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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第一部 第五章
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『厄災』来たりて 07 —共闘—






(……ちょっとちょっとちょっと! 何よアレ、めっちゃ怖いんですけどっ!?)


 平静を装い、逃げると見せかけて空から奇襲を仕掛けた莉奈だったが、内心では滅茶苦茶びびっていた。冷や汗はダラダラで、心臓はバクバクだ。


 ——誠司さんはあんなのを相手にしていたのか。


 莉奈は二回目となる『灯火の魔法』を唱え、身体にまとわりつかせる。


(さて、どうしたものかな……おっと!)


 ルネディの方から魔力の波動を感じ、飛んでくる『暗き刃の魔法』をひらりと避ける。


 莉奈は考える。先程のルネディを両断した一撃と煽りで、彼女にとって莉奈は無視出来ない存在になっているだろう。


 今は少しでも、ルネディの注意を引きつけないと——莉奈は、ルネディに向かって急降下する。


 莉奈の接近に気づいたルネディは、彼女を取り囲む影を引っ込め、代わりに影の防壁を展開した。


 それを確認した莉奈は、一転、急上昇をして再び距離を開ける。矢による援護も忘れない。


(あの影……ある程度、リソースが限られている?)


 莉奈は気付く。この周辺どころか街中にまで出現していた人型の影だったが、ルネディの周りの影しか動いていない。俯瞰ふかんしているとよく分かる。ただ、影で壁を張るなんて聞いていなかったが。


(……なるほどね、ここに突破口があるかも。うんうん)


 分かったふりをした所で、何か名案を思いつく訳でもない。再び飛んでくる『暗き刃の魔法』をかわしながら、莉奈はルネディに向かい急降下し、そして直前での急上昇を繰り返すのだった。






(……フン、ちょこまかと鬱陶うっとうしいわね、あの娘)


 ルネディは苛立っていた。幾度となく接近してくる莉奈を、壁を張り牽制する。


 例え陸上で千の兵に襲われようと、影達がいれば大した問題ではない。


 だが、たった一人空から攻撃してくる相手がいるだけでこうも面倒くさくなるものかと、ルネディは辟易へきえきする。


 一瞬、全ての影を収束し莉奈を叩き落としてしまおうかとも考えるが、それをすると誠司に大きな隙を晒してしまう事になる。半月である今夜は、分が悪い。


(……まあ、いいわ。その内、落ちてくるでしょ)


 ルネディは、『空を飛ぶ魔法』の消費魔力は甚大じんだいなものであると記憶している。


 放っておいても問題はない。いずれ魔力切れで落ちてくる筈だ——ルネディは『暗き刃の魔法』を放ち、決して訪れる事のないその時を待つ。






 誠司は内心、舌を巻いていた。莉奈がいるだけで、こうも戦闘が楽になるものかと。


 ルネディが莉奈に意識を向ける度、そして、壁を張る度、誠司は余裕を持って動ける。


 それを証拠に、致命の一撃こそ与えられていないものの、先程から幾度となく誠司の切っ先はルネディを捉えていた。


 相性の問題でもあるが、例え莉奈の代わりにノクスと一緒に戦ったとしても、こう上手くはまらないだろう。


(いずれ、私なんかよりもよっぽど強くなってしまうんだろうな)


 それ程までに、空を飛ぶスキルの戦闘面での親和性は高い。


 だが、誠司には誠司の戦い方がある。誠司にしか出来ない事がある。誠司は影達を躱し、ルネディの元へと駆け続ける。






 まるで踊るかの様に華麗に避け続けていたルネディだったが、ついに、その夜の蝶を誠司のやいばが捉える。


 莉奈に気を取られた一瞬の隙をついて、ルネディの首元を狙って振り下ろされる誠司の一撃。だが——


 次の瞬間、ルネディの身体が消えた——いや、落ちた。正確には、地面の影に逃げ込んだのだ。


 残された影達が、誠司を取り囲もうとする。が、誠司は迷いなく、ある一つの影に向かう。


「——そこだ」


 横薙ぎ一閃、影に擬態したルネディを誠司は切り裂く。


 慌てて飛び退こうとした影だったが、その一太刀は大きくルネディの胸を切り裂いた。吹き出すドス黒い血飛沫ちしぶき


「……何で、分かったのかしら?」


「ふん。私に擬態は通用せんよ」


 追撃を試みる誠司だったが、ルネディは再び影の中に沈む。


 これだ。ルネディにはこれがある。


 さっきもやられた様に、彼女は影の中に逃げ込む事が出来るのだ。誠司は歯噛みをする。


 だが、影達が変わらず襲いかかってくる所を見ると、どうやらこの場から逃げる気はなさそうだ。


(……さて、どうしたもんかな)


 地面に潜られたら、基本的に手の出しようがない。誠司は注意深く魂の動きを探る。


 その時、誠司を掴もうと、地面から無数の影の手が生えてきた。


(必死だな。だが、浅いんだよ)


 誠司は、次々と生えてくる手を躱しながら、魂の方へと向かった。そして飛び上がり、魂のある位置に向かって、地面の影に刃を突き立てる。


『ギャッ』という悲鳴が、地中から聞こえた。ルネディの魂は誠司から距離を取り、そして彼女は目を押さえながら影から姿を現す。


「……ほんと、何で分かるのかしら。忌々(いまいま)しい」


「さあね。なんでだろうな」


 先程突き刺した刃は、ルネディの目を貫いた様だ。胸の傷も、まだふさがりきっていない。


 そのルネディ目掛けて、莉奈が高速で近づいて来る。


 ルネディは、大きな影の腕を地面から生やし莉奈を捕まえようとするが、掴まれるすんでの所で莉奈は急上昇し、その攻撃も空振りに終わる。ルネディは激しく頭を掻きむしった。


「——ああ、ほんと鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい!殺す殺す殺す!」


 ルネディはヒステリックに叫ぶ。その声を合図に、影達が彼女を中心に集まり出した。


(——不味い、何かする気だ)




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