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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第八部 第四章
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『莉奈』の物語 15 —始まり—





 青々とした空。生い茂る木々。鳥のさえずり。


 今となっては懐かしいその光景。それを見た私は、放心しながらつぶやいた。



「……戻って、これたんだ……」



 私の目覚めた力『あの素晴らしい日を(フライト)』。時間跳躍が可能な力だが、正確な着地点は指定できない。漠然と『あの時』としか指定できないのだ。


 そして、この力の詳細を話した時にグリムは言っていた。


 ——『——なら、キミは歴史を確かなものにするために、『転移直後』くらいからやり直した方がいい。その必要がありそうだ。『————』が、そうしていたからね』


 あの時は何を言っているのか理解しきれなかったが、数多くの世界を見てきた今ならわかる。『白い世界』へ進むためには、私の介入は、必須だ。


 でも、話の中に出ていた『————』。グリムはなんて言っていたんだろう。確かクロッサさんもジョヴェディも私を見てそう言っていたような気がするけど——そこだけがボンヤリとして思い出せない。


「……ま、とりあえずは動くか」


 私は『今』を確認するために、『空間跳躍』を開始した。





 私の降り立った場所は、ケルワン近郊。街で話を聞いた結果、私が最初にこの世界に転移してきた時から一か月後の時間だと判明した。


(……なら、この世界に……誠司さんは、生きている……!)


 私は跳ぶ、跳び続ける、『魔女の家』を目指して。


 もうこの力、『空間跳躍』も使い慣れた。今の私なら、ケルワンから魔女の家まで丸一日程度で辿り着けるだろう。


(……待っててね、誠司さん、ライラ)


 私は久しぶりの『家族』に会うために、ただひたすらに跳躍し続けるのだった——。




 一日後。私は『西の森』へと辿り着いた。


 ——あの時のままだ。


 吹き抜ける風。揺れる草木。包み込む木漏れ日。懐かしい匂い。


 私は込み上げる想いを抑え、再び跳び始める。


 もうすぐだ、もうすぐ会える。


 私は、私の家、みんなの家である『魔女の家』へと意識を飛ばす。


 そこには——



(……ライラ……!……ヘザー……!)



 ——庭で語らい合う、二人の姿があった。



(……待っててね、今——)



 その時。私の身体が制止する。


 家から出てきたのは、この世界の『私』。


 『私』は、笑いかけながらライラとヘザーの元へと歩いていき——



「……そっか。そりゃ、当たり前か……」



 私は空中に立ち、うなだれる。当然だが、私は意識だけの移動である『タイムリープ』をした訳ではない。右足の義足が何よりの証拠だ。


 私の力は肉体ごとの移動である『タイムトラベル』。この世界に、当時の『私』がいるのも当たり前だ。


 楽しそうに話している三人。私の居場所は、ここにはない。


 それを離れた場所から飛ばした意識で見る私は、ボンヤリとグリムの言葉、『————』を思い返す。


(……もう少しで、噛み合いそうなんだけどな……)


 私は心の中で三人に別れを告げ、この森を後にした。







 状況はわかった。私のするべきことも。


 私は『私』を、『白い世界』の道へと陰ながら導いてあげる存在になればいい。


 そうだとしたら、私が『私』であることをバラす訳にはいかない。この世界の辿る道筋は大きく変わってしまうだろうし、何より、数々の世界を見てきた『運命』がそう言っている。



 サランディアに着いた私は、必要なものを買い揃える。


 厚底のブーツ、口元を覆うマスク、マントと同じ色合いの赤いフード。


 私は、男のフリをする。少しでも身バレの可能性を減らすために。


 幸いなことに、私は女性としては平均よりも身長がある方だ。このブーツを履けば、男性として見られなくもないだろう。


 そして、胸。幸い——と言っていいかどうかは分からないけど、私は胸は控えめである……着痩せもするし。


 少し胸をきつく巻けば、胸で性別がバレることはないだろう。ゆったりとした服を着てその上にマントも羽織るので、体格からではパッと見わからないはずだ。



 準備を終えた私は、この世界での私の居場所を作るため、『冒険者ギルド・サランディア支部』の扉を開く。


 周囲が義足である私の右足に目を向ける中、私は受付へと向かった。


 そこには——新人を示すマークを胸につけた、実に初々しい、受付嬢クロッサさんの姿があった。この時からいたんだ。


 私は彼女の頭に、『男性の声』を作り、飛ばす。


『やあ。冒険者登録をしたいのだけれど』


 男性としての話し方は、中性的な話し方をしていたグリムを意識すれば大丈夫だろう。


 突然頭に響く言葉に驚き、「……あの、え……」と混乱した様子のクロッサさん。


 私は目を細め、彼女を見つめた。


『驚かせてしまったね。私は話すことが出来ないので、このような形でしか会話が出来ないんだ』


 その説明に納得したのか、彼女は居ずまいを正して笑顔を浮かべた。


「失礼いたしました。私、クロッサと申します。冒険者登録ですね。ええと、あの、お名前は……」


 彼女の問いかけに、私の頭の中で一つの言葉が蘇った。



 ——リョウカ——。



 赤い世界で、クロッサさんやジョヴェディが言っていた言葉。グリムの言っていた『————』という言葉。


 リョウカ。何で今まで忘れていたんだろう。そっか、私は『私』に、ちゃんと助けられていたんだ。


 でも、『リョウカ』という言葉はどこから——。


「……あの?」


 すっかり沈黙してしまった私を、クロッサさんは不思議そうな顔で見つめる。


 その時、私は堪えきれずに笑みを漏らしてしまった。


「……ふふ」


「……?」


 そっか。なんて事はない。自分の名前だ、調べたことがある。


 ヒシの花言葉は『夢のような出来事』。そう、私はこの世界にとって、ただ夢のような存在であればいい。


『——失礼、名前だね——』



 私は、あの日捨てた名を、取り戻す。



『——私の名は、菱華リョウカ……リョウカだ。それで登録を、よろしく頼むよ』





お読みいただきありがとうございます。


これにて第四章完、物語は第五章「『リョウカ』の物語」へと続きます。


引き続きお楽しみいただけると幸いです。よろしくお願いいたします。


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