エピローグ
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「——……そういうわけじゃ。リョウカはのう、彼奴を連れ去って、星の終わりへと旅立ったんじゃ」
皆は円になって座り、ジョヴェディの話に聞き入っていた。揺らめく焚き火が皆を照らし出す中、辺りが薄暗くなるまで彼の話は続いていた。
ジョヴェディの語った、リョウカの長い長い『運命』との戦い。
それを神妙な様子で聞いていた皆は、その壮絶な人生に言葉を発せないでいた。
「……ワシも全てを聞かされたのは、昨晩のことじゃ。彼奴は一人で抱え込んどってのう。のう、青髪。アルフレードの言っとった通り、『役目を終えた時』、概念的存在は消えるんじゃろう?」
「……ああ、そう言っていた。星の終わり、か……。確かにそこでなら、『最後の厄災』は破壊という目的を失い、消滅するだろうね」
沈黙の中、ポツリポツリと会話が交わされる。ところどころから、鼻を啜る音が聞こえてくる。
その話を聞きながら、ライラはうつむいていた。
あの『赤い世界』で拒絶してしまった莉奈。もしかしたら謝れたのかもしれないのに——その彼女は、ライラを置いて、旅立ってしまった。
そのように目を伏せるライラを見て、ジョヴェディは立ち上がった。
「して、ライラよ。リョウカからの預かりものじゃ」
「……私、に……?」
ライラは力なく立ち上がり、ジョヴェディの元へと向かった。ジョヴェディは懐から一冊の古ぼけたメモ帳を取り出し、ライラに手渡した。
「ライラに返しといて、と言うとったぞい」
「………………!!」
——リナ、嫌い!——
それは、あの日莉奈に投げつけてしまったライラのメモ帳。
そのメモ帳には、莉奈の文字で『ライラ、ごめんね』と記されていた。
ライラの瞳から涙が溢れ出す。そんなライラに、ジョヴェディは優しく語りかけた。
「ライラよ。めくってみい」
言われるがまま、ライラはメモ帳をめくった。
そこには——
古ぼけて掠れてしまっている、ライラの筆跡で書かれた、莉奈との思い出『リナはーれむ』の文字。
そしてそこには、あの素晴らしい日々を送る中でライラと莉奈が旅先で出会った、全ての人たちの名前が記されていた——。
「……リョウカはのう、時折りそれを見て、寂しそうに微笑んでおったぞい。『私の宝物だ』と、彼奴は言うとった」
「…………リナ!!」
メモ帳を抱え込んで、ライラはたまらず莉奈の胸に飛び込んだ。
困惑した莉奈だったが——彼女は優しくライラを受け止めた。
「……リナ、ごめんなさい、ごめんなさあいっ!!」
「……大丈夫だよ、ライラ。怒ってないよ、リョウカは、きっと。ライラが笑っているのが、私たちの一番の幸せなんだ」
莉奈は優しく、ライラの背中を撫で続けた。その様子を目を細めながら見守ったジョヴェディは、改めて皆に向き直った。
「さて、ここからが本題じゃ。恐らく未曾有の『大厄災』が、のちに現れる」
その言葉を受け、誠司が呻く。
「……ドメーニカの『発芽』……か。ジョヴェディ、千年前の『滅びの女神』は、本当に現れるのか?」
「ワシにはわからん。そこでじゃ、青髪。本来ならリョウカがお主に直接手渡したかったと言うとった、未来のお主からの、預かりものじゃ」
「……私が、私にか?」
ジョヴェディはグリムの元にいき、分厚いメモ帳を手渡す。
「ワシには何が書いてあるのかサッパリわからんかったが、ここには『全て』が記されていると言っとったぞい」
「……これは!」
グリムの顔つきが変わった。そのメモ帳には、元の世界のアルファベットや数字、記号が全ページに渡りびっしりと書き込まれていた。
横から覗き込んだ誠司が、不思議そうな顔をする。
「なんだね、これは。意味のない文字列に見えるが……」
グリムは大きく目を開きながら、ページをめくる手を止めずに答えた。
「……誠司……これは『データパッケージ』だ。書かれているのはBase64……ペイロードと言ってだな……」
「……どういうことかね?」
「……つまり……」
やがて最後のページを読み終えたグリムは、メモ帳を掲げた。
「ここには、『赤い世界』で五年のうちに私が観測した『全て』が記されている。『滅びの女神』も『天使像』も、そしてそこで何が起き、どうなったのかも、文字通り、全てがだ」
グリムは皆を見渡し、真剣な表情で告げる。
「そして、今、全てのデータは、私に『引き継がれた』。皆、リョウカの想い……絶対に、無駄にしないぞ——」
来たるべき最終決戦。グリムは瞬き始めた星を見据え、心に誓った。
(……リョウカ……キミと話したかったよ。キミの遺志は、私が、必ず……)
——最後の戦いを控え、果たして『運命』はどのような色を見せるのか——
——それはまだ、誰にも分からない——。
お読みいただきありがとうございます。
これにて第八部完。明後日(9/5)より隔日で、
「ライラと『私』の物語 最終部」の投稿を開始いたします。
活動報告に「第八部のあとがき的な何か」をアップいたしますので、お時間のある方は是非。
いよいよ最終部、最後までお付き合いいただけると幸いです。よろしくお願いします。




