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ライラと『私』の物語  作者: GiGi
第八部 第四章
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『莉奈』の物語 05 —復讐の終わりに—





 莉奈は、倒れるサーバトの身体に馬乗りになる。そして、手際よくサーバトの両腕を斬り落とした。


「メル、マルティ」


「うん!」


「はい!」


 サーバトの両腕が、氷と砂に包み込まれる。


 床に転がりその状況を見るサーバトの頭部に、グリムは近づいていった。


「どうだい、サーバト。かつての仲間に裏切られる気分は?」


 サーバトの念波があたりに響き渡る。


『……きさま……グリム、裏切っていたのか……』


「ふむ、失礼。裏切るという言葉は適切ではないね。そもそも私は、最初から莉奈の味方だ」


『……くそ……なんで……』


 憎々しげな瞳でグリムを睨むサーバト。その彼を見下ろしながら、グリムは告げる。


「まあ、この場でベラベラ喋るほど私はお人よしじゃない。キミとは再戦する可能性が高いからね」


 背後では、莉奈が小太刀をサーバトの身体に突き立て続けていた。返り血で真っ黒になっても、なお。


 窓の外からその様子をうかがうメルコレディとマルテディは、複雑な表情を浮かべていた。


 やがて立ち上がった莉奈は、無数の肉片を睨みながら声を掛ける。


「メル、マルティ、お願い」


「……うん……」


 メルコレディが指を回すと、サーバトの肉片は瞬く間に氷漬けにされた。そして、転がっているサーバトの頭部も——。


 砂が出現し、それらを集め、覆い、球体を形作る。そして、その球体を窓から外へと運び出した。


 莉奈は『空間跳躍』し、砂が解除されたその肉片に液体燃料を注ぎかける。そしてそれに——火をつけた。


 一瞬にして燃え上がる炎。その立ち昇る炎を睨み、莉奈は背を向けた。


「……ルネディ。燃え広がらないように、お願い」


「……ええ」


 炎を、ルネディの影が包み込む。



 満月のもと、復讐の儀式は——いったん幕を閉じるのであった。







「まあ、どこにいても一緒よ。惹かれ合う『魂』があれば私たちのようにすぐに形作ることもできるでしょうし、そうでなければ少なくとも半年から一年は復活は無理でしょうね」


 『魔女の館』から村へ降りる途中、どこで話をしようかと思案している私たちにルネディは説明してくれた。何分、『魂』から復活した経験のある彼女の言葉だ、信ぴょう性は高いだろう。


 漁村についた私たちは、村の惨状を見る。辺りに散らばっている人らしきものの肉片。


 グリムがパチンと指を鳴らすと——それらは光の粒子となって消え去っていった。


「ご覧の通り、これらは私の端末の肉片だ。少なくともこの村の人たちは、別の場所に避難している」


 彼女はサーバトを欺くため、あらかじめ攻撃の対象となる村々に先回りして村民に避難を促し、そして彼らと入れ替わってなりすましていたらしい。


 ただ、被害は決してゼロではなく——物理的な損害はもちろん、サーバトの気まぐれで襲われた村などは、救いきれなかったようだ。


 私たちは村の片隅で焚き火をしながら、今回の件について語り合う。


「……でも、グリム。私が動かなかったら……どうするつもりだったの?」


「……莉奈。その前に一つだけ聞かせてくれ——」


 グリムは目を細めて私の方を見た。


「——彗丈を殺したのは、キミかい?」


「………………」


 私は焚き火を見つめながら、無言を彼女に返す。ただ——この沈黙は、肯定したも同然だろう。


 グリムは私を優しく見つめ、続けた。


「私は、そう思った。だからキミなら、サーバトの名前を聞けば必ず動くと思っていた。もしキミが動かなかったら……申し訳ないが、私だけで彼女たちと仇討ちしていたよ」


 そう。グリムは端末を動かして既に接触していた。彼女たち『厄災』と。そして、機会をうかがっていたというわけだ。


 ——あわよくば、私に、仇を取らせるために——。


「……そっか。だからサーバトの名前を出して、『緊急招集』で私にこれを見せたんだね」


 私は荷物から折り畳んだ紙を取り出して広げた。


 これは、そう、ギルドで渡された果し状とも呼べる紙。


 その周りの、装飾と思わしき部分には——



 ——この世界の人には分からない、模様に見せかけた『日本語』で、びっしりと今回の計画について書き込まれていたのだった。


 『厄災』たちと連絡がとれ、準備可能なこと。サーバトの実体化の可能性、そのために、決行日は満月の今日が指示されていた。



「……それにしても——」


 私は苦笑いを浮かべる。


「——よく分かったね、私の生きていたことが」


「……ああ、『魔女の家』にも寄ったからね」


 その言葉を聞き、私の肩がビクッと跳ねた。私は息を飲み、平静を装って彼女に尋ねた。


「……それで……ライラは?」


「……家にはレザリアしかいなかったよ。ライラはどうやら……妖精王のところに避難しているようだ」


「……そっか」


 私は安堵する。ライラが生きていたことに。


 もう、あの娘に顔を見せることはできないけど——それでも、彼女が立ち上がって歩き始めたのは嬉しいことだった。


「……ねえ、グリム」


「……なんだい?」


「……私ね、この世界を綺麗にしたいの。誠司さんが遺した、この世界を」


「…………莉奈…………」


 グリムも、ルネディたちも、心配そうな顔をしているのが伝わってくる。


 しばらく沈黙が続いたが——やがてグリムは、力強くうなずいた。


「……ああ。私はいつだって、莉奈、キミの味方だ」


「…………誠司さん、怒るかなあ」


「……今は考えるな。とりあえず、サーバトが復活する前に奴の『魂』を消滅させる方法を——」




 その時だ。突然、脳裏に巨大な女神の『微笑む』映像が映し出された。


 私は立ち上がり、その方角を向く。どうやらそれはみんな一緒だったようで、同様に立ち上がって同じ方向を向いていた。





 直後——




 ——空は赤く、燃え上がった。





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