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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第八部 第三章
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対『最後の厄災』攻略戦 11 —それは唐突に訪れる終わり—






 空間の亀裂から吹き出す炎。


 炎に包まれた人影。


 その人影の顔には、歓喜の『微笑み』が満ち溢れ——。



 氷竜が、メルコレディが咄嗟に氷を放つ。周囲を覆う氷、防がれる炎。


 皆が、茫然と立ち尽くす。確かに、十八年前はこれで閉じ込められたはずなのに——。


 その中で、異変を感じ取り詠唱を始めていたジョヴェディの言の葉は紡がれた。



「——『凍てつく時の結界魔法』!」



 地面に落ちた『最後の厄災』は、動きを止める。


 しかし——。


 その顔は、いびつに『微笑み』を浮かべようと動きもがいていた。


「……ぐっ……ぬうっ!」


 ジョヴェディは力を込める。力を込めながらジョヴェディの本体は、グリムの隣に降り立った。


「……どういうことじゃ、青髪……いったい、どうなっておる……」


「……わからない……座標の再使用による空間の脆弱化、経験による空間を破る手段の確立、エリスに対する執着心、さまざまな理由が考えられるが、ただ一つ——」


 グリムは憎々しげに『最後の厄災』を睨んだ。



「——『最後の厄災』は、今、空間を破り戻ってきた。その事実があるのみだ」



 蔓延する絶望。皆が困惑しながらも、グリムの指示を待つ。


 ジョヴェディは額に汗を浮かべながら、グリムに問いただした。


「……どうするんじゃ、青髪。あまり時間は残されておらんぞい!」


「……待ってくれ……今、考えて……」


 燻り、ところどころ立ち昇る炎を見つめながら、グリムはその頭脳をフルで回転させていた。



 ——全ての変数を再計算、結果は変わらず。思考ルーチンのループ、論理的隘路(あいろ)……Error: Solution not found……つまり……——



 彼女は拳を強く握りしめ、皆に告げた。




「…………『撤退』だ」




 認める、敗北——。元AI、グリムの演算能力を持ってしても、『最後の厄災』の脅威はそれを超えてきた。


 皆が絶望に打ちひしがれる。あらかじめ撤退は視野に入っていたとはいえ、なら、仕切り直せば勝てるのか——。


 ——『最後の厄災』の脅威を、そして異常さを目の当たりにした皆は、誰一人としてその淡い未来を見出すことはできなかった。


 皆はうなずき、一箇所に集まる。エリスのゲートを通れば、今なら撤退は容易いはずだ。


 そして、逃げた先、その未来を誰もが思う。



 ——このまま、世界は滅亡してしまうのだと——。



 メルコレディが、氷竜が、時折り立ち昇る『終焉の炎』を抑え込む。


 苦しそうな表情を浮かべながらも、皆が撤退の行動を開始しようとした、




 ……その時だ。




 ——ジョヴェディが、力のない声でつぶやいた。



「……すまんのう。ワシらじゃどうすることも出来んかった。あとは任せたぞ——」



 皆がジョヴェディの方に視線を向ける。彼は、天を見ながら、その者の名をつぶやいた。




「——……リョウカ」




 その言葉が発せられると同時に、まず最初に誠司が異変を感じとった。



「……バカ、な……この『魂』は……」



 そう漏らしながら誠司は視線を向けた。皆もつられてその方向に視線を向ける。


「…………!!」


 皆が、『最後の厄災』の背後に現れた人物を見て、驚愕する。



 その者は、ボロボロの赤いロングマントを身に纏い、義足の右足をしていた。


 長めの太刀を身につけ、いつも被っていたフードは外れており、長い前髪が風に吹かれその顔を露わにする。


「……なんで……」


 莉奈は目を見開く。


 莉奈が『彼』だと思っていた人物、『彼女』は——




 ——少し年齢を重ねた様子がうかがえるが、間違いなく『莉奈』、その人だったからだ。








 絶句する皆を見ながら、『彼女』は寂しく微笑んだ。


 そして、ジョヴェディに声を『飛ばす』。


「——……ジョヴ爺、あとはよろしくね」


「……フン。すまんのう、リョウカ……」


 ジョヴェディが腕を振り上げる。『最後の厄災』は再び実体化し——。



 その間、リョウカは一人ひとりの顔を見て、最後——



 ——ライラの顔を見て、静かに目を伏せた。



「……リョウカ。実体化、終わったぞい」


 リョウカは静かにうなずき、唇を動かした。



「…………『————————(————)』」



 その瞬間、『最後の厄災』と共に、リョウカの姿は揺らいで消え去ったのだった——。








 空が晴れ渡る。青々とした空が。



 唐突に訪れた終わり。周りが困惑してひと言も発せない中、誠司はジョヴェディに尋ねた。


「……君は知っているのか、ジョヴェディ……。あの、莉奈と同じ『魂』を持つ者を……」


「……ああ。あれはそこの『燕』……リナ、その者じゃよ。安心せい、これで彼奴……『最後の厄災』が蘇ることは、もうない」


 そう言いながらジョヴェディは、秋空を眺める。


 にわかには信じがたいが、あれが莉奈だったとして——どこに『最後の厄災』を連れ去ったというのだ。


 いや、そもそも何で莉奈が二人——。



 涼やかな風の吹く中、ジョヴェディは遠くへ想いを馳せるかのように、そっと語り始めた。



「……フン。ワシの知る限りで教えてやろう。『彼女』の、物語をな……————」







お読みいただきありがとうございます。


これにて第三章完。第四章、物語は赤い世界の彼女——「『莉奈』の物語」へと続きます。


引き続きお読みいただけると幸いです。よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
ここで来ましたかあ~ 厄災拉致って世界を跳んだかな…でもそうするとリョウカ本人はもう助からないよね…
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