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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第八部 第四章
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『莉奈』の物語 08 —女神と天使—






 私は高台の上に降り立ち、視界にはっきりと映し出されるそびえ立つ『女神像』を眺める。


「——ちょっと近くまで意識飛ばしてみるね」


 皆の脳内に声を届けながら、私は『女神像』のそばまで意識を飛ばす。


 無機質な顔立ち、表情は、ない。私は見た状況を、そのまま皆に伝え続ける。


「——冬の空のような、銀鼠色。無機質、無表情。微笑みは浮かべてない。両手は軽く広げていて……胸元に赤い宝石……みたいなのがある」


「——宝石? それはどういったものだい?」


「——……三メートルくらいの大きさの宝石。中身は……液体みたいなものに満たされているように見える」


「——そうか、続けてくれ」


 グリムに促されて、私は下の方へと意識を動かしていく。


 そこには——。



「——……ねえ、グリム」


「——どうした?」



 私は、見たままの状況を伝え、彼女に尋ねる。



「——足元から距離を置いて……え、待って……三、四……六体。全部で六体、人と同じサイズくらいの『女神像』が本体を取り囲むように佇んでいる。あれは、何……?」


 そう。あれは少女の姿を形取った女神像。それらが『女神像』を見上げるように、佇んでいるのだった。








「……そんなことになっているとはな」


 私は野営地にしている大きな岩山の裏へと戻り、改めて皆と情報を共有する。私の報告を聞き終えたグリムは深く考え込み、口を開いた。


「……混同しないよう、周囲の六体は『天使像』と仮称しよう。それでその天使像は、動いたり『微笑み』を浮かべていたりはしていたかい?」


「……ううん。そんな様子は、なかったと思う」


 六体の『天使像』とやらは静かに佇んでいるだけだった。不気味なほどに。


 しばらくグリムは思考していたようだったが、やがて息を吐き立ち上がった。そして自らの腕を切り落とし、端末を生成する。


「考えても答えは出そうにないな。私の端末が行く。皆、『大厄災』がいつ襲ってきてもいいように、身構えていてくれ」


「……大丈夫なの?」


 『大厄災』の再発を一番懸念していたのはグリムだ。彼女が率先して行動に移すのは、意外だった。


 しかしグリムは、乾いた笑いを浮かべて私にウインクをするのだった。


「放っておいてもキミは行ってしまうのだろう? なら、私に任せてくれ。もし『大厄災』を誘発してしまったとしても、できるだけ情報を集めてくるさ」








 グリムの端末は、慎重に接近していく。瓦礫さえも吹き飛ばされた荒野の中、『遠くを見る魔法』の力が込められたゴーグルを掛け、正確に距離を計測する。


(……各『天使像』間の距離は五百メートルといったところか……動きは、しないのか?)


 グリムは慎重に、一歩一歩計測しながら『女神像』本体へと歩みを進めていく。その『女神像』の足元には、割れた種らしきものがあった。


 そしてそれは——女神像の身体をすり抜けて映っているように見えた。


(……『女神像』……実体はないのかもしれない……な)


 ザッ。観察を続けながら、グリムがまた一歩、踏み出した時だ。



 ——視線を、感じた。



 グリムは念の為、『天使像』から距離をとり進んでいた。右方向、二百五十メートル。左方向、二百五十メートル。


 そこに位置する『天使像』は——こちらを見て『微笑み』を浮かべていた。


「……!!」


 動こうとするが、動けない。見るとグリムの足は『影』に掴まれており——。


 グリムは急ぎ、腕を切り落として端末を増やす。直後、掴まれているグリムは『光』に穿たれた。


「……くっ!」


 グリムは端末を増やしながら駆け出した。ゆっくりと動き出す『天使像』たち。


(……これは……)


 足元の『土』がぬかるんでいく。『風』が『氷』を運び、『砂』つぶてが視界を奪う。


 作り上げた端末たちが、次々と失われていく。グリムは指を切り落とし、『女神像』へと向かって投げ——。



 その時だ。『女神像』本体は、『微笑み』を浮かべた。








「…………『大厄災』が、来るぞっ!」


 野営地のグリムは、叫ぶ。身構えていたルネディとマルテディ、メルコレディは、急ぎ影と砂と氷をドーム状に張った。


 吹き荒れる終焉の『色彩』。赤々とした空が一段と赤く染まる。


 ルネディが、マルテディが、メルコレディが、必死になって防御し続ける——。



 だが。



 今回の『大厄災』は、数秒もしない内に収まった。


「……ねえ、グリム。これがあなたの言っていた、小規模の『大厄災』……?」


 莉奈が意識を飛ばし、周囲の状況を確認しながらグリムに問いかける。


 グリムは深く息を吐き、莉奈に答えた。


「……ああ。そして、私の端末は最後に見た。あの『女神像』の胸元にある赤い宝石が輝いた瞬間、『大厄災』は収まった」


「それって……」


 莉奈の思いつきを肯定するかのように、グリムは頷く。


「ドメーニカの意識は……あの『赤い宝石』の中にあるのかもしれない」


 その返事を聞き、莉奈は太刀を握りしめた。


「……そっか。なら、あの宝石を壊せば、『女神像』も消えるかもしれないね」


「……いや、可能性はあるが——」


「じゃあ、行ってくる」


「待て、莉奈!」


 グリムの制止する声も聞かず——莉奈の姿は、忽然と消え去ったのだった。







 私は飛ぶ。この『大厄災』を、終わらせるために。


 私の『空間跳躍』なら、『天使像』が動き始める前に宝石を破壊できるはずだ。


(……待っててね、誠司さん。今、終わらせるから……)


 意識を飛ばし、『天使像』の動きを警戒しながら私は近づいていく。私にしかできないんだ。私がやらなきゃ。



 やがて、あと一跳躍で届く場所までたどり着いた。『天使像』が動く様子は、ない。


 深呼吸をした私は、一気に赤い宝石の前まで『空間跳躍』をした。



「……さようなら、ドメーニカ」



 振るう太刀。それは、赤い宝石を打ち砕——




 —— キン




「……えっ?」




 私の太刀は、結界のようなものに弾き返された。千年前の話が頭をよぎる。これは、ファウスティという人の結界の力か——?



「——リナ!!」



 呼ぶ声に、意識が引き戻される。私が意識を向けると、地面を駆けてくるルネディの姿。そして、私に向かって『微笑み』を終えた、『天使像』たちの姿があった。


「……あっ」


 色とりどりの『厄災』が、宙に浮く私目掛けて飛んでくる。それはすでに、目前まで迫っていて——。


 辺りが、急に暗くなった。これは、ルネディの影?


 私は周囲を確認し、『空間跳躍』で安全圏に退避した。



「……助かったよ、ルネ——」



 私の視線の先、そこには。




 数多の光線に撃たれ崩れていくルネディの姿があったのだった。




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