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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第八部 第五章
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『リョウカ』の物語 25 —トロア流迎撃戦【裏】—





 『魔女狩り』当日、ケルワン、早朝——。



 皆が集まり、最後の打ち合わせをしている。


 セレスさんにマッケマッケさん。ジュリさんにボッズさん——。


 こちらも精鋭が揃っているが、相手は骸骨兵も含めると一万二千の大軍だ。


 でも、問題ない。こちらにはマルティに氷竜のサンカ。


 そして、私とグリムがいるのだから——。




「——このケルワンが一番、呆気なく終わるだろう。頼んだぞ、マルテディ」


「はいっ!」


 グリムの呼びかけに、マルティが気合いを入れて返事をする。


 続けてグリムは、壁にもたれかかって座っている私に、声をかけた。



「——そして、頼んだぞ。リョウカ」



 彼女の呼びかけを受け、私は立ち上がった。


 事前に打ち合わせはしてある。この戦、私が先陣を切る。


『ああ、任せてくれ。君たちは何の心配もしなくていい』


 私はみんなに声を飛ばした。グリムは私の腰の辺りに視線をやっていた。誠司さんの形見の太刀だ。彼女なら既に、私の正体に気づいているだろう


「それにしても助かったよ。キミが来てくれて。でも、キミは……」


『——……うん。多分、あなたの思っている通り。全てが無事に終わったら、必ず全部話すから……』


 何かを言いたげなグリムの言葉を遮って、私はグリムにだけ素の声を飛ばした。彼女はフッと、頬を緩めた。


「……ああ、わかった。頼らせてもらうよ、『リョウカ』。さて……」


 グリムは敵軍が動き出す様子を眺めながら、私に語りかける。


「とりあえずここは大丈夫だろう。問題は『南』だな……リョウカ、本当に大丈夫なのかい?」


『はは。あそこには『対軍最強の人物』が向かっている。もうすぐ着くはずだよ——』


 ジョヴ爺は必ず現れるはずだ。私は肩を鳴らしながら、確信を持ってみんなに告げた。



『——『運命』がそう、言っているからね』







 時計の針は、午前六時を指した。開戦の時間だ。


 グリムはマルティに呼びかけた。


「マルテディ」


「はい!」



 私は敵大将のいる場所へと意識を集中させる。そこでは今まさに、敵国の将、『武人』アキナスが号令を下すところだった。


「——全軍、突撃……」



 その時、瞬く間に敵軍の地面を砂が覆った。


 柔らかい砂。ろくに身動きが取れないだろう。突然の出来事に、アキナスは狼狽した様子を見せていた。


「……ヘルタ殿、なんだこれは!」


「……砂……まさか『厄災』!? 噂は本当だったというのか……?」


「どういうことだ!」


 アキナスという人は、怒声を上げる。さあ、私の出番だ。



 私は一瞬にして、彼の背後に『空間跳躍』した。



 私の姿を見たであろうヘルタという女性は、驚きのあまり固まってしまっていた。


 無理もない。『武人』アキナスとかいう人の首は、すでに私が落としたのだから。


「……くっ!」


 彼女はすぐに我に返り、剣を抜き構えようとする。


 でも残念。あなたでは私の相手にならない。


「……ぁ……れ?」


 私は無慈悲に、彼女の首を落とした。これで大将首、二つ。



 血を払い太刀を鞘に収め、私はヘルタという人の亡骸から指輪を抜き取る。骸骨兵を操作している指輪だ。


 周りの兵士たちは、茫然としたまま動かない。そんな兵士たちをよそに、私は指輪を掲げ、骸骨兵に命令を下した。



『——取り囲め』



 その言葉を合図に、骸骨兵がロゴール軍を取り囲み始めた。作戦通りだ。あとは私が、『私』のフリをすればいい。


 斬りかかってきた兵士を『空間跳躍』でかわし、私は空に立つ。


 そのタイミングで、竜の姿のままのサンカが兵士たちの上空を通過した。驚き空を見上げる兵士たち。


 彼らは知っているはずだ。今や大陸でも歌われている、『白い燕の叙事詩』を。竜を倒し、『厄災』をも従えている『私』の歌を。


 悠々と宙を羽ばたくサンカ。私は赤いマントを風にたなびかせながら、二つの首を掲げ、素の声を皆に響き渡らせた。



『——私は『白い燕』。見ての通り、あなた達の将の首は討ちとった。そこで提案。素直に降伏するか、それとも最後まで歯向かうか、好きな方を選びなさい』



 やがて。


 私の声を聞いた兵士たちが、次々と武器を捨てる。それは周囲に波及していき——結局、その場にいるロゴール軍、全ての兵たちが武器を捨ててくれた。



 ふう、終わった。私はサンカに男の声を飛ばした。


『ではすまない、サンカ。骸骨兵の処理を、よろしく頼むよ』


『う、うん……でも、なんで私の名前……それに、あなたの匂い……』


 ふふ、そっか。サンカには匂いでバレちゃうか。私は鼻のあたりに指を当て、仮面の下で悪戯っぽい笑みを浮かべた。


『じゃあ、よろしく。サンカ、元気でね』


『……あ……』


 サンカに素の声を届け——私は皆に首尾を報告するために、ケルワンの街へと戻るのだった。







 ケルワンでは呆気に取られた表情で、みんなが私を出迎えた。


 私は敵将の首を地面に置き、皆の頭の中に声を届けた。


『ご覧の通り、仕事は終えた。では私は、失礼させてもらうよ』


 みんな、無言だ。そんな中、グリムが呻くように声を出した。


「……リョウカ……キミは……」


 何かを言いたそうだったが、彼女は口をつぐみ、かぶりを振った。いろいろ聞きたいことはあるだろうけど、もうちょっとだけ待っててね。


 私はみんなに、背を向けた。


『すまない。『運命の分岐点』まで、もう時間がないんだ。じゃあ——』


 私は少しだけ振り返り、グリムの方を向く。全てが上手くいった時、それは私の正体がみんなにバレる時だ。今さら隠す意味合いも薄いだろう。



『——……行ってくるね』



 私はグリムに、素の声で別れを告げた。さあ、急ぐぞ、私。私は魔法国へ向けて、『空間跳躍』を開始した——。






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