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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第八部 第五章
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『リョウカ』の物語 01 —運命の守護者—






 ——『あの素晴らしい日を(フライト)』。時間を飛び越えることが出来る能力。


 正確な時間は指定できず、漠然と『あの頃』としか指定できない。


 飛び越えられる時間も、少なくとも年単位が必要だ。助走をつけなければ飛び立てないから。なので、直近の時間を繰り返し、という使い方はできない。


 そして、使用制限。それは『飛んだ時間の半分ほどのクールタイム』。


 何回でも使用はできるが、その間も私は歳をとり続ける。私は九年ほどの時間を遡ってきたので、次に使用できるのは四年半後くらいか。その時には私はもう三十間近。年齢的に、今回のフライトで全てを決める覚悟が必要だ——。







 紙に必要事項を記入した私は、クロッサさんに差し出す。今日が『リョウカ』としての私の始まりだ。


 提出された紙を確認したクロッサさんは、「よっこらせ」と少し大きめの水晶玉みたいなものを取り出した。


「それではこちらに両手をかざして下さい。魔力の波長を、ギルドカードに登録いたしますので」


 私は言われた通りに水晶に両手をかざす。


 ピピッ。結果は——


 【077】


「……………………」


「……あの、どうされましたか、固まって?」


『——はは、いや、何でもないんだ』


 私は床に突っ伏したい気持ちを抑え、彼女に言葉を返す。因縁の数字、『77』。私は視線を胸に落とす。いや、最近測ってないし、少しは成長しているはずだ。


 まあ、それはさておき、昔に比べて魔力量自体は成長していたみたいなので、そこは素直に喜ぶべきところだろう——。



 そしてしばらくして、滞りなく私にギルドカードが渡された。


 冒険者システムについて説明をしてくれるクロッサさん。私にとってはすでに知っている情報だが、大人しく素直に聞き入る。


 その時ふと、私の頭の中に疑問がよぎった。


『——そう言えば、冒険者になるには『推薦状』が必要ではなかったかな?』


「……? いえ、そのようなものは必要ありませんが……」


『——……なるほど、そうか。失礼した』


 首を傾げながら見つめる彼女を置いて、私は思い返す。冒険者宣言をしたあの日、確かノクスさんが言っていた。



 ——『……ああ、そうだ、二年前から他の冒険者の推薦状が必要なんだった。セイジ、お前書いてやれ。後で書き方教えてやる』——



 推薦状システムは、『赤い世界』を回避するために絶対に必要だ。


「——では、以上で説明を終わります。それでは冒険者生活、頑張ってくださいね!」


 クロッサさんから全ての説明を聞き終えた私は、背を向ける。やるべきことは決まった。


『——ああ、頑張るよ』


 彼女に声を届けた私は、ギルドを後にした。とりあえずの目標は、ギルドに発言力を持つ冒険者ランク、三つ星冒険者。



 ——それに私は、最速で、なる。







「ありがとうございます、助かりました!」


『——いや、気にしないでくれ。無事なようで、何よりだ』


 野盗を追い払った私は、行商人から礼を言われる。


 私は普段から意識を広範囲に張り、トラブルが起きそうなところへと『空間跳躍』をしていた。大陸との流通経路を担っているブリクセンからケルワンへと繋がっている街道は、成果を積み上げるにはちょうどよかった。


「……あの、お名前は……」


 行商人の男は深々と頭を下げながら、名前を尋ねてきた。


 その時私は、こう答えるようにしている。


『——名乗るほどの名は持ち合わせていない。私のことは、『義足の剣士』と呼んでくれ』


 義足で冒険者をやっている者など、他にはいない。名前を名乗るよりも義足をアピールすることで、私の名は急速に広まっていくだろう。


 行商人の男は名残惜しそうに去っていった。その荷馬車を見送った私は、再び意識を張り巡らせる。


 ——使えるものは何でも使ってやる。この力も、この知識も、この義足も。


(……そういやこの時期、人身売買の組織はこっちの方で暗躍してるんだっけか。少しずつ西へ追いやらないと)


 私は探りを入れるために『空間跳躍』をする——。



 ——この時代に戻ってきてから半年、私は異例の速さで『二つ星冒険者』へとランクアップしていた。








 火竜が来る。



 数年に一度ケルワンに訪れる、危機的因子。


 観測所からの連絡を受けた『東の魔女』セレスと側近の者たちは、いつもの平原で待ち構えていた。


「……ふう。いい、皆。一頭だからといって、絶対に油断しないように。それで、街の方は?」


「はい。あっちも準備は完了です。先ほどマッケマッケさんから連絡が入りました」


 二十年前の反省。あの時逃してしまい街を襲った火竜は、一人の冒険者が囮になることにより危機を脱した。


 その反省を踏まえ、火竜が一頭の時はマッケマッケには街に控えてもらっている。彼女ならいざという時、セレスが戻るまでの時間稼ぎくらいなら余裕だろう。


 セレスたちは睨む。空を。やってくるであろう火竜の影を。


 そして——


「……来たわ」


 ——セレスのつぶやきに、側近たちは喉を鳴らす。


 今はまだ小さい火竜の影。それはだんだんと大きくなってゆき——


「……え?」


 セレスは、驚愕する。あと十秒ほどで接敵するというところで——突然、火竜の首が離れた。


 落ちる火竜。セレスたちがそちらの方に駆け寄ると——その背には、人が乗っていた。


 その者は血を払う所作を行い、太刀を鞘にしまう。


 セレスはその人物を観察する。ボロボロの赤いロングマントで身を纏い、フードを目深に被っていて顔がよく見えない。さらに口元はマスクで覆われており——その右足は、義足だった。


 茫然とするセレスたちの脳内に、声が響く。


『——やあ、余計なことをしてしまったかな?』


 ブスブスと音を立てながら魔素に還る火竜の背から華麗に飛び降り、その者はセレスを見つめた。


 セレスは唾を呑み、その人物に声をかける。


「……あなたが倒してくれたのかしら。ありがとう、礼を言うわ。あの、あなたは……」


 その問いに、義足の人物——リョウカは、目を細めた。


『——名乗るほどの名はない。私はただの一介の冒険者だ。ただ、この『義足の剣士』がいたとだけ覚えておいてくれればいい——』


 背を向けるリョウカ。


 果たしてこの人物が何者なのか——セレスは冒険者ギルドに問い合わせることになる。




 ——莉奈がリョウカになってから一年近く。


 この後、この事件がきっかけで三つ星冒険者に推薦されることになるリョウカは——



 ——義足を鳴らしながら、去っていくのだった。




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