『リョウカ』の物語 14 —砂の城【裏】②—
私の言葉に、マルティは力強く頷き同意した。それを見た『私』はマルティに向き直って尋ねかける。
「ねえ。マルティは大丈夫なの?」
「……うん。怖いけど、大丈夫。私、みんなを助けたいから……」
もじもじしながらも決意を表すマルティ。そんな彼女の頭を、『私』が立ち上がって優しく撫でた。
「偉いんだね、マルティは。怖かったら、私達に任せて逃げてもいいんだからね?」
「リナさん……」
『——それはつまり、君は私のお願いを聞いてくれるということでいいのかな?』
「いや、まあ、本当に女王竜っていうのが来たらですよ?」
よし、『私』はどうやらやる気になったようだ。ここまでは、予定通り。私は頭を下げ、彼女に礼を言う。
『すまない、ありがとう』
「頭を上げて下さい。上手くいくか分からないですし、私、へっぽこですから。あと……自分で言うのもなんですけど、私、そこそこ重要な役割をやることになると思うんです。私が抜けて、あっちは大丈夫なんでしょうか……」
そう。彼女の懸念はもっともだ。今の彼らだけでは、この戦いはあまりに厳しい。『運命』が次に進むには、『彼女たち』の力が不可欠なのだ。
私は『私』に、情報を開示する。
『——まあ、厳しい戦いになるだろうね。けど「その時」が来るまで耐えることが出来れば、大丈夫だ』
「……『その時』?」
『そうだ。女王竜が来るのが日没前。そして日没後、この城を目指している人物が二人到着する』
私の言葉を聞いたマルティの口元が緩む。『私』が彼女の方を向くと、マルティは慌てて自分の頬をピシャンと叩いた。これで『私』は察するはずだ。
そして案の定——
「……ルネディと……メル?」
「うん! この城に向かっているらしいの!」
——満面の笑みを浮かべるマルティ。『私』も釣られて笑顔になっていた。そうそう、マルティとあなた、絶対に仲良くなれるんだから。
「……あの、本当……なんですか?」
『ああ。にわかには信じ難いと思うが、私の力だと思ってもらって差し支えない。彼女達は、来る』
私は仮面の下、自信満々の笑みを浮かべた。マルティが私のあとを引き継ぐ。
「それでね、リナさん。もし二人に会えたら、みんなを助けてってお願いしてみる。大丈夫、あの二人なら、絶対に力になってくれると思うの!」
「……マルティ!」
「……リナさん!」
ガバッと抱き合う『私』とマルティ。いや、いきなり仲いいな。
しかし——ここから先だ。マルティにも伝えていない、『運命の分岐点』。マルティのことを想う『私』なら、きっと気づくはずだ。
——『奴の吐く火炎は、熱く、広い』——
種はまいた。あとは『私』自身が自分で気づく必要がある。『英雄』の条件、『腐毒花焼却作戦』。マルティをこの地から解放し、彼女たち『厄災』やサランディア魔法兵団長グリーシアさんが、ジョヴディと接触するための布石——。
やがて彼女は、何やら考え込みながら言葉を発した。
「ねえ、マルティって『腐毒花』を抑える為に、ここにいるんだよね?」
「……うん。聞いたんだね」
『私』は私に向き直る。
「あの……」
『なんだい、言ってごらん。出来る限り力になるよ』
よし。『運命』が本流に乗ったのが感じられる。先回りをした私の物言いに彼女は少し不満気な表情を浮かべたが、真剣な目で私のことを見つめて言った。
「えと、女王竜の火炎って凄いんですよね?」
『——ああ。大地を焼き尽くす程にね』
私は仮面の下、目を細めて彼女を見つめ返した。やっぱり『私』は私だ。マルティのために何かできないか、そのように考えれば行き着く結論は一つだ。
自然と頬を緩める私を見て、仮面の下の表情を察したのか、彼女は苦笑いを浮かべた。
「マルティのために、みんなのために、『腐毒花』を焼き回るのって可能だと思いますか?——」
——やがて、私達三人の話は終わった。
「……分かりました。もし今までの話が本当なら、マルティは動かない方がいいですね」
「ごめんなさい、リナさん……『その時』がきたら、必ず手伝うから……」
「いいんだよー。マルティのためだもん。でも……もし全部上手くいったら、三番どころか四番まで出来ちゃうんじゃないかな……」
「うふふ。楽しみにしてるね」
マルティの頭を撫でていた『私』は、彼女のおでこを突っつく。さあ、仕上げだ。
『莉奈。今の話は内密にしてくれ。君達の『司令塔』以外には』
「……そんなことも知っているんですね」
私はなんでも知っているよ。今はあなたと出会ったばかりのグリム。彼女は本当に信頼でき、そしてどんな時でもあなたの助けになることを——。
『ああ。私の意識は、遠くまで『届く』からね』
「はあ……本当にあなた、何者なんですか……」
『——私は、君達の……世界の味方だよ』
†
こうして『私』は飛び去った。私とマルティは、城に空いた窓から彼女を見送る。
「大丈夫かな……問題は『その時』まで耐えられるかどうかだけど……」
『まあ、信じるしかないね。彼女達を』
私は仮面を外し、マルティの頭を撫でた。
そう、全ては冒険者たちの——『私』の手にかかっているんだから。




