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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第八部 第五章
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『リョウカ』の物語 03 —巨大蛸の魔物—





 私は、『運命』に愛されている。


 ただそれは、何もしないで手に入るようなものではない。


 願い。意志。そして、避けられぬ苦難。


 それらを前提に、『運命』は私に味方してくれるのだ。


 今ならわかる。私の経験した『赤い世界』。きっとそこで起こった全ての出来事も、『赤い世界』を回避する上で必要なことだったのだろう。


(……絶対に……越えてやる……)


 無数の世界を見てきた私と、それにこの世界の『私』の運命力を加えれば、絶対に『赤い世界』を乗り越えられるはずだ——いや、乗り越えなくてはならない。


 その為には、この世界の『私』に私の歩んできた道のりを正確に歩ませる必要がある。


 そして、誠司さんが失われるあの日——あの決定的な『運命の分岐点』に、私は介入する。


 私は『運命』に抗い、『運命』を利用する。


(……待っててね、みんな)


 『魔女の家』の様子を離れた場所から確認した私は、再び歩き始めるのだった——。







「フンッ!」


 獣人族の力を活かしたボッズさんの斧の一振りが、『特殊個体・巨大(たこ)の魔物』の一本の足を両断する。


 私は軽やかに跳ね、彼に続き二本目の足を切り落とした。墨を吐くタコ。


 それを華麗に後ろに跳んで躱した私は、ボッズさんの横に降り立つ。


「やるな、リョウカよ。どうだ、あとでオレと手合わせを——」


『——分かったから、今は目の前の相手に集中しようか』


 私は声を届けながら、マスクの下で苦笑いをする。



 ——ふふ。ボッズさん、相変わらずだなあ。



 彼と私が会ったのは、前の世界での火竜戦の時以来だ。あと先考えない彼の行動に、みんなヒヤヒヤしたって言ってたっけ——



 今、私はギルドからの依頼で、この特殊個体の討伐のために彼と共闘している。


 正直、『空間跳躍』と『飛行能力』が使えれば一人でも簡単に勝てる相手なのだが——彼の見ている手前、その力をやたらと使うわけにはいかない。


 なので私は、地面を蹴って軽く飛行し、跳ねるように移動をしている。


 ボッズさんが力を溜め始める。私は注意を引くため、巨大タコに跳ね乗っていき、通りざまに足を切断していく。


 その時、彼の叫ぶ声が聞こえた。


「リョウカ!」


「あっ」


 タコって近くで見ると気持ち悪いなー、とか思っていたら、私の背後から迫ってきた足に絡め取られてしまった。いけない、いけない。普段、力に頼りすぎていた自分を戒める。


 まあ、ボッズさんなら誤魔化せるだろう。私は『空間跳躍』で抜け出し、マントを翻しながらタコの足を斬り刻む。


 それが功を奏したのか、巨大タコの意識は完全に私の方に向いた。私は力を溜め終えたボッズさんに声を飛ばす。


『——よろしく』


「おう」


 ボッズさんが、跳ねた。


 私は迫り来るタコの足を斬り飛ばしながら、彼の行動を俯瞰視点で見守る——。


(……ま、見るまでもないか)


 直後、三つ星冒険者である彼の断頭の斧は、見事に『特殊個体・巨大蛸の魔物』を両断したのだった。





『——はは。お疲れ、ボッズ』


「フン。リョウカよ、見事な腕前だったぞ」


 タコの墨袋まで両断してしまい、真っ黒な姿のボッズさん。私は笑いながら、彼に魔法を唱えた。


「——『汚れを落とす魔法』」


 みるみるうちに、彼の身体は綺麗になってゆき——


「リョウカよ」


 ビクッと私の身体が震える。魔法は言の葉を紡がなければ唱えられない。できるだけ小声で、声を低くして唱えたつもりだったけど——獣人族の彼には聞こえてしまったか。いや、そもそも喋れない設定の私が魔法を使えるのもおかしな話ではあるのだが。


 私は平静を装ってボッズさんを見る。


 その彼は——ニィと口端を上げた。


「では約束通り、仕合おうぞ」


 ふう、よかった、察しの悪い人で。いや、よくないけど。


『……すまないね、ボッズ。どうやら義足の調子が悪いみたいだ。君とは万全の状態で戦いたい』


「……むむ、そうか。そういうことなら仕方ない、か」


 あからさまに気落ちした様子のボッズさん。ごめんね、あまりあなたに、太刀筋は見られたくない。


「……昔、共に戦ったことのある冒険者と太刀筋が似ていてな。セイジ、というんだが、知っているか?」


 ほら、やっぱり……。私はマントを翻す。


『——まあ、そういうこともあるだろう。東の国では盛んな流派だからね。さ、ギルドに報告に戻ろうか、ボッズ』


「うん?……ああ」


 義足の調子が悪いというのは、本当だった。



 ——これは、あの人に会う必要があるかもしれないなあ。



 私は首を傾げるボッズさんを伴い、重い足取りで滞在先の村へと戻るのだった——。






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