表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第八部 第四章
522/618

『莉奈』の物語 11 —糸口—






 ——一年後。



 肉体の再生を終えたサーバトは、魔法国へと続く荒野を歩いていた。


(……ふざけやがって。英雄も、ジジイも……そしてグリムも、絶対に許さんぞ……)


 慢心していた。無尽蔵の魔力。物理攻撃の効かない無敵の身体。魔法では防げない光の攻撃。


 普通に考えれば、負ける要素など、ない。


 しかし奴らは、肉体への攻撃手段、魔法、そして頭脳のすべてにおいて、ことごとくサーバトの想像を超えてきたのだ。


(……私は『魔王』だ。もう、油断はしない。そう、油断さえしなければ……!)


 こうなったら意地だ。あいつらを排除さえすれば、世界などいつでも獲れる。慎重に立ち回れば、この『光』の力、後れなど取るはずがないのだから。


 サーバトは歩く。英雄『白い燕』が指定した決戦の地、魔法国へと。


 そこでサーバトが目にしたものは——



「……なんだ、アレは……」



 ——静かに佇む、巨大な『女神像』の姿だった。


(……クソ……何が狙いかわからんが……破壊してやる!)


 あれが何なのかはわからないが、二年前にサーバトが復活した時にはなかったものだ。


 何のために作ったのかはわからないが、わざわざこの地に呼び出したからには、何かしらの意図があるはずだ。むざむざ相手の誘いに乗ることはない。


 サーバトは『光の雨』を降らせるため、右腕を振り上げた。







「……来るぞ、『光の雨』が」



 ——ここは、ジョヴェディの能力によって地中に作られた部屋。


 姿を消した分身体にサーバトの動向を見張らせていたジョヴェディは、その場にいる者たちに告げた。


 その言葉を受けたグリムは、莉奈の方を向く。


「よし。では、莉奈。よろしく頼む」


「……うん」


 莉奈は意識を飛ばし、『女神像』周辺を上空から俯瞰する。そして、その映像をグリムの脳内に直接飛ばした。


 グリムの脳内に映し出される光景。それをグリムは、皆に聞こえるように伝え始めた。


「——『光の雨』、女神像本体はすり抜けている。胸元の『赤い宝石』は、結界らしきもので弾いているな……莉奈、視界を『天使像』へ」


 莉奈はうなずき、意識を移し替える。


「——六体の『天使像』……全部が防御手段をとっている。『土』、『砂』、『氷』はそれぞれの持つ力で防御壁を張っている。『影』は地中、『光』は何ともなし、『風』は……一部の雨が障壁をすり抜けているが、たちどころに再生をしている」


 マルテディとメルコレディが顔を見合わせる。予測はしていたが、やはり『天使像』も彼女たちと同じように力を扱うことができるみたいだ。


 グリムは息を吐き、つぶやく。


「……できればこの攻撃で『天使像』が破壊されるのを期待していたのだが……そう上手くはいかなかったようだね。ジョヴェディ、サーバトの様子は?」


「……ふむう。攻撃が『女神像』に効かないと悟り、困惑しておるのう。しかし、『光の雨』を止める気はなさそうじゃ」


「……待て、『天使像』が……攻撃を開始した。莉奈、追ってくれ!」


 見ると一部の『天使像』から『厄災』の力が放たれていた。


 それは真っ直ぐに、サーバトのいる方向を目掛けて——混ざり合い、『色彩』となって伸びてゆく。


「ジョヴェディ、サーバトの状況を!」


「……ぬう、奴は今、足を『影』でつかまれて身動きがとれん状況じゃ——」




 サーバトは気づく。己に向かってくる、強大な力を。彼は自身の足を掴む『影』を見て毒づく。


「……あの女か!?」


 辺りを見回すが、この広い荒野、あの『影使い』の女の姿はどこにも見当たらない。


 サーバトは雨を止ませ、急いで前方に魔法の障壁を張ろうと試みるが——


 ——それが間に合うことはなく、『色彩』に食い破られ消滅していくのだった。




 光の雨が止み『天使像』の障壁が解かれたのを見て、グリムは叫んだ。


「ジョヴェディ、今だ!」


「うむ、任せておけい」


 光の雨よりも更に上空、控えさせていた『分身体』二体を、ジョヴェディは急降下させる。


 『天使像』は今、サーバトのいた方に注意を向けている。奇襲をかけるなら、今しかない。


 あらかじめ詠唱は終わらせ、いつでも発動できる準備はできていた。パチパチと光が弾ける。酸素が収束していく。


 狙いは——『風』。分身体を動かしているジョヴェディは、つぶやいた。



「塵に、還れ」



「——『爆ぜる光炎の魔法』!」


「——『焼き尽くす業火の魔法』!」


 光は弾け、業火が風を巻き込み燃え上がる——。




 以前、『天使像』は莉奈の太刀によって両断された。そして観測された、『厄災』たちと同じ『永久不変』の症状。


 奴らに『魂』があるのかは、わからない。しかし、『厄災』たち同様、肉体を消滅させることは可能なはずだ。




 魔法の晴れた先、思惑通り『風』の『天使像』の姿は消滅していた。そして、消滅させた、その先——。



「——『暗き刃の魔法』!」


 ジョヴェディの分身体は手早く言の葉を紡ぎ、『女神像』に向かって解き放つ。


 その刃の行く末を、莉奈の視界を通してグリムは観測する。


 果たしてその刃は——すり抜けてはしまったものの、『女神像』の身体を通過する際、減速した。


「ジョヴェディ、『土』の力を!」


「承知」


 ジョヴェディは振るう。『土』の力を、女神像を支えている地面に。


 ぬかるむ土。その上に立つ女神像は、わずかに沈んだかのように見えた。


 グリムはうなずく。


「……よし。これなら少し、希望が——」


「グリムさん!」


 マルテディの叫び声が響く。



 皆が彼女の指差す方を見ると——



 この地中に作られた部屋の中——



 ——そこには、『天使像』の姿を形取った『影』がたたずみ微笑んでいる姿があった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ