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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
最終部 第一章
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「それぞれの」 04 —ポラナ、ダイズ—





 西の森内、エルフの里、レザリアの故郷である『月の集落』。


 そこを訪れたのは、レザリア、カルデネ、ポラナの三人。先頭に立って集落内を進んでいたレザリアは、目的の人物を見つけ声を掛けた。


「ダイズ、いて良かったです。まだここにいたのですね」


「これはこれはレザリアにお嬢様がた。ご無沙汰しております……というほど時間は経っておりませんが」


 物腰も柔らかく、うやうやしく礼をするのは旅エルフであるダイズだ。


 浅黒い肌、引き締まった肉体。見る者が見れば一目で強者とわかる佇まい。その彼の前にポラナは駆け足で出て、両膝をついた。


「ダイズさん! うち、あんたにお願いがあるんだけど!」


「……おや? あなたは確か、ポラナさんでしたね。洗脳が解けたようで何よりですが……あなたが私にお願いとは?」


 涼やかな笑みを浮かべながら、首を傾げて彼女を見るダイズ。その彼の細い目を真っ直ぐに見据えて、ポラナは両手を地面につけた。


「うちに戦い方、教えてください!」





 集落の隅、開けた場所でダイズとポラナは相対する。


 ダイズは長剣を抜き構え、ポラナに問いかけた。


「お嬢様。今のままでもあなたは十分に強い。そんなに焦らなくても、自己鍛錬でそれ相応の高みにはたどり着けますよ?」


「それじゃあダメなの! うち、早く強くならなきゃ!」


 ポラナも剣を抜き、構える。


「……なるほど、『大厄災』ですか。その戦いに、あなたも参加すると?」


「……そうだし。悪い?」


 返事をしながら、ポラナはジリジリと距離を詰めていく。ダイズは頬を緩め、彼女を眺めた。


「『大厄災』まで、約二か月。その期間では、大した成長は見込めませんよ? それほどまでにあなたの強さは成熟している」


「……それなりに自信はあったよ。でも、あんた相手にはまるで通用しなかった。うち、少しでも強くならなきゃ……!」


 ポラナは間合いを一気に詰め、斬り掛かった。それを軽くいなすダイズ。


「無理をせずに避難をしたらいかがでしょうか。命の保証のない戦いです。その選択をしても、誰も文句は言いませんよ?」


「逃げた先に何があるしっ!」


 ポラナの連撃がダイズを襲う。辺りに金属音が響き渡る——。


「あなたが罪の意識を感じているのは分かります。ですが、それを理由に死地に飛び込むというのは——」


「……違う!」


 金属音が、加速する。ダイズは腰をわずかに落とし、彼女の剣を受け続けた。


「うちが戦うのは! あのお人好しの家族のため! こんなうちに居場所をくれた……姉さんのためっ!」


「……ほう」


 ダイズの長剣のひと振りが、ポラナを大きく弾き飛ばした。ポラナは体勢を低くして踏みとどまる。


「姉さんとは、リナ殿のことでしょうか?」


「そうだ、悪いか!」


 薙ぎ払われたダイズの剣をポラナは刃で受け流し、踏み込んだ。


 そして必殺の一撃を放つ。


「——電光石火!」


「甘いですよ!」


 懐に飛び込むポラナ。一度その技を見ていたダイズは、短剣を抜き——



「なんちゃって」



 ——電光石火を受け止めるべく繰り出されたダイズの短剣は、空を切った。それはポラナのフェイント。彼女は剣の軌跡を変え、下から斬り上げた。


 その切先は、ダイズを捉え——



 カン



 小気味良い剣戟音が響いた。


 必殺のポラナの一撃は、後方に飛び退いたダイズの長剣に防がれてしまった。


 それを見たポラナは、一瞬にして距離を空ける。


「……くそっ、今のは決まったと思ったのに……」


「……いやいや、驚きましたよ。この前の反省点がしっかりと活かされてますね」


 ダイズは笑みを浮かべながらも、驚きの表情をその顔に見せていた。ポラナは舌なめずりをして、息を整える。


「当たり前だし。うちは、強くならなきゃいけないんだ」


「……なるほど。覚悟は、決まっているようですね」


 ダイズは剣を鞘に納めた。ポカンとするポラナの元へと彼は近づいていく。


「では、残り二か月の間、出来ることをいたしましょう。あなたの力も私の力も、何か役に立つかもしれませんからね」


「……え? もしかして、ダイズさんも戦いに……?」


 その問いにダイズは、頬を上げて答えた。


「当たり前でしょう。来たるべき世界の命運を賭けた戦い。私の剣が少しでもリナ殿のお役に立てるのであれば、これに勝る喜びはありませんよ。では、頑張りましょうか、ポラナ」


「……ありがとうございます、ダイズさん! お願いします!」


「はは。まずは基礎の見直しからですね。お嬢様の剣は、独学でしょうか、クセが強すぎる——」



 こうしてポラナは、旅エルフ・ダイズの元で稽古をつけてもらう。


 その様子を離れた場所で見守っていたレザリアは、小さくうなずきカルデネに声をかけた。


「——では、そろそろ私たちも行きましょうか。『妖精王』様の元へ」


「うん。よろしくね、レザリア」



 最後の戦いに向け、それぞれは動き出す。


 大きな決意を胸に、カルデネもまた歩き出すのだった。




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