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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第八部 第四章
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『莉奈』の物語 12 —叫び—







 微笑みを浮かべる、『天使像』の姿を形取った『影』。一瞬にして皆の下半身に影がまとわりつく。


 状況を把握したグリムは、叫んだ。


「撤退する! マルテディ、ジョヴェディ!」


 その声を聞くと同時に、マルテディは両腕を振り上げた。ジョヴェディも力を行使し、頭上の土を取り除く。


 直後、作り上げられる『砂の巨像』。全長百メートルにも及ぶその巨像の肩に、全員が乗っていた。


 ジョヴェディは急ぎ言の葉を紡ぐ。


「——『光弾の魔法』」


 その光弾は『天使像』の影を撃ち抜くが、一瞬散ったのちにすぐに元の形に戻ってしまう。足にまとわりつく『影』は、ほどけない。


「……ぬうっ」


「マルテディ、移動を!」


「……それが……駄目なんですっ!」


 マルテディの悲痛な声が響く。見ると、砂の巨像にも——



 ——足元から這い上がるように、すでに、『影』がまとわりついていた。







(…………くっ!)


 視線を感じる。『天使像』たちの、無慈悲な視線を。


 私の身体に巻き付くように這い上がってくる影の締めつけは、潰されそうな程にきつくなっていく。私は『空間跳躍』で抜け出し、宙に浮いた。


「みんな!」


 私が叫びながら視線を向けると——苦痛に顔を歪ませているメルの足が、無惨にも潰されている姿が目に入った。


 待って、そんな、『天使像』の攻撃は、再生できな——


「リナさん!」


 茫然とする私に向かって伸びる影を、砂と氷が防ぎきる。意識を飛ばすと、そのマルティの腕は、地上から襲い来る『色彩』に食い破られていた。


 まるで意思を持つかのように、容赦なく襲いかかってくる『色彩』。


「フン!」


 ジョヴェディが土の防御壁を作り上げ、なんとか追撃を防ぐ。その時、上半身だけのメルが這いつくばりながら叫んだ。


「リナちゃん、逃げて!……子供たちのこと、お願いね!」


「メル!」


 そんな、そんな、そんな。誰かがいなくなるのは、もう十分だ。私は首を振り続ける。


「莉奈、逃げろ! キミだけが、世界を救える鍵なんだ!」


 グリムが、叫ぶ。何を言っているのかわからない。ここでみんなを失うくらいなら——。


 私は涙を流しながら、その光景を見つめていた。そんな私の様子をちらりと見たジョヴェディは、身体を削られながら地表に視線を向ける。


「……フン、隙だらけなんじゃよ」


 ジョヴェディのつぶやきと同時に、地上で起こる爆発。


 その瞬間——みんなを包んでいる『影』は、消えた。『影』の『天使像』本体を消滅させたのか。


 これなら——。



 私の願いは虚しく、『色彩』が渦巻く。砂の巨像が崩れていく。下半身を失ったメル。右半身を失ったマルティ。二人は落ちながら、寂しそうに私に笑いかけ——小さな小さな砂と氷の盾を、私の前に作り上げた——。




 ——『えへへ。リナちゃんを守ろうとする時のわたしは、無敵だよ!』——



 ——『うん。私ね、冒険者に憧れてたんだ』——




「メルーーッ! マルティーーッ!」


 私はたまらず、彼女たちに手を伸ばし——


「……燕よ! あやつらの想い、無駄にするでない!」


 怒鳴り声が響く。


 強張り動きを止める私の前に、ジョヴェディが片足、片腕を失いながらも宙に浮き、私のことを守るように立ちはだかった。


 迫り来る『色彩』を土で防いで——。



「生きろ!……ライラと、共に!」



 その言葉に突き動かされた私は、歯を強く噛み締め、『空間跳躍』で逃げ始めた。



 飛ばした意識で最後に見た光景は、彼女たちが『色彩』に飲み込まれていく姿だった——。








「……みんな……いなくなっちゃったね……」


 私たちの家。マルティやメルと一緒に暮らしていた家。


 帰る途中の記憶はあまりない。気がつけばここに帰り着いていた私は、家に待機していたグリムの端末に漏らす。


 グリムは無言で、私の話を聞いていた。


「……やっぱり、手を出すべきじゃ、なかったね」


 私は、今回の件、乗り気ではなかった。ルネディを失った時の悲しみ、それをもう、味わいたくはなかったから。



 ——そしてそれは、現実になってしまった。



「……世界、どうなっちゃうんだろうね」


 天使像は『風』と『影』の二体を倒した。多大なる犠牲を払って。でも、それだけだ。何も変わってはいない。


 黙って私の話を聞いていたグリムだったが、やがてポツリとつぶやいた。



「……莉奈。世界を救う気は、あるかい?」



 取り留めのない彼女の言葉。そう言えば、私が『鍵』になるとか言ってたっけ——。


「……どういうこと?」


 ぼんやりと視線を向ける私の目を見つめ返して、彼女は言った。



「……『転移者』に現れる『チート能力』さ。もしキミがその気なら……運命だって、変えられる」




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