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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第八部 第五章
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『リョウカ』の物語 17 —白い燕の叙事詩【裏】②—





 満月の下、女王竜を『影』で引きずりながら、この一帯に残された腐毒花を焼却していく——。


 ようやく落ち着いた。私は定期的に女王竜の逆鱗を傷つけ、炎を吐き出させていく。


 そのインターバルの間、『私』と『厄災』たちは親睦を深めていた。彼女たちだけの時間。私はその光景を眺めながら、仮面の下、微笑みを浮かべる。



 こうして三十分ほどかけて、私たちはこの辺一帯の腐毒花を焼き尽くした。あとは——。


『——さあ、終わりにしよう。君達四人で、女王竜を倒すんだ』


 私の声を聞いた『厄災』たちは頷き合う。『私』だけがキョトンとした表情を浮かべていた。


「じゃあ、戻すね」


 マルティはそう言い、高さを抑えていた砂の巨像を元の大きさに戻し始めた。


「逆鱗を固定するわ」


 ルネディはそう言い、女王竜の顔まで影で包み込み、逆鱗の場所だけぽっかりと影を避ける。


「リナちゃん、『防寒魔法』かかってる?」


「え? うん、空を飛ぶ時はかけてるけど……」


「じゃあ、だいじょうぶだね」


 メルはそう言い、指を回した。困惑する『私』。この後の展開を知っている私は、苦笑いするしかなかった。


 次の瞬間、『私』は氷に閉じ込められた。中は空洞になっているので大丈夫ではあるのだが。


 作り上げられた、先の鋭く尖った大きな氷柱。それを砂の巨像が、肩に担いで振りかぶる。



 そして砂の巨像は氷柱を——逆鱗目掛けて全力で投げた。



 逆鱗目掛けて真っ直ぐに飛ぶ氷柱。『厄災』たちが叫ぶ。


「いっけええぇぇーーっっ!!」


 中に入っている『私』の、悲痛な叫び声が響く。


「ちょっと待ってえ! 私の入っている意味はぁーーっ!?」


 よく聞こえないが、確かそんなことを叫んでいたはずだ。ふふ、お疲れ様。さあ、フィニッシュだよ。



 投げられた氷柱が、女王竜を貫いた。その貫いた先から、白い光をまとった『私』が飛び出してくる。



 夜空を流れる、ひと筋の白い光。



 その光景をしっかりと見つめる『歌姫』クラリスの姿が、はっきりと私の意識に映し出された。



 ——よし、『運命』は、確定した。


  『白い燕の叙事詩』、五番までの、完成だ——。







「お疲れえー……」


 彼女はフラフラとしながら、地面にいる私たちのところへ降りてきた。私は彼女に、頭を下げる。


『ありがとう、莉奈。君のおかげで、無事、女王竜を倒せたよ』


「……はは。なんで私がとどめを刺した感じになっちゃってるわけ……?」


『君と彼女たちが協力する絵面を『歌姫』に見せることで、彼女たちはこの地で過ごしやすくなるだろう。敵の敵は味方、ではなく、しっかりと私たちと手を取り合った姿を見せたかったんだ。まあ、また君は英雄視されてしまうだろうけどね』


「……くっ、なるほど。まあ、みんなの為になるなら……いっか」


 事前にマルティには、『この世界の『私』のために、女王竜のとどめの際に彼女を絡めてやってくれ』とお願いしておいた。


 新しい『白い燕の叙事詩』のために、彼女を祭り上げてくれと。それを快く了承したマルティは、ご覧の通り上手くやってくれた。


 そういった側面もあるんだけど——彼女たちの心象を上げるという目的も本当だ。彼女たちは『魔女狩り』戦の時に、人々と手を取り合うのだから——。


「……それで『義足の剣士』さん」


『なんだい?』


「力になってくれて、ありがとうございました。最後に名前くらい、教えてもらえますか? 呼びづらくって……」


 彼女の問いに、私は寂しく笑う。あのね、私は『菱華 莉奈』。あなたが——私が捨てた名を、取り戻した存在なんだよ。


『——名乗るほどの名は持ち合わせてないよ。私は『私』だ。世界の味方の、ただの路傍の石だよ』


「……はあ……それすらも教えてくれないんですね……」


 『私』は力なくその場に座り込む。クラリスの歌の効果が切れたのだろう。これから彼女は、数日間寝込むことになる。


 メルたちの心配する声に、微睡みながら応える彼女。


 そして——


「……ルネディも、マルティも……みんな、ありがとね。みんながいたから、上手くいった。今度、絶対、絶対に、お茶しようねえ……」


 そう言い終わって、『私』は意識を手放し地面に倒れ込んだ。大丈夫、眠っただけだ。


 ルネディは息を吐き、私の方に向き直った。


「名前……ね。あなたの本当の名前を知ったら、彼女、どんな反応するのかしら」


『……さあね。ま、彼女が私の名前を知ることが無いよう、せいぜい祈るよ』


 そう。私の名前を彼女が知る時は、きっと彼女が『赤い世界』へと進んでしまった時だ。


 私はこの世界にとって『夢のような存在』。自分から彼女に明かすことはないだろう。


「……難儀なものね」


 ルネディのつぶやきは、夜の荒野を流れていくのだった——。





 遠くに人を背に乗せた馬が歩いてくるのが見えた。アオカゲだ。私は彼女たちに別れの言葉を告げた。


『さあ、彼に任せたら、私はおいとますることにする。君たちはこの後、どうするんだい?』


 その言葉に彼女たちは頷きあった。


「そうね。リナを送り届けたら……私たちね、残った腐毒花を氷漬けにして回ることにしたの。そうすれば瘴気も収まるから、人たちの手で処理しやすくなるでしょ?」


『それは助かるな……でも、危険だぞ? 腐毒花の瘴気は、君達にも効果があるのだから』


「ふふ。私が止めても、マルティもメルも頑張っちゃうんでしょ?」


 ルネディが二人に微笑む。マルティはモジモジしながら、彼女に答えた。


「うん。罪滅ぼしがしたいから……」


「そうだよね。もし、わたし達が操られているんだとしたら、その前に何か役に立たなきゃ!」


 フンスと気合いを入れるメル。私は彼女の頭を、優しく撫でた。


『その心配はしなくていいよ。少なくとも、しばらくの間は』


 そう。少なくとも私の経験した未来では、最期の時まで彼女たちは彼女たちであり続けた。彗丈さんの能力がどんなものなのかは分からないけど、あの『運命の分岐点』までは絶対に大丈夫なはずだ。




 アオカゲが鳴き声を上げ、クラリスを背負って近寄ってきた。懐かしいなあ。私はアオカゲを、手を広げて出迎える。


 アオカゲは一瞬立ち止まったが——すぐに私に顔をすり寄せてきた。私はそれを受け止め、アオカゲの首を撫でる。


 彼は賢い。きっと私のことも私たちの言葉も、『理解』しているんだろうなあ。



 私は地面に横たわっている『私』を担ぎ上げた。誠司さんが度々やっていた、ファイヤーマンズキャリーという担ぎ方だ。


 そしてクラリスと『私』の二人を落ちないように縛り付けて、アオカゲに優しく語りかけた。


『では、君も疲れているだろうがアオカゲ、二人を街までよろしく頼んだよ』


「ヒヒーン……」


 名残惜しそうに去っていくアオカゲ。『厄災』たちも後を追って歩き出した。私は彼女たちの後ろ姿を見送った。


「じゃあねー、また!」


 メルが元気に叫ぶ。その三人に手を振って——私は『空間跳躍』で、移動をした。




 さあ、次は難敵『ジョヴェディ』戦だ。彼を追い詰め、倒し、救い、デレさせる。


 『私』との直接的な接点は少ないが——私と『私』の共闘は、まだまだ続きそうだ。







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