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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第八部 第六章
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終着点 02 —『運命』は嘲笑う—






 アルフさんのところへと向かったジョヴ爺を見送った私は、『魔女の家』へと飛び向かう。


 目的は、グリムに接触すること。そして、今の『私』たちの動向を探るためだ。グリムに接触するとしても、『分岐点』を乗り越えた今、誠司さんや『私』に正体を知られたくはない。


 今となっては私は、あの家族にとって異物でしかないのだから。


 魔法国からこの家までは、馬車で一週間以上かかる。さすがにまだ帰り着いていないだろうけど——ヘザーのバッグで誰かが先に帰り着いているということもあり得る。


 近くまで来た私は、慎重に、魔女の家へと意識を飛ばした。


 そこにはテーブルを囲んでいるカルデネ、グリム、そして——



「……ん? どうしたの、レザリア。急に立ち上がっちゃって」


「いえ。今、確かにリナの気配が」


「いや。莉奈は今『万年氷穴』を出て、私の端末と共にブリクセンに向かっている最中だが——」



 ——私は急いで意識を遮断する。なんだアレ、能力持ちか!?


 レザリアに私の正体はバレたくない。絶対に厄介なことになる。


 どうやら近くに『私』というデコイがいる時でないと、彼女のそばに近づくことはおろか、意識を飛ばすのも難しそうだ。


 しかし、運良く情報は得られた。『私』たちは今、なぜかブリクセン方面にいるらしい。


(……なぜだろう……ブリクセン……万年氷穴……って、まさか)


 『運命』の見えなくなった私はその予感めいたものを確かめるために、万年氷穴へと飛び向かった。






 二日後、私は『万年氷穴』の近くに降り立った。


 誠司さんたちがここを訪れた理由。もしかしたら私が坑道内で見た、あの『エリスさん』に関係しているんじゃないかと思ったからだ。


 私は意識を、例の小部屋へと飛ばして見た。


 そこには。


 グリムと氷人族の長老が話し合っている姿があった。そして、あの『エリスさん』の姿は、部屋にはない。


(……どういうこと……?)


 私は会話を聞き取ろうと、意識を集中させ——



「…………!!」



 ——その時、私は気づいた。俯瞰視点で飛ばしていた意識、万年氷穴の山頂に、たたずむヘザーの姿があることに。


(……もしかして誠司さんたち、戻ってきた!?)


 私は慌てて『空間跳躍』し、その場から逃げ出す——。



 ——これは後でジョヴ爺から聞いた話だが、どうやらあの時点でのヘザーの中身は彗丈さんだったらしい。


 『運命』が見えなくなった途端、これだ。私は『運命』に遊ばれている感覚に陥りながら、遠くへと飛び続けた——。






「……はあ。上手くいかないなあ……」


 私の目的はただ、誠司さんの探知範囲を避けつつ、ところどころにいるグリムの端末のどれかに接触するだけなのに。


 『運命』こそ見えなくなったが、この一連の流れが『運命』に邪魔されているのはわかる。今はまだ、その時ではないのか?


「……確か、『滅びの女神』の顕現、そして『大厄災』の発生は来年の二月だったよなあ……」


 歴史通りに進めば、二月上旬の満月の夜、あの『大厄災』は発生する。今は十月の上旬。若干の猶予はあるけど——できるだけ早く、グリムに預かり物を返したい。


「……とりあえず、そのドメーニカが封印されてるっていう『種』の様子でも確認しておくか」


 今はグリムと接触しようにも、何をやってもダメなような気がする。


 私は魔法国跡地へと飛び立つ。そこで私が目にしたものは、私の記憶にない、とんでもない光景だった。







「……なによ、これ……」


 魔法国を中心に渦巻く炎。熱波は舞い上がり、炎の風が吹き荒んでいた。


 知らない。また私の知らない未来が、私の目の前に現れた。


 これは、歴史通りなのか? 私は『赤い世界』の記憶を呼び覚ますが、いや、絶対にない。こんなことが起こっていたのだとしたら、嫌でも耳に入ってきていたはずだ。


 私は炎の中心部へと意識を伸ばしていく。


 そこにあったのは——



「……なんで……」



 ——胃液が逆流しそうになり、私は口を押さえる。


 何故ならそこには。『赤い世界』で私の大切な人たちを奪っていった『天使像』。その存在が、炎の中心で微笑みを浮かべていたからだ。


 私は震える身体を奮い立たせ、『空間跳躍』で退避する。なぜ、こんなにも早く——分からない。


 いや、あの時の『天使像』は六体いたはずだ。今見えたのは一体。しかも、あの世界で『天使像』が使わなかった、『炎』の力を使っている。



「……まさか」



 私は思い出す、誠司さんの手記を。


 あれはまさしく、手記に記されていた「『厄災』ドメーニカ」と呼ばれていた存在、そのものではないか。


 だとしたら。手記に書かれている内容が真実だとしたら。



 ——あれには、一切の攻撃が、通用しない。



「……………………」



 世界が『赤い世界』に傾いていくのが感じられる。それは『運命』の囁きか、私の心の叫びなのかは分からないけど。



 私は絶望に打ちひしがれながら、ただ『終焉の炎』を眺めることしかできなかった——。





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