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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第一部 第五章
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『厄災』来たりて 09 —光—





(いいでしょう、終わりにしてあげるわ!)


 ルネディが歓喜に満ちた表情で拳を振り下ろそうとした、その瞬間だった——。




 ——トスッ、トスットスッ




 背後から、ルネディの頭、首、胸に衝撃が走る。影の巨人の動きが止まる。


「……え?」


 ルネディが確認しようと振り向こうとしたその時——。




 ——トスッ、トスットスッ




 先程と同じく、ルネディのこめかみ、首、胸に衝撃が走る。


 影をすり抜けて正確に撃たれる攻撃に、たまらず影を硬質化しようと思ったが——駄目だ、それをすると、今なお、激しく剣撃を繰り出している誠司に巨人を斬られてしまう。


 いや、このままでも影の巨人像を維持出来ない。どうすればいい——。




 ——トスッ、トスットスッ——トスッ、トスットスッ……





 衝撃が止まらない。肉がえぐられていく。ようやくルネディが振り向けた時には、計十五本の矢が彼女を抉っていた。


 その赤い瞳に映る人物が吠える。



「——ルネディーーっ!」



 この盤上に於いて、唯一ルネディを正確に穿うがてる人物。


 必中の距離、五十メートル。そこにいるエルフの女性が——レザリアが、ルネディをにらみつけ吠える。


 その姿をルネディが確認したと同時に、彼女の眉間、喉、腕に矢が突き刺さる。


「——ぁ……」


 ルネディの巨人が崩れていく。気付かなかった。この影の巨人に力を使い過ぎた。そのせいで、普段見張らせている人影は木偶でくの坊と化していたのだ。


 ——このままでは不味い。


 ルネディは崩れた巨人を人型の影に転換し、誠司を遠ざける。万が一もある、あの男の——誠司の追撃だけは避けなければ——。






「レザリア、よくやりました。追撃を」


「はい!」


 レザリアの隣に立つヘザーは、バッグから大筒を取り出す。そして、先程レザリアに魔法を詰め込んで貰った球を、その大筒にセットした。


 ヘザーは片膝を突き、上空に照準を合わせる。


「——レザリア、リナに通信を」


 レザリアは追撃の手を緩めず、ヘザーに頷く。


 そしてヘザーは反動を物ともせず、空に向かって魔法の球を発射した。







『——リナ、斬って下さい!』


「——え、なんて?」


 レザリアから通信魔法が入ったが、何の事だかサッパリ分からない——いや、状況的に、私に向かって来るこの何かを斬れというのか?


「——いや、無理無理無理無理!」


『——出来ます! 私のリナならっ!』


 いや、どさくさに紛れて何言ってるんだよ——と思わなくもないが、まあ、いい具合に緊張が解けた。よく分からないけど、やってやろうじゃないの。


 私は小太刀こだちを構え、飛来して来る物体を睨み、目測でカウントする。



 ——五、四……あ、思ったより速いや、ていっ!



 見事——というか、運良く私の小太刀は飛んでくる球を捉える事が出来た。


 真っ二つになる球状の物体。溢れ出す魔力。私はこの魔法を知っている——そうだ、今も身に纏っている『灯火の魔法』だ。


 だが——その量が半端ではない。一体、どれだけの魔力が注ぎ込まれていたというのだ。空中に浮遊した照明魔法は、吸い寄せられる様に私の身体に張り付いてゆく。


『——魔力切れ寸前まで詰め込みました……受け取って下さい、私のありったけを!』


 いやいや、『灯火の魔法』の消費魔力は微々たるものだ。その照明魔法を、魔力切れ寸前までなんて聞いた事がない。


 それを証拠に——まるでこの地全体が昼みたいに明るくなっているではないか。



 だけど、おかげで勝ち筋が見えた。



「——さんきゅ、レザリア!」


『——はいっ!』


 ——私は深呼吸をし、勝利を掴み取るため、ルネディに向かって降り注いだ。







 ルネディは空を睨む。


 こうしている間も、レザリアの矢は彼女の肉を抉り取っているが——あの光に比べれば些末さまつな事だ。


 あの光量は、不味い。半月である今夜は尚更。影の力が弱まる。


 ——やがて、その光はルネディ目掛けて落ちて来た。


「ルネディぃぃ! とぅおぉりゃあああああぁぁぁぁっっ!!」


 威勢のよい叫び声と共に、光をまとった女性が小太刀を構え迫ってくる。ルネディはそれを防ぐ為、また、エルフの鬱陶しい矢を防ぐ為、影を全て集め半円状に展開した。


(……くっ! 五分五分といった所かしら)


 やがて衝突する、光と影。


「うりゃあああああぁぁぁぁっっ!!」


 莉奈は雄叫びを上げ、気合を入れる。ルネディの影が押し返す。


 大丈夫、防げる、これなら——そうルネディが確信した時だった。



 突然、莉奈を捉えていたはずのルネディの視界が空を映した。



「……え、あ?」


「——ようやく隙を見せたな、ルネディ」



 胴体から斬り離され宙に舞う頭が、刃を振り抜いた誠司を認識する。


 ああ、何故、一瞬とはいえ、此奴こやつの存在を忘れてしまったのか。だから、光って嫌い——。



 そう、莉奈はおとりだったのだ。


 それはルネディの気を引く為の光、それは誠司から気を逸らす為の叫び声。


 その空から襲いかかる脅威は、見事ルネディの思考の一部に空白を作ったのだった。おかげで——


(——莉奈、届いたぞ)


 ——誠司は息を止め、斬る、斬る、斬る。ルネディの身体を、頭を、十重二十重とえはたえに。


 ひと振りごとに、ボトボトと肉片が地面に散らばっていく。誠司は返り血で真っ黒になっていく。それでも構う事なく斬り刻む——。





 荒い息を吐きながら刀を振り上げる人の影、地面に向かって振り下ろされ続ける刃——どのくらい経っただろうか。


 やがて斬る場所がなくなった誠司は肉片を踏みつけ、ようやく刀を振るう手を止めた。


「ハァ……ハァ……くそ」


 肩で息をし、悪態をつく誠司。それを複雑な表情で見ていた莉奈が、誠司のそばに降り立つ。


「倒した……の?」


 その莉奈の問いに、未だ肉体から離れようとしない魂を忌々しく眺めながら誠司は呟いた。


「……いや、やはり無理だ。剣では足りない」


「あれで!?」


 驚く莉奈を余所よそに、散らばっているルネディだったものの肉片は、ズブズブと影に沈んでいっている。誠司の浴びた返り血も、意志を持つかの様に影に吸い込まれていった。


 ——そして、影の中からルネディを形取った影が現れる。


『すごいわね、セイジ。正直、ここまでやられるとは思わなかったわ』


 地中から響く声。ルネディの影は拍手をする様に手を動かした。




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