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ライラと『私』の物語  作者: GiGi
第八部 第四章
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『莉奈』の物語 04 —仇—





 カツン




 静寂の夜の館に、足音が響く。



「——来たようですね、魔王サーバト様」


「……フン。このまま来ないかと思ったぞ」



 『魔女の館』。数部屋の壁が壊され、大広間とも呼べるほどの広さになった部屋にサーバトは座していた。


 やがて入ってくる、赤く染まったマントを身につけている女性。彼女は太刀を抜き、その刃先をサーバトとグリムに向けた。


「来てあげたよ、サーバト。そして——」


 莉奈は鋭い視線で青髪の女性を睨みつける。


「——グリム」


 彼女の呼びかけを受けたグリムは、身じろぎすることなく莉奈のことを見据えた。


「久しぶりだね、莉奈。悪いが、魔王サーバト様の世界掌握のための、礎になってもらう」


「…………チッ」


 莉奈は舌打ちをし、サーバトの方に視線を向ける。彼はゆっくりと立ち上がり、愉快そうに笑った。


「……クックッ。あの時のお前が『英雄』だったとはな。どうだ? かつての仲間に裏切られる気分は?」


「……最悪だよ。あなた、どうやってグリムを……?」


「フッ。こいつから頼んできたのさ。私が世界を掌握する姿を、この目で見てみたいとな」


「ええ、魔王サーバト様のお力は素晴らしい。まあ、莉奈、キミでは勝てないだろうね」


 そう言ってグリムは口角を上げた。その彼女を横目で見たサーバトは、頬を緩めて頷く。


「私は強い者が好きだ。そこのグリムの持つ頭脳は素晴らしい。どうだ、『白い燕』よ。お前も私に忠誠を誓うのなら、使ってやらないこともないが?」


「……気持ち悪い。反吐が出る」


 莉奈は眉を思いっきりしかめて吐き捨てた。サーバトは薄ら笑いを浮かべ、その指を莉奈に向けた。



「なら、死ね」



 指先から放たれる光線。それを莉奈は『空間跳躍』で横にかわす。眉を上げるサーバト。


「……ほう? そういえばあの時も、お前の姿が一瞬にして消えたように見えたが……」


「……お喋りするなんて、余裕だね」


 莉奈は一瞬にしてサーバトの背後に現れる。振るわれる太刀。だがその一刀は、サーバトの身体をすり抜けてしまった。


「……くっ」


「無駄だ」


 サーバトは莉奈の首をつかむ。光が収束していく。莉奈は急ぎ『空間跳躍』で脱出した。直後、サーバトの手から行き場をなくした光が爆発する——。


 距離を置いて現れた莉奈を見て、サーバトは嘲笑を浮かべた。


「ハハッ、逃げるのだけはうまいようだな。あの時のように」


「……黙れっ!」


 莉奈は吠え、『空間跳躍』でサーバトに一太刀入れてすぐに離脱する。それを見たサーバトは、大げさに息を吐いた。


「……しかし、あの能力……面倒だな。グリム、妙案はあるか?」


「……そうですね……彼女はどうやら前回のサーバト様の『光の雨』を逃れきったようですからね。ここはお手間でしょうが、確実に仕留めるのがよろしいかと」


「……そうだな。『白い燕』を倒した、という証拠も欲しいしな。その首、その身体、言うことを聞かない馬鹿な国どもに送りつけてやるとするか」


「……やってごらんなさい」


 サーバトは撃つ。数多もの光線を。それらを翔び、飛び、跳びかわす莉奈。


 だが、余裕はない。額に汗を浮かべながらかわし続ける莉奈に向かって、サーバトは十本の指を向けた。



「終わりだ!」



 同時に放たれる光線群。部屋中に光が乱れ飛ぶ。その内の一本が、跳躍し終えたばかりの莉奈に向かって——。




 その時、突如、莉奈を包み込むように壁が現れた。



 それは、強固な砂の壁。



 そしてそれは、光線をドスッと受け止めた。




 眉をしかめるサーバト。砂の壁はサラサラと崩れ、その中の莉奈は真っ直ぐにサーバトを見据えていた。


 サーバトはうめく。


「……なんだ、あれは……グリム、どうなっている?」



 その問いを受けたグリムは、ほくそ笑む。



 そして、一歩前に出て、振り返り——



 ——口角を上げて、答えた。



「おやおや。サーバト様ともあろう方がご存じでないとは。なにも、『厄災』は……あなた一人だけでは、ないんですよ?」



 驚愕の表情を浮かべるサーバト。なんだこの女は、何を言っている——?


 カツン、カツンと歩みを始める莉奈。


「……くっ!」


 サーバトはやたらと光線を放つが——



 ——今度は彼女を包み込むように現れた氷に、全てが弾き返されてしまった。


 茫然とその光景を見るサーバト。そんな彼に、グリムは語りかけた。



「ボーっとしている場合ですか、サーバト様——」



 彼女は堪えきれずに、笑みを浮かべる。



「——あなたの足元、『影』が出来上がってますよ?」



「……!!」


 サーバトは慌てて足元を見る。


 彼の持つ特性は『光』。その特性があるからこそ、物理的な攻撃手段の一切が通用しないのだ。


 そう、それはまるで、光を斬ることが不可能なように。


 だから、彼には、『影』がない。その彼に影ができたということは——。


 その時、窓辺から声がした。


「……クスクス。今夜は『満月』、私の『影』の力が存分に発揮できる日よ。『光』のあなたに実体を与えるくらい、わけないわ」


 月明かりを受けながら窓辺に腰掛ける月下美人。彼女を視界に捉えたサーバトは狼狽する。まさか、無敵の身体が実体化してしまったというのか——?



 それを見たグリムは、想いを込め、叫ぶように声を上げた。




「——莉奈、待たせた! 誠司の……仇をっ!!」




 —— 斬




 飛来一閃。次の瞬間にはもう、赤い軌跡はサーバトの首を刎ね落としていたのだった——。




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