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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第八部 第四章
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『莉奈』の物語 09 —喪失—






「——ルネディーーッ!!」



 私は『空間跳躍』をし、『光』を放っている『天使像』を斬り抜ける。両断される天使像。しかしドス黒い血を吹き出しながら、天使像は再生してゆき——。


「……くっ!」


 地面に伏しているルネディを抱え上げ、私は『空間跳躍』をする。少し離れたところまで来ていたグリムが、声を上げた。


「莉奈、こっちだ、戻ってこい!」







「……なんで私なんか助けたのよう……」


 天使像たちから距離をとった私は、ルネディを膝の上に乗せる。マルティやメルも、心配そうにルネディの様子を覗き込んでいた。


「……ふふ。言ったでしょう? あなたを守ってあげるって」


「……いいから、早く再生してよう……」


 私に抱えられている彼女は、全身穴だらけで血が止まる様子もなく。いつもならもう再生が始まっていてもおかしくないはずなのに——。


 その私の顔を力なく見ながら、ルネディは困った顔を浮かべた。


「……それがね……再生……できないみたいなの……さすがは私たちを生み出した、母の力、ってところかしらね……」


「……なんで……なんでよ……」


 私だ。私のせいだ。私が憎悪に駆られ、突っ走ってしまったから——。


「……いい?……リナ、これに懲りたら、一人でなんとかしようとしないこと……復讐だけじゃ、何も得られない……全てを失ってしまうわ……」


「……ごめんね、ルネディ……私が……私が……」


 先ほどから回復薬を掛けてはいるが、全く効き目が現れる様子がない。私の瞳から涙がこぼれ落ちる。私にもまだ、涙があったんだ。


 傷口から立ち昇る黒い瘴気。魔素。彼女の身体が、失われていく——。


 ルネディは首を動かして、マルティとメルの方を見た。


「……マルティ……メル……いいこと?……リナの助けに……なって、あげなさい……」


 涙を流しながら頷くマルティとメル。やめて、私にそんな価値は、ない。


「……じゃあね、リナ……できれば復讐なんて……忘れなさい……」


「……ルネディ……!」


 彼女の身体から、重さが消えていく。ルネディは震える手を上げ、私の目元を拭った。


「……涙は……あなたには……似合わない……笑顔の……私の好きだった……あの時の……あなたに……」


 その言葉を最後に彼女は目を閉じ、そしてサラサラと消えていった。


 私は彼女の魔素を抱きしめるように、抱え込んだ。



「……ルネディ……」



 ——いくら待っても、彼女が復活することは、もうなかった。








 それからの私は、ケルワンを拠点として虚ろな日々を過ごしていた。


 相変わらず私は、野盗や犯罪者、魔物どもは容赦なく斬り捨てていた。


 しかしそれは、もはや世界に対する『復讐心』ではない。そうしなければ私の居場所、私たちの居場所が守れないからだ。


 私は野盗の死体に十字を切り、天を見上げる。


(……誠司さん、ルネディ、みんな……私はもう、『幸せ』にはなれないよ……)


 空は相変わらず赤いままだ。グリムの観測によると、女神像は定期的に『微笑み』を浮かべてはいるものの、その度に『赤い宝石』が光り小規模に収まっているらしい。


 しかし——私にはもう、あの『女神像』に立ち向かう気力は残ってはいなかった。


 私は街外れに借りた、私の家に帰り着く。


「お帰りなさい、リナさん!」


「ただいま、マルティ。メルは?」


「子供たちのところ。メル、人気者だから」


「……ふふ、そっか」


 この地方を襲った『大厄災』以降、人々の暮らしは決して楽ではなくなっていた。親を失った子たちも大勢いる。


 私たちはその中でも必死に生きようとする者たちのため——できることを、今している。



 そのような生活を、一年ほど送っていたある日のことだ。


 グリムが情報を持って、帰ってきた。



「——莉奈。『厄災』サーバトが、復活したらしい」


「……来たか……」



 沈黙の『女神像』は放っておいても現状なんとか生活はできるが、問題はサーバトだ。予測通り、一年ほどの時間をかけて奴は復活してきた。


「……それで、サーバトは今どこに?」


「莉奈。奴は『私たち』をご指名だ。スドラートで待つ、と」


「……そっか。マルティ、メル、力を貸して」


「うん!」「はい!」



 ——こうして私たちは、一年ぶりとなる奴との再戦に向け、旅立つのだった。








「——わざわざ呼び出すからには、何か対策をしているのかもしれない。昼間を指定してきたしね」


「……ま、そうだよね」


 私たちは馬車に乗り、スドラートへと到着した。もはや面影の欠片すら残っていない漁村。とりあえず、『光の雨』には警戒しなくては——。


「……えっ?」


 先行して意識を飛ばしていた私は、その光景に驚く。


 声を上げ立ち止まる私に、グリムが尋ねかけてきた。


「……どうした、莉奈?」


「……待って……戦闘が、始まってる……」








 魔王サーバトに対峙する人影が一つ。


 サーバトは、その者に魔法を放った。


「——『火弾の魔法』!」


 迫り来る巨大な火球。包まれる人影。


 しかしその中から、まるで平然とした様子で人影は歩み出てきた。


「——フン。『魔王』というからどのようなものかと来てみれば、大したことないのう、小童」


「……ぐっ!」


 サーバトは指先を向け、その者に光線を放つ。それを見た人影は、口角を上げて言の葉を紡いだ。



「——『光を防ぐ魔法』」



 その言の葉が紡がれると同時に、人影の周囲に障壁が張られ、全ての光線を弾き返す。


 狼狽するサーバトを見て、その者——ジョヴェディは、楽しそうに笑った。



「……クックッ。随分と便利な魔法じゃのう。どれ、ワシに世界を救う気はないが……ライラ、見ておれ。お主の代わりにこの老骨、久しぶりに動かしてやるわい」





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