ねた。


「それで、カルデネ。なんだい、アルフにお願いごとって。あの家では話せないことなんだろう?」


 そう。お願いごとの内容についてはグリムも聞かされていなかった。カルデネは紅茶を受け取りながら、グリムに頷いてみせた。


「そう、なんだ。あのね、グリムはあの誠司様の手記を読んだよね。そして、妖精王様……私が前にお話しした、手記の内容を覚えておいででしょうか」


「……ああ。二十年ほど前にあった、エリスがその身を犠牲にした時の話だね。『支配の杖』を使い、特殊な状況を作り出したという」


「それです」


 カルデネは真っ直ぐに、アルフレードを見た。彼も真っ直ぐにカルデネの視線を受け止める。


 やがてカルデネは深く息を吸い、言葉を吐き出した。



「妖精王様。私に考えがございます。お願いです、どうか私めに、『支配の杖』をお預けください」



 アルフレードの眉がピクリと動いた。彼は部屋の隅に置いてある『支配の杖』を横目で見やり、カルデネに向き直る。


「……『支配の杖』、ね。聞かせてくれ、君の考えというやつを」


「はい、それは——」




 カルデネは語る。『支配の杖』を使い何をしようとしているのかを。


 やがて全てを聞き終えたアルフレードは、静かに目をつむった。



「——グリム。今の話を聞き、君は可能だと思うか?」


「……そうだね。結果はともかく、『実行』という点では可能だと思う。実例もあるしね。一つ確認だが……カルデネ。それはキミじゃなくて、誠司でもいいんじゃないか?」


 誠司。『魂』を切り裂く力を持つ能力者。だがカルデネは、首を横に振る。


「もしそこでセイジ様に何かがあったら、その時点で世界の敗北が決定してしまう。だから、私が行くよ」


 決意を込めた瞳で、カルデネはグリムを見つめる。グリムは息を吐き、アルフレードに向き直った。


「問題はその状況が作れるかどうかだが……私からもお願いだ、アルフ。結果は未知数だが、持ち得る手段は増やしておきたい」


「……そうか、分かったよ。ただ、条件がある」


 二人は、真剣な表情でアルフレードの言葉の続きを待つ。それを見た彼は、フッと息を吐き柔らかい笑みを浮かべた。


「——僕も参戦させてくれ。僕の『チート能力』を行使させてもらう。少しでも戦いの成功率を上げるためにね」


「……アルフ。キミのチート能力とは——」


 そのグリムの問いに、アルフレードは目を伏せる。


「なに、ささやかな『呪い』さ。その時まで楽しみに待っていてくれ」


「……まったくキミは、いつも勿体ぶるな」


「はは、よく言われるよ——」



 カルデネの作戦、アルフレードの決意、静かに最後の戦いへのピースは揃っていく。


 アルフレードはテーブルの紅茶を見つめ、心の中でつぶやいた。



(……ドメーニカ、ファウス……あっちで、会おうな)



 紅茶からわずかに立ち昇る揺らめきは、やがて消えていくのだった——。




 話もひと段落したところで、カルデネはグリムに尋ねた。


「ねえ、グリム。そういえばルネディたち、ここにいないんだね。今は何をしてるのかな」


「ああ、そういや言ってなかったね」


 グリムは少し口端を上げて、彼女に答えた。



「——彼女たちは各地で、避難する住民の護衛をしているよ。もちろん、『冒険者』として、ね」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
お、ついにアルフレードも参戦ですね 友を失い国を追われて罪の意識に苛まれ続けた1000年間… ドメーニカの物語のラスト見直したらちっちゃいダイズがいた! 前話と合わせて見ると彼の成長も感じる…すっか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ