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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第八部 第四章
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『莉奈』の物語 10 —過去を見る者、未来を見る者—





 天が煌めく。



 戦場から未だ離れた馬車付近にいる莉奈たち。グリムは空を見上げ、その煌めきを見て叫んだ。


「『光の雨』がくる! 防御を!」


 たちどころに張られる氷と砂のドーム。暗闇の中、莉奈は意識を飛ばして状況を伝え続ける。


「……ジョヴェディ、『光の雨』を防いでる……魔法じゃ防げないはずじゃ……?」


「……ふむ。莉奈、そのまま観察を。そしてもし、ジョヴェディが勝つようなら——」


 グリムの提案を聞き、莉奈は頷くのだった。







 『光の雨』は降り続けていた。それを障壁の中からつまらなさそうに眺めるジョヴェディ。


 サーバトは、雨を降らせながら言の葉を紡いだ。


「——『氷刃の魔法』!」


 並の術師の何倍もの数の氷刃がジョヴェディを襲う。それを見たジョヴェディは、鼻を鳴らして言の葉を紡いだ。


「——『暗き刃の魔法』」


 生み出された刃は正確にサーバトの放った氷刃へと向かい飛び、次々と落としていく。


 そして最後の一刃——それが、サーバトの肩に深々と突き刺さった。


「……ぐっ!」


「フン。それだけの数を並べるのはまあ大したものじゃが、そのくらいならワシにだって出来る。威力を落としすぎなんじゃよ」


「……くそっ、私は魔王だ、魔王サーバトだ! 貴様ごときに……」


 肩を押さえ、苦悶の表情で睨みつけるサーバトを見てジョヴェディは息を吐いた。そして、かぶりを振りながらぼやく。


「……覚えておけ。自らの肩書きにすがる奴に、大した者はおらん。成長を自ら止めてしまうからのう」


「クソったれがあっ!」


 サーバトは魔法を、光線を乱れ撃つ。ジョヴェディは杖をつき、憐れんだ視線を向けた。


「……まったく、せっかくの魔法が全然練られておらんのう。魔法とは、こう使うんじゃ」


 その言葉と同時に、雷撃がサーバトに落ちる。叫び声を上げる間も無く、黒焦げになり崩れ落ちるサーバト。


 ボロボロの身体を再生させながら、ジョヴェディに視線を向けて彼はうめく。


「……バカ……な。無詠唱……だと……?」


「違うな。このくらいも見破れんようじゃ、魔王を名乗るのも烏滸がましいわい。しまいじゃ」


 天が一段と赤くなる。サーバトが熱を感じ空を見上げると——そこには自身が作るものよりも巨大な火球が浮かび上がっていた。


「……あっ」


 自らの行く末を覚悟するサーバト。ジョヴェディが杖を振り下ろそうとした、その時。赤いマントの人物が、突如この場に現れた。


「……ぬうっ?」


「……邪魔してごめん。これだけ。ねえ、サーバト——」


 そこに現れた莉奈は、サーバトを見下した。



「——次に復活した時は、魔法国跡地で。そこで全ての決着を」



 それだけ言い残して、莉奈は消え去った。ジョヴェディは杖を振り下ろす。



「……う、ぐおぉぉっっ!」



 こうしてサーバトの肉体は、再び消滅したのだった——。







 ジョヴェディの分身体を見つけた莉奈は、彼の隣に降り立った。


「ごめんね、戦いの邪魔しちゃって」


「……フン、リョウカよ、久しいのう……いや……」


 ジョヴェディは、莉奈の瞳を覗き込む。そして、軽く鼻を鳴らした。


「……なんじゃ、『燕』か。何用じゃ?」


「ううん、用はないけど……あなたこそ、どうしてここに?」


 その時、戦いが終わったと判断したグリムたちが二人の元へとやってきた。


「ジョヴお爺ちゃん!」「ジョヴお爺さん!」


「やあ、久しぶりだねジョヴェディ。今までどこにいたんだい?」


「……お主たち……」


 呆気にとられ、目を丸くするジョヴェディ。その彼を連れ、莉奈たちは場所を移し話し合うのだった。








「フン、単なる気まぐれじゃ。若いのが頑張っておるのに、ワシだけのんびりしておるのは性に合わんくてのう」


「若いのとは?」


 ここは馬車の中。グリムの問いに、ジョヴェディは目を瞑って答えた。


「……ライラじゃよ。彼奴あやつは今、孤独な戦いをしておる。詳しくは言わんかったがのう」


 ライラ。その名前を聞いた莉奈の表情が強張る。それでも平静を装って、彼女は尋ねた。


「……ライラって? もしかして、会ったの……?」


 ジョヴェディは莉奈の瞳を覗き込む。そして再び目を閉じ、鼻で笑った。


「ああ。彼奴は前に進んでおるぞい。悲痛なまでの決意を心に秘めて、な」


「………………」


 莉奈は無言でうつむく。その様子を横目で見たグリムは、ジョヴェディに尋ねた。


「もしかして、ジョヴェディ。キミの使っていたという『光』を防ぐ手段、もしかしてアルフに作ってもらったのかい?」


「……相変わらずさといのう。そうじゃ、『光を防ぐ魔法』、あれをライラはアルフレードに作ってもらった。ワシが使えるのは、そのついでじゃ」


「……そう。ライラも、仇を……」


 漏れ出る莉奈の言葉。だがその彼女のつぶやきを、ジョヴェディは否定する。


「違うぞ、燕よ。ワシもセイジの話は聞いたが、ライラは仇など考えておらん。もっと大きなものを……そうじゃな、『未来』とでも呼ぶべきか、それを彼奴は見ておる」


「……『未来』、を?」


「そうじゃ。過去に囚われて、憤り怯えておる、お主と違って、な」


「………………」


 莉奈は、何も言い返せない。ジョヴェディの言うことは真実だ。私は、私を、見失っている。


 その様子を目端で見やり、ジョヴェディはグリムに尋ねた。


「それで、青髪よ。お主の差し金じゃろう。なぜ燕は、一年後に魔法国を指定した?」


「はは。まったく、どちらが聡いんだか——」


 グリムは肩をすくめ、ジョヴェディに答えた。


「——ジョヴェディ。キミは、魔法国に現れた『女神像』の存在を知っているかい?」


「フン。嫌でも耳に入ってくるわ。アレはいったい、なんなんじゃ?」



 グリムは説明する。現時点で知り得る情報を、この稀代の魔法使いに。


 黙って聞いていたジョヴェディだったが——莉奈を庇って消滅したルネディの話を聞き終えると、静かに目を伏せた。


「……そうか。奴はその身を挺して、未来に繋げたんじゃな」


「……そうだね。そうなんだ」


 訪れる沈黙。莉奈はうなだれて話を聞いていた。マルテディとメルコレディの手が、莉奈の手に重ねられる。


 その様な空気の中で、ジョヴェディは、はっきりとつぶやいた。



「……聞かせろ、青髪。お主の考えていることを。『厄災』サーバトを使って、何かする気じゃろう?」







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