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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第八部 第四章
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『莉奈』の物語 01 —赤い世界の莉奈—









「リナ、嫌い!」


 ライラの投げつけたものが、力なく私の身体に当たり、バサッと床に落ちる。


 私はそれを拾い上げ、声を詰まらせながら謝った。


「…………ライラ……ごめん、ごめんねえ……」



 光の『厄災』サーバトが現れてから、ひと月半。


 誠司さんとヘザーが失われてから、ひと月半。



 私は何とか目の前の少女を助け出すことには成功した。


 でも——私は私の大切な人、誠司さんとヘザーを助けることは出来なかった。


 魔法国の城は、『光の雨』によって半壊していた。私は必死になって、すがる思いで瓦礫の中、誠司さんたちを探したけど——見つけられたのは、誠司さんの眼鏡とあの人が使っていた太刀だけだった。



「……もうリナの顔……見たくない」


「………………」



 ライラはうつむいて、ひび割れた眼鏡を眺め続ける。ライラの大好きだったお父さん。


 目の前の少女が怒るのも当たり前だ。


 ライラの言う通り、私は、誠司さんを、見殺しにした。


 私は感じ取る。この少女との関係は、終わってしまったのだと。



 ——あーあ。家族ごっこ、終わっちゃったね。せっかく上手くいってたのに——



 過去の私が語りかける。


 私の大切な、この世界で私を迎え入れてくれた家族たち。それはまるで夢だったかのように、全ては失われてしまった。


 私のせいだ。何が英雄『白い燕』だ。私がもっと、強ければ——。


 私は太刀を手に取り、少女に声をかけた。


「……ごめんね、ライラ……これだけ、借りてくね……」


「……………………」


 返事をしないライラに背を向け、私は太刀を杖がわりにし、歩き出す。『光の雨』に穿たれた右足はもう、使い物にならないかもしれない。


 

 ——ごめんね、ライラ。必ず、仇はとるからね——。



 その日を最後に、私はこの家に帰ることはなかった。







 目的地へ向かう途中、私は岩陰に身を隠し、夜営をする。


 めくり上げた右足は——変色が始まっていた。


(……だましだましやってたけど……もう、限界か)


 この世界の回復薬は強力だ。でも、失われた肉体を再生させるほどの力はない。


 放っておけばいずれ腐り落ちてしまい、その時には取り返しのつかないことになっているだろう。


 私は布を噛み、誠司さんの太刀を膝下にあてがう。


「…………フーッ……フーッ…………」


 息が荒くなる。幸い私には、『飛ぶ能力』がある。片足だけでも何とかなるはずだ。


 そして私は、刃を——。


「…………ーーーーッーーーー!!」


 布を強く噛み締める。刃は深く入り込んでいくが、骨が邪魔だ。


 私はボロボロと涙をこぼしながら、一気に力を込めた。


「…………ッゥアーーーッ!!」


 傷口から血が溢れ出す。私は急いで回復薬を傷口にかけた。


 立ち昇る臭気。この世界の回復薬は染みるはずだが、もう頭が痺れて何も感じられなくなっていた。




「…………フーッ……フーッ…………」



 気がつけば、私は仰向けになり夜空を眺めていた。私は上体を起こし上げ、傷口を見る。どうやら上手く塞がってくれたようだ。


 私は私から切り離されたものを見て、つぶやいた。



「……さようなら、私の右足……」







 あれからしばらく旅を続け、私は目的地、ブリクセンへと到着した。


 彗丈さんの店、『人形達の楽園』——そこが私の、目的地だ。


 店に入り私の姿を認めた彗丈さんは、ひどく疲れ、うつろな表情を浮かべていた。


 私はそんな彼に、お願いをした。



「……すいません、彗丈さん。義足を作ってもらえますか?」





「……誠司のことは、残念だったね……」


「……いえ」


 彼は手際良く、私の義足を作ってくれた。元から作ってあったものを、私のサイズに調整してくれた形だ。


 彗丈さんは義足を取り付けながら私に尋ねる。


「……でも、いいのかい? 時間さえもらえれば、本物と遜色ない君専用の義足が作れるけど」


「……いえ。頑丈であれば、それで」


 私につけられている義足も、ヘザーの金属製の骨格と同等の素材が使われているようだった。丈夫さに関しては、これで問題ないだろう。


「……さあ、終わったよ。立ってみてくれ」


「……はい」


 私は立ち上がって右足を上げ下げし踏みしめてみる。うん、これなら普通に動く分には何とかなりそうだ。


「ありがとうございます、彗丈さん」


「いや、このぐらいしか出来なくて申し訳ないけど——」


 言いかける彼の言葉を遮って、私は質問をする。


「それで、彗丈さん」


「……なんだい?」



「あなたがサーバトを……『厄災』たちを復活させていたんですか?」



 聞くまでもない。サーバトが登場したあの時、目の前の彼の全てを見通していたかのような言葉。そして、『魂』の位置を認識できるはずの誠司さんが、あそこまでサーバトの接近を許してしまったこと——。


 それも、彗丈さんが人形を動かし、『厄災』として命を吹き込んでいたのだとしたら、全てに納得がいく。



 その私の質問に、彗丈さんは目を伏せて答えた。



「……ああ、そうなんだ。まさか、こんなことになるとは……」


「……そう」



 私は一瞬にして彼の背後に『空間跳躍』する。


 そしてそのまま、何事か理解できていないであろう彼の首を——



 ——刎ね落とした。



 落ちる首。吹き出す鮮血。私の白いマントが返り血で赤く染まっていく——。


 床に倒れる彼の身体を眺めながら、私はつぶやいた。



「……よかった、素直に言ってくれて。早くあなたを殺したくて、仕方なかったから——」




 ——この日、私は、初めて人を殺した——。




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