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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第八部 第五章
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『リョウカ』の物語 18 —国家転覆の一大事【裏】—





 ——『厄災』ジョヴェディ。稀代の魔法使い。



 これからこの世界の『私』は、その彼と死闘を繰り広げることになる。


 私のサポートが必須条件ではあるのだが、『私』の持つ運命力に加え、あのグリムが本気で相手をするのだ。戦闘自体の『運命』の揺らぎは少ない。


 ただ、問題はその先だ。彼を懐柔しない未来。『魔女狩り』戦において魔力切れを起こしたビオラが落下し、大怪我を負ってしまう。


 そしてその後、はっきりとした因果は分からないが——世界は赤い世界への道へと進んでしまう。


 彗丈さんやヘクトールの生存と同じだ。『運命の分岐点』を越えた先、私の知らない未来に、ジョヴェディやビオラの存在は必要なのかもしれない。


 ——私は、フライトで辿った時間分しか、運命を観測できていない。


(……ねえ、『運命』。白い世界は、本当にあるんだよね?)


 ルネディたちはもちろん、ジョヴェディの復活までならまだしも。更にはヴェネルディやサーバトの復活ですら『白い世界』への必須条件だというのか。


 私は『厄災』を復活させているであろう張本人、彗丈さんの様子を確認するために、ブリクセンへと飛んだ——。






「……はは……あはははは! 誠司ぃ、君のリクエスト通り、次はジョヴェディだ。負けるんじゃないぞ!」


 部屋の中で高笑いをする彗丈さんを見て、私は戦慄する。


 私の義足を調整してくれた彼からは、とても想像できない様相を呈していたからだ。


(……もしかして……『代償』?)


 彼が『厄災』を復活させている方法。それはおそらく、世界の理を超えた力、チート能力だろう。


 そしてチート能力には、『代償』がつきまとう。私の『あの素晴らしい日を(フライト)』もそうだ。能力を行使するにあたって、代償を支払わなければならない。


(……誠司さんの『死に戻り』は多分、『死ぬことそのもの』が代償。彼の場合は……)


 私はそっと、目を伏せる。


 彼の代償は、『倫理観』、あるいは『人間性』ということも——。


 意識を閉じた私は、やり切れない想いを抱いてこの地を後にした。







「いらっしゃい、リョウカ! 最近、よく来るね。嬉しいなあ」


 ——ここはサラの部屋。夕方近くになり公務を終えた彼女の部屋に、私はお邪魔した。


 彼女の言う通り、最近の私はちょくちょく彼女の部屋にお邪魔していた。


 それは、そう——全ては今日という日のため。今日、この後、『厄災』ジョヴェディはサラの前に現れる。


 私は仮面をつけたまま、まずは彼女にだけ聞こえるように声を届けた。


『サラ、ごめん。今日は仮面をつけたままで失礼。合わせてくれると嬉しいな』


 その私の言葉を聞いたサラは、表情を変えずに頷いた。聡明な彼女は、ある程度私の意図を察してくれたのだろう。


 ——今日、何か、ある。


 サラは、私に未来について尋ねることはなかった。彼女も理解しているのだろう、未来を聞けば歴史が変わってしまうということを。


 私たちは普段通り、日常の会話をする。私は『リョウカ』としての男性の声を作り上げて会話をする。サラに対しては久しぶりだ。


 と同時に、私はこの部屋にいる者を対象にして声を飛ばしていた。まだジョヴェディは訪れてはいないようだが、彼は姿を隠した分身体をこの部屋に寄越すはずだ。



 他愛もない会話は、続く。



 今日は、この世界の『私』がこの城に訪れる。そして、対ジョヴェディ攻略戦をみんなで話し合う日だ。



 『私』が、城に到着する。



 それを飛ばした意識で確認した私は、話題を『白い燕』への話に切り替えた。


『しかし、破竹の勢いだね、『白い燕』は。先の火竜戦で一緒に戦ったけど、素晴らしい活躍を見せていたよ』


「聞いた、聞いたよ! 女王竜とかいう特殊個体倒しちゃったんでしょ? 燕さん、すごいなあ!」



 私は、警戒しながら会話を続ける。



「それでね、サイモンに『三つ星より上のランクにしてあげなよ』ってお願いしといたんだ。ねえねえ、三つ星の上だとどんな名前になるのかな?」


『はは。キラキラ星なんてどうだい?』


「えー。却下」



 この部屋に、別の者の気配を感じる。



『しかし、英雄『白い燕』か。彼女がいれば、この国は安泰だな。もしかしたらジョヴェディもチョチョイのチョイなんじゃないかな?』


「そんなに強いんだ!」



 その時、老人の声が部屋に鳴り響いた。



『——フン。王の命をとって焚きつけてやろうとやってきてみれば、随分と面白い話が聞けた。どれ、貴様らの始末が済んだら、ワシが一つ、その燕とやらの実力を見に行ってやろうか』



 ——かかった。私は仮面の下、ほくそ笑む。



『……誰だ』


 私はサラを庇うように、ゆっくりと立ち上がる。その老人の声は、鼻を鳴らして続けた。


『フン。エリスはまだか? 待ちくたびれてしまってのう。少し急かしに来ただけじゃ』


「……あなた、ジョヴェディね。一か月待ってくれるって話じゃなかったっけ?」


『……ククッ。待つとは言ったが、大人しく待つとは言っておらん』


 サラの言葉を受け流し、直後、周囲に魔力が満ちていく——。



 でもね、ジョヴェディ。声をあなたにも飛ばしている私には、姿を隠していても場所が分かるんだ。


 私は、彼に、声を飛ばす。


『ちょうどいい。白い燕は今、この城に来ている。行って、やられてくるがいい』




 —— 斬




 ジョヴェディのいる場所を、私は『空間跳躍』で斬り抜けた。手応え、あり。


 やがて姿を現したジョヴェディは、忌々しげな目で私を睨む。


「……グッ……なぜ……」


『言っておくが、『白い燕』は相当なものだぞ? まあ、自分の目で確かめてみることだな』


 やがてジョヴェディの分身体は、床に崩れ落ち消滅した。



 よし、これで『私』にヘイトが向かい、ジョヴェディは『私』を攻撃するはずだ。


 ごめんね、『私』。少し痛いけど、頑張ってね。




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