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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第八部 第四章
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『莉奈』の物語 14 —『フライト』—






 私は過去への旅を開始する。



 私が目覚めた能力、『あの素晴らしい日を(フライト)』。時間を跳躍する力。誰も失わせないための力。


 渦巻く時間のうねりの中を、私は飛んでいく。


 その旅の最中、様々な『世界の記憶』が、私の意識の奥底へと流れ込んでくる——。





 こんな世界があった。


 あれは、ヘクトールを倒すために魔法国の城へ乗り込んだ時だ。


 ヘザーの救援が間に合わず、ニサの剣でみぞおちを貫かれる私。


 冷たくなっていく私に、ライラが泣きながら回復魔法を唱え続けている。傍らでは、ニサを討ち果たしたヘザーが、ただ私の名を呼びながら謝り続けていた。


 結局、誠司さんたちはヘクトールに逃げられてしまい——


 ——そして迎えるのは、赤い世界。




 こんな世界があった。


 『厄災』ヴェネルディが振り下ろす剣。


 それは、動けない誠司さんと庇いに入った私を両断した。


 誠司さんが死んで、強制的に現れたライラ。


 彼女はヴェネルディの剣を受けながら、いつまでも私たちの名を呼び続けた。


 やがて、ライラに攻撃が通用しないと悟ったヴェネルディは悪態をつきながら去っていき——


 ——そして迎えるのは、赤い世界。




 こんな世界があった。


 レザリアが気を失ってしまい、氷竜の女王竜に握り潰される私。


 なすすべもなく私の命が消えていく。


 やがて我に返った女王竜と氷竜たちは、泣き叫ぶ人の子らを置いて、気まずそうに巣から飛び去っていってしまった。


 ——そして迎えるのは、赤い世界。




 こんな世界があった。


 自らの存在の消滅を試みたジョヴェディ。


 それは成功し、彼の身体は塵となって消えていった。


 泣きじゃくるライラ。やがて落ち着いた彼女と入れ替わりで現れた誠司さんは、複雑な表情で告げた。


「——彼が復活するであろう、一年後に判断しよう」と。


 でも、時間は、そこまで待ってはくれなかった。


 ——そして迎えるのは、赤い世界。




 こんな世界があった。


 あれは、迫り来る火竜の群れから、みんなでケルワンを守ろうとした時のことだ。


 誰か一人。そう、あの時グリムが言っていた通り、誰か一人でも欠けてしまっていたら、ケルワンは火の海に包まれていた。


 そしてそれは、常に背中合わせの可能性として、誰にでも起こり得た結末だったのだ。


 燃え盛る赤。それを茫然と眺めながら、次々と失われていく命。


 ——そして迎えるのは、赤い世界。




 こんな世界があった。


 メルを守るために、私と誠司さんが戦った時だ。


 誠司さんの刃が、私の肩口に食い込む。致命の一撃。


 茫然とする誠司さん。泣き叫ぶメル。


 私の意識は、薄れてゆき——二度と戻ってくることはなかった。


 ——そして迎えるのは、赤い世界。




 こんな世界があった。


 ヴァナルガンドさんに勝てなかった私。


 その世界の私は三つ星冒険者にはならず、『白い燕の叙事詩』も、それ以上歌われることはなかった。


 やがて、綻びが生じ始める運命。


 火竜戦、ジョヴェディ戦、万年氷穴——この後に訪れる全ての苦難において、期待したような結果を得ることはできなかった。


 ——そして迎えるのは、赤い世界。




 こんな世界があった。


 私たちがクエスト『トキノツルベの採取』を受けなかった世界。


 私はアルフさん、そしてルネディと接点を持つことは叶わず、結果、そのあとメルは誠司さんと対話をすることなく逃げ、マルティとも今のような親密な関係は築けなかった。


 そして、その後どんなに上手く事が運んだとしても——運命のあの日、ヘクトールは『魔女狩り』の代わりに、西の森にロゴール国の兵を攻め込ませた。


 破壊される森、失われていく命、奪われる『トキノツルベ』——


 ——そして迎えるのは、赤い世界。




 こんな世界があった。


 ルネディと誠司さんとの戦いの時。


 急いで駆けつけた私が見たものは、ルネディの影に誠司さんが潰された姿だった。


 現れる、眠った状態のライラ。誠司さんの命が失われたことを悟った私は、力なく地面に座り込む。


 その様子を目を伏せ見つめるルネディは、やがて姿を消し——


 ——そして迎えるのは、赤い世界。






 そろそろ、旅の終わりだ。


 いくつもの世界、いくつもの可能性があった。


 そしてそのいずれもが、赤い世界へと繋がっていた。


 その中で唯一、『白い世界』へと繋がる可能性のある道——確かに私は、その道を歩んでいたんだ。



 私はふと、元の世界で望んでいた、『愛される私』の願いを思い出す。


 そうだ。私の望みは、叶っていたんだ。私は確かに、この世界に『愛される私』として転移してきていたんだ。



 いくつもの世界を見た今、はっきりと言える。




 ——私は、『運命』に、愛されていた——。





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