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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第八部 第四章
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『莉奈』の物語 13 —終わる世界—








 彼女の話は、こうだ。



「莉奈、『転移者』に現れる『チート能力』は、その者の持つ願望、性質が大きく反映される」


「……願望?」


「ああ。無理矢理、力をこじ開けられたドメーニカは別として、ファウスティがその最たる例だ。アルフから聞いた話と、現状から推測するに、彼の力は、ただ『ドメーニカを守る』、それだけの為のものだった」


「……もしかして、誠司さんの『死に戻り』も……」


「ああ。彼にはエリスを失った後悔があったからね。それが、彼の持つ『魂』のスキルとリンクしたのだろう」


「……なら、私の力って?」



 私の持つ『飛ぶ』能力。その力の行き着く先は。



「——『チートスキル』は、フタが開く瞬間に全てが決まるので断定はできない。けど、誠司やファウスティの例、何より私自身の経験、そしてこの状況下から推察するに、キミの場合いくつかのパターンが考えられる」


 グリムは真っ直ぐに、私の目を見つめた。


「まず、キミが『復讐』の念に囚われていた場合……フタが開く時、相手の存在、いや、因果すらをも『消し飛ばす』能力に目覚めることが可能かもしれない」


「でも、それって……」


「……ああ。『滅び』の力に近しい能力だ。世界は『綺麗』になるだろうね」


 一つ目の力、『復讐』。少なくとも少し前の私なら、確実に目覚めていたであろう能力だ。


「次に、キミが全てを放り出して『逃げ』ようとした場合。その場合、別の世界……例えば元の世界に飛ぶことも可能な、『次元跳躍』の力に目覚めることもできるだろう」


 二つ目の力、『逃走』。その力に目覚めれば、何もかも忘れて、別の世界で暮らすことも可能だ。


「……そして、私の思いつく最後。傷ついたキミが、それでも『幸せ』を掴み取りたいと願った場合だ——」




 私は、グリムの話に聞き入る。私は、私は——。








 誠司さんが失われ、全てが狂い始めたあの日から五年。グリムと私の進むべき道について話し合ってから、三年の月日が流れていた。


 女神像の『大厄災』は、未だかろうじて抑え付けられているみたいだ。でも、それでも段々と影響範囲が広がっていくのは感じとれていた。



 私は、グリムに——今まで私を支えてきてくれた友人に、右手を差し出す。


「……じゃあ、グリム。ちょっくら行ってくるよ」


「……ああ、莉奈。世界を、頼んだぞ」


 私のフタは、開いた。それはまさに、私の願っていた能力そのものだった。


「ごめんね、あとは押し付けちゃう形になっちゃうけど——」


「莉奈」


 グリムは、私のことを抱きしめる。そして、優しく囁いた。


「……気にするな。キミは必ず、幸せをつかみとってくれ」


「……うん」


「……いいかい、誠司の生存が、全てを握っている。あと、私のお願いは、忘れないように」


「……うん」


「……あとは、着地点がどこになろうが、慌てないように。キミならやれる、慎重にいくんだぞ」


「……ふふ、わかってるって。グリム、お母さんみたい」


「……はは、旅立つ親友の心配をして、何が悪い?」


 そう言ってグリムは口角を上げ、優しく私を解放する。彼女が顔を埋めていた私の肩口は、少し濡れていた。


 それを見た私の頬を、何かが伝う。それでも私は目元を拭って笑顔を作り、最高の友人に別れを告げた。





「じゃあ、ね」



「ああ、また『過去』で」





 私は、静かに目をつむる。



 そして私は——目覚めた私の力、



 その名を、口にした。





「——『あの素晴らしい日を(フライト)』」





 私の身体が揺らぐ。



 皆を助ける世界へと進むために、私は過去へのフライトを開始した——。









 莉奈を見送ったグリムは、女神像の近くにいる端末へと意識を移す。


 その胸元にある赤い宝石は、激しく波打っていた。


 グリムは高台から語りかける。


「……やあ、ドメーニカ。待たせたね。キミが、必死に抑え付けてくれていたんだろう?」


 赤い宝石は、変わらず波打っている。グリムの呼びかけに応えるかのように、その宝石は一段と輝きを増した。


「……つらかっただろう? 大丈夫、全ては終えた。もう、楽になってもいいんだ」


 その言葉に反応したかのように、女神像は『微笑み』を浮かべた。


 グリムは立ち上がり、最後に語りかけた。



「……大丈夫だ。必ず救ってやる。世界も……そして、キミも」



 赤い宝石は、急激に動きを止めた。女神像は今まで溜まっていた分を吐き出すかのように、力を解放した。



 一瞬にして、『色彩』の奔流に飲み込まれるグリム。




 そして——




 ——この日、この世界は、『色彩』に包み込まれ、終わりを告げた——。





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