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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第八部 第四章
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『莉奈』の物語 07 —安らぎ—







「……莉奈……駄目だ、行っては……いつ、再び『大厄災』が起こるか……」


「どこにいても一緒でしょ?」


 あの『大厄災』はまだ一回しか発生していないが、千年前のように断続的に発生するようであれば少なくともこの地方、安全な場所などないだろう。


 なら。私は誠司さんの遺した世界から全てを奪う『女神像』に、せめて一太刀入れてやらねば気が済まない。


 誠司さんを理不尽に奪ったこの世界から、なおも全てを奪おうとするあの『女神像』に。


 そう、誠司さんの遺した、この太刀で——。



「……待ちなさい、リナ」



 呼び止める声がした。私が目線をやると、その人はため息をつきながら立ち上がった。ルネディだ。


「少しは冷静になったらどうなの? 犬死にしたいのかしら?」


「……うるさい」


「ああ、セイジとかいう男も不憫ね。せっかく命をかけて助けた命が、こんな無駄なことに使われてしまうなんて」


「うるさい! あなたに何がわかる!」


 私は、叫ぶ。しかし彼女は、止めることはしなかった。


「今のあなたよりは分かるわよ。あの男、単純だもの」


「あなたが誠司さんを語るなっ!」


 私は怒りに身を任せ、『空間跳躍』でルネディの背後に回り太刀を彼女の首にあてがう。


 だが、ルネディは——その刃を手でつかみ、優しく振り向いた。



「——『来るな、来るんじゃない、リナ!』」



「………………!!」


 その言葉を聞いた、私の刃から力が抜ける。彼女はその刃を握る手から黒い血を流しながら、微笑んだ。


「……私と戦った時、あの男は泣き出しそうな顔でそう言っていたわ。今のあなたを見たら、きっと同じことを言うと思うのだけれど」


 そうだ。あの時も誠司さんは、死の危機に瀕しながらも私の心配をしてたっけ——。


「ねえ、リナ。あの男が望むのは、『復讐』? それともあなたの『幸せ』? どちらかしら」


「…………わかってるよ……でも……」


 そんなのは、決まっている。だからこそ、私は今のこの世界が許せなくて——。


 うなだれる私の肩に、彼女の手は置かれた。


「さ。落ち着いたら行くわよ。しっかり準備をして、私たちと一緒に、ね」


「……ルネディ……止めないの……?」


 てっきり止められると思った私は、ルネディの顔を見つめる。彼女は手をヒラヒラとさせながら背を向けた。


「止めたって結局あなたは行くのでしょう? 私はあなたに犬死にして欲しくないだけ。ただそれだけ。私たちが一緒なら、あなたを守ることができるかもしれない、それだけよ。さ、マルティ、メル、準備なさい——」









「——注意点がある。この地方を襲った『大厄災』、あの規模のものは最初の一回だけだったが……小規模のものは不定期に頻発している。まるで抑えきれないものが漏れ出ているかのようにね」


 街での準備を終えた私たちは、今、『女神像』の元へと向かっている。


 同行者はグリムにルネディ、そしてマルティとメル。セレスさんは街のことがあるので同行できないと、疲れ果てた顔で頭を下げていた。


 私たちは夜営をしながら、目的である『女神像』の状況を確認する。


「それで、あなたは様子を見に行ったわけ?」


 ルネディの質問に、グリムは息を吐いた。


「遠巻きにはね。何が『大厄災』のトリガーになるか分からないから、近づくのは今回が初めてだ」


「……あの……なら、私たちが近づいても大丈夫なのかな……?」


 マルティが不安そうな表情でグリムに尋ねる。グリムは私の顔を盗み見たあと、焚き火を見つめる目を細めた。


「……希望的観測はあるよ。私にはあの『大厄災』の力を……ドメーニカ、もしくはファウスティが必死に抑え込んでいるように感じられるんだ」


「……ドメーニカちゃん……」


 メルは寂しそうな顔でうつむいた。千年前の話は、彼女たちにも共有してある。


 ヘクトールによって力を暴走させられた少女ドメーニカ。その力を封じ込めるためにその身を犠牲にした軍人ファウスティ。


 その封印は、ヘクトールの手によって破られた。『発芽』とか言っていたか。もしも彼が、余計なことさえしなければ——。


 そこまで考えを巡らせた私の肩に、ルネディの手が置かれた。


「リナ、もう寝なさい。あなた、最近……いいえ、このところ、ずっとロクに眠れていないのでしょう?」


「…………まあ……ね」


 眠ってなんかいられない。私は、この世界を『綺麗』に——


「眠りなさい。私たちがそばにいる間は、せめて」


「リナさん、何かあったら私たちに任せて」


「うん、リナちゃんはわたしが守るから!」


「………………」


 なぜ、彼女たちは私に優しくしてくれるのだろう。こんなになってしまった私を。


 私は皆に背を向け、無言で横になる。



 ——この日はいつもより、少しだけ深く眠れたような気がした。





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