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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第八部 第五章
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『リョウカ』の物語 14 —砂の城【裏】②—






 私の言葉に、マルティは力強く頷き同意した。それを見た『私』はマルティに向き直って尋ねかける。


「ねえ。マルティは大丈夫なの?」


「……うん。怖いけど、大丈夫。私、みんなを助けたいから……」


 もじもじしながらも決意を表すマルティ。そんな彼女の頭を、『私』が立ち上がって優しく撫でた。


「偉いんだね、マルティは。怖かったら、私達に任せて逃げてもいいんだからね?」


「リナさん……」


『——それはつまり、君は私のお願いを聞いてくれるということでいいのかな?』


「いや、まあ、本当に女王竜っていうのが来たらですよ?」


 よし、『私』はどうやらやる気になったようだ。ここまでは、予定通り。私は頭を下げ、彼女に礼を言う。


『すまない、ありがとう』


「頭を上げて下さい。上手くいくか分からないですし、私、へっぽこですから。あと……自分で言うのもなんですけど、私、そこそこ重要な役割をやることになると思うんです。私が抜けて、あっちは大丈夫なんでしょうか……」


 そう。彼女の懸念はもっともだ。今の彼らだけでは、この戦いはあまりに厳しい。『運命』が次に進むには、『彼女たち』の力が不可欠なのだ。


 私は『私』に、情報を開示する。


『——まあ、厳しい戦いになるだろうね。けど「その時」が来るまで耐えることが出来れば、大丈夫だ』


「……『その時』?」


『そうだ。女王竜が来るのが日没前。そして日没後、この城を目指している人物が二人到着する』


 私の言葉を聞いたマルティの口元が緩む。『私』が彼女の方を向くと、マルティは慌てて自分の頬をピシャンと叩いた。これで『私』は察するはずだ。


 そして案の定——


「……ルネディと……メル?」


「うん! この城に向かっているらしいの!」


 ——満面の笑みを浮かべるマルティ。『私』も釣られて笑顔になっていた。そうそう、マルティとあなた、絶対に仲良くなれるんだから。


「……あの、本当……なんですか?」


『ああ。にわかには信じ難いと思うが、私の力だと思ってもらって差し支えない。彼女達は、来る』


 私は仮面の下、自信満々の笑みを浮かべた。マルティが私のあとを引き継ぐ。


「それでね、リナさん。もし二人に会えたら、みんなを助けてってお願いしてみる。大丈夫、あの二人なら、絶対に力になってくれると思うの!」


「……マルティ!」


「……リナさん!」


 ガバッと抱き合う『私』とマルティ。いや、いきなり仲いいな。


 しかし——ここから先だ。マルティにも伝えていない、『運命の分岐点』。マルティのことを想う『私』なら、きっと気づくはずだ。


 ——『奴の吐く火炎は、熱く、広い』——


 種はまいた。あとは『私』自身が自分で気づく必要がある。『英雄』の条件、『腐毒花焼却作戦』。マルティをこの地から解放し、彼女たち『厄災』やサランディア魔法兵団長グリーシアさんが、ジョヴディと接触するための布石——。


 やがて彼女は、何やら考え込みながら言葉を発した。


「ねえ、マルティって『腐毒花』を抑える為に、ここにいるんだよね?」


「……うん。聞いたんだね」


 『私』は私に向き直る。


「あの……」


『なんだい、言ってごらん。出来る限り力になるよ』


 よし。『運命』が本流に乗ったのが感じられる。先回りをした私の物言いに彼女は少し不満気な表情を浮かべたが、真剣な目で私のことを見つめて言った。


「えと、女王竜の火炎って凄いんですよね?」


『——ああ。大地を焼き尽くす程にね』


 私は仮面の下、目を細めて彼女を見つめ返した。やっぱり『私』は私だ。マルティのために何かできないか、そのように考えれば行き着く結論は一つだ。


 自然と頬を緩める私を見て、仮面の下の表情を察したのか、彼女は苦笑いを浮かべた。


「マルティのために、みんなのために、『腐毒花』を焼き回るのって可能だと思いますか?——」





 ——やがて、私達三人の話は終わった。


「……分かりました。もし今までの話が本当なら、マルティは動かない方がいいですね」


「ごめんなさい、リナさん……『その時』がきたら、必ず手伝うから……」


「いいんだよー。マルティのためだもん。でも……もし全部上手くいったら、三番どころか四番まで出来ちゃうんじゃないかな……」


「うふふ。楽しみにしてるね」


 マルティの頭を撫でていた『私』は、彼女のおでこを突っつく。さあ、仕上げだ。


『莉奈。今の話は内密にしてくれ。君達の『司令塔』以外には』


「……そんなことも知っているんですね」


 私はなんでも知っているよ。今はあなたと出会ったばかりのグリム。彼女は本当に信頼でき、そしてどんな時でもあなたの助けになることを——。


『ああ。私の意識は、遠くまで『届く』からね』


「はあ……本当にあなた、何者なんですか……」


『——私は、君達の……世界の味方だよ』








 こうして『私』は飛び去った。私とマルティは、城に空いた窓から彼女を見送る。


「大丈夫かな……問題は『その時』まで耐えられるかどうかだけど……」


『まあ、信じるしかないね。彼女達を』


 私は仮面を外し、マルティの頭を撫でた。


 そう、全ては冒険者たちの——『私』の手にかかっているんだから。




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