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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第八部 第五章
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『リョウカ』の物語 16 —白い燕の叙事詩【裏】①—





 彼女は——『私』は頑張っていた。


 クラリスの歌の効果で疲労は軽減されているとはいえ、ここまで集中して飛び回り続けているのだ。精神的な摩耗は計り知れないだろう。


 彼女はギリギリを攻め、腐毒花の瘴気スレスレを滑空する。彼女の水筒に入っている『解毒薬』が生命線だ。気持ちはわかるけど、あまり無理はしないように。


『慎重にいけ、莉奈……おっと、コイツは無理だな』


 私は力尽きて群れから離れようとする火竜の首を、『空間跳躍』で斬り落とす。


 できるだけサポートしてあげなきゃ。火竜の群れの注意を引きつけられるように、私は『空間跳躍』で飛び回って逆鱗を傷つけていく。


 彼女も私に負けてはいない。隙を見計らって女王竜の逆鱗を——



 ——飛来一閃



 ——傷つけ、その注意を一身に引き受けているのだ。


 このように女王竜たちの注意を引きつけながら、彼女と私は大地に広がる腐毒花を焼いて回るのだった——。







 あれから数時間。もう深夜近くなるが、『腐毒花焼却作戦』はまだまだ続いていた。


 そろそろか。水筒の『解毒薬』を飲み干した『私』は、申し訳なさそうな顔を浮かべた。


「……ごめん『義足の剣士』さん。解毒薬、無くなっちゃったや」


 大丈夫、心配しないで。『解毒薬』は念の為、たくさん用意してきたから。


『莉奈、解毒薬の入った水筒だ。受け取りなさい』


「おわっ!」


 私は彼女の目の前に跳躍し、水筒を手渡して重力に身を任せる。


 そして次の瞬間、私は女王竜の背中に『空間跳躍』した。彼女は口を尖らせながらも、私に礼を述べた。


「びっくりさせないでよ、もう……でも、ありがとう!」


『気にするな。さあ、そろそろ右方向に旋回、砂の城を目指すぞ』


 いよいよ仕上げだ。ここまでは順調、『運命』通りに事は運んでいる。


 腐毒花の群生箇所が、トロア地方中央南部でも東寄りなのが幸いだった。


 今回の件が全て無事に終われば、人と『厄災』たちが手を取り合うことになり、次のステージへと『運命』が動き出す。


 そろそろ次の炎が来る。女王竜が吐き出す『希望への道しるべ』。


 彼女は女王竜を誘導し、次の場所へと誘い出すのであった——。









 ——焼き尽くす、焼き尽くす、焼き尽くす


   大地を、瘴気を、腐毒花を——。




 更にあれから数時間。腐毒花を焼き払いながら、彼女は飛び続けていた。歌の効果で肉体的な疲労は大丈夫そうだが、それでも注意力が落ちているのは側から見て感じ取れていた。


 そして、私たちの後を追ってきているクラリス。彼女はもう、半日近く歌い続けている。私にとって懐かしの愛馬、アオカゲの体力も心配だ。二人とも、よくついて来てくれた。


 もうすぐだ。あともう少しで、『運命』は確定する。




 そして私たちは、この目的の終着点である砂の城があった場所へと到着した。


「な、な、なにアレ!」


 『私』が素っ頓狂な声を上げる。そっか、あなたは見るの初めてなんだよね。


『見ての通り、砂の巨像だよ。マルティが作ったんだろうね』


「いやいやいや、大きすぎるでしょ!」


 そびえ立つ砂の巨像。その足元には、腐毒花が咲き誇っている。彼女はその巨像の肩に乗る三人の姿を見つけたらしく、笑顔を浮かべながら飛び向かった。


「リナさん!」


「リナちゃん!」


 三人とはもちろん、『厄災』のみんなのことだ。彼女たちは『私』との再会を懐かしむ。


「ルネディ! 秘訣!」


「ごきげんよう、リナ……って、いきなり何かしら?」


「今度会ったら教えてくれるって言ったじゃん! 胸が大きくなる秘訣!」


「……あなた、最初に言う言葉がそれ……?」


 あー、集中力切れてるな、こりゃ。真面目な場面でもふざけがちな『私』。おい、私まで恥ずかしくなるぞ。


 私は苦笑いをしながら、彼女に叱責の声を届けた。


『莉奈。こんな状況でふざけないでくれ』


「……はい、ごめんなさい」


 女王竜が迫ってくる。まあ、ここまで頑張ってくれた『私』の役目は終わりだ。ありがとね。あとは私たちに、任せて。


 さて、取り巻きの火竜も残すところはあと二頭。ここまで来れば、女王竜の炎だけで問題ないはずだ。




 私は彼らの上空に、『空間跳躍』で移動する。



 落下しながら、私は太刀を構えた。


 外衣が風にはためく。刃が満月を映し出す——。


 刹那、二度、煌めく光。


 火竜の首が落ちてゆく——。



 その光景を見た『私』のつぶやきが、囁かれた。


「……強い。強すぎる。さすがはキラキラ星」


『……そのネーミングセンス、どうにかならないかな』


「……あっ、聞こえちゃってた?」


 私はみんなと反対側の肩に降り、太刀を納刀する。さあ、仕上げだ。


『さて、アレはでかすぎる。君たち、力を貸してくれないか』


「ふふ。当たり前じゃない。そのために待っていたんですもの」


 ルネディがクスクスと笑い、一歩前に出た。『私』がルネディに心配そうな表情を浮かべながら声を掛ける。


「ねえ、ルネディ。大丈夫なの?」


「あら。せっかくだから、リナも見ていってちょうだい」


 そう言いながらルネディが腕を振り上げると、瞬く間に地表は影に覆われ、地面から無数の長い手が生えてきた。


 あの時と同じ光景だ。その手はどこまでも伸びてゆき、空中を飛んでいる女王竜を絡め取って——そして、地上へと引きずり落とした。


「ルネディ……あなた、こんなに強かったの?」


「ふふ、リナ。そう言えばあなたには言ってなかったわね——」


 満月の下——月下美人は、『私』に向かってドヤ顔で微笑んだ。



「——満月の夜の私は、無敵よ」



 そう、満月の夜。これももしかしたら、『運命』の導きなのかもしれない——私は月明かりに映し出される彼女を見て、そんなことを思うのだった。






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