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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第八部 第六章
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終着点 01 —存在意義—






 決定的な『運命の分岐点』。あれから、数日が経った。



 目的を失い、岩に背を預けながら私は虚空を見つめる。そんな私の元に、彼は降り立った。


「どうした、リョウカ。『運命の分岐点』は、無事に乗り越えられたのか?」


「……ジョヴ爺……アルフさんのところに向かったんじゃ……?」


「……フン。『運命の分岐点』を越えたら、ここで待っておると言ったじゃろう」


 ジョヴ爺は私の隣に腰を下ろす。


「聞かせい、リョウカよ。何が、あった?」


「……うん」



 私はジョヴ爺に、あの場で起こったことを話した。『運命の分岐点』に、私が必要なかったことを——。



「……ふふ。私ね、この世界の『私』に『私は路傍の石だ』って言ったことがあるんだ。そう思っていた。でも、なんだろうね。覚悟はできていたのに、いざ世界に否定されたら、私の存在ってなんだったんだろうって……」


 視界がぼやける。『運命』の見えなくなった今、もはや私に存在する価値はないと世界に突き放されたようで。


 私の話を黙って聞いていたジョヴ爺だったけど、やがて大袈裟に息をついた。


「……フン。随分と傲慢じゃのう。ワシをあまり、がっかりさせんでくれ」


「……え?」


 私は顔を上げ、ジョヴ爺を見る。


「お主のしてきたこと、そしてその苦労はこの二か月の間に聞かせてもらった。ワシはその行為を尊敬していたし、『美しい』とも感じておった」


「……ジョヴ爺」


「しかし、どうじゃ。お主が死ぬ気で道を整備してきたから『運命の分岐点』とやらを越えられたというのに、ただ『自分が介入できなかった』から、存在がどうのじゃと? なんじゃ、お主は。神にでもなったつもりか」


「………………」


 私は言葉を、返せない。そうだ、結果的に『運命の分岐点』を越えられたから、それは良かったはずなのに——ジョヴ爺の言う通り、私は傲慢なのかもしれない。


「……私ね、誠司さんたちだけじゃない。あの『赤い世界』で裏切ったライラも助けたかったんだ。でも、ライラは一人でもなんとかしてみせた。私は、ダメなお姉ちゃんだ」


「……リョウカよ。一つ、問う」


 私はうつむいたまま、聞く。


「青髪が言っとったんじゃろう? お主は最初からやり直す必要があったのだと。もし、お主がこの世界にいなかった場合……或いは、お主が道を外していた場合……ライラが戻ってくる場所は、どうなっておった?」


 考える。少なくとも今いるこの世界が、私が失敗して『赤い世界』へと進んでいた場合——。


「……ライラが帰ってくる場所は、どこにもなかった」


「そうじゃ。ワシはあの青髪ほど頭は良くない。じゃがな、こう思うんじゃ——」


 ジョヴ爺は、私の頭を撫でた。


「——お主が道を整備し、そしてあの『運命の分岐点』でお主がライラのやり遂げるのを見届ける……まあ、あの青髪の言いそうな言葉だと『観測』することこそが、『白い世界』への道だったのではないか?」


 私は顔を上げた。ジョヴ爺は優しく微笑んでいた。


「安心せえ。お主のおかげで『運命の分岐点』とやらは越えられた。そして、お主のしたことはちゃんとワシが覚えておる」


「……ジョヴ爺!」


 私は彼の胸に飛び込み、泣いた。ジョヴ爺は私の背中を、優しくさすってくれた。


 そのぬくもりを感じ、私は、甘え、ぐずり、照れ隠す。


「……もう。女の子の身体に勝手に触ったら、セクハラになるんだからね」


「……お主が勝手に飛び込んできたんじゃろう……」


「……ふふ。ごめんね、ジョヴ爺。でも私ね、年寄りは恋愛対象外なんだ」


「ククッ、言う言う。安心せい、ワシもケツの青いガキなぞ、こちらから願い下げじゃ」


「……まったく、ツンデレ爺なんだから」


「フン、デレた覚えはない。五百年後に出直してこい——」



 ふふ。会話の内容はともかくとして——仲の良いお爺ちゃんってこんな感じなのかなあ——。



 私は薄暗くなりゆく夕闇の中、ジョヴ爺の優しさに甘えるのだった。







 私は夜営の料理をジョヴ爺と食べながら、彼と会話をしていた。


「して、リョウカよ。これで『白い世界』を迎えられたわけではないのじゃろう?」


「……うん、多分。この後……数ヶ月後くらいに、もしかしたらこの世界に最大の危機が訪れることになる」


 ジョヴ爺の眉が上がる。どこまで話していいのだろう。『運命』の見えなくなった私には、それがわからない。


「……世界か。何が起こるんじゃ?」


「……そうだねえ……ねえ、ジョヴ爺。アルフさんのところに行くんでしょ?」


「ああ、そうじゃな。なんじゃ、彼奴が知っておるのか?」


「……一応、まだ私の口からは言わないでおく。未来は変わっているかもしれないし。ただね、アルフさんにはルネディが私の正体を言ってあるはずだから、私の名前を出せば教えてくれると思う。彼にこう聞いてみて——」


 私は、『赤い世界』を滅びに導いた、あの強大な存在を思い返す。



「——千年前の話を、聞かせてくれって——」



 千年前、ドメーニカのチート能力によって現れた『滅びの女神』。


 この世界線ではどのような道をたどるのか分からないが——少なくともヘクトールが『発芽』へと導いた以上、無対策で済む存在ではない。


(……私も、グリムに会わなきゃ……)


 私はグリムから預かったものを確認し、パチパチと燃える焚き火を眺め続けた。





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