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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第八部 第三章
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対『最後の厄災』攻略戦 09 —迫る絶望の時—





「……くっ!」


 グリムの振り下ろした『結界石』は、『最後の厄災』の肉体のみ——土塊の身体だけしか封じ込められなかった。概念的存在である本体は結界石の効果をすり抜け、その場にとどまっていたのだった——。





 ————…………。




「——なあ、アルフ。例えば『概念的存在』である妖精を倒すとした場合、どうやって倒せばいい?」


 それは戦いの前、グリムが妖精王アルフレードと話し合った時のことだ。


 グリムの質問を受けたアルフレードは、ふむと考え込む。


「それは簡単だ。攻撃や衝撃が加わると、妖精はすぐに消えてしまうよ。おかげで千年前、この森は絶滅しかけたんだけどね」


「……そうか。なら、例えば……相手が妖精よりも、もっと強い概念的存在だったらどうだろう?」


 その質問を聞いたアルフレードは、静かに目を伏せた。


「……はっきり言ってもらって構わないよ、グリム。それは、十八年前にも現れた『『厄災』ドメーニカ』のことだろう?」


 だが、グリムは、即座に否定した。



「いや、あれを『ドメーニカ』と呼称するのは適切ではない。十八年前も今も、あの存在は彼女ではない。『ドメーニカ』とは別の存在、『最後の厄災』だ」



 グリムは見据える。真っ直ぐに、アルフレードのことを。アルフレードが目を開けると、その青髪の彼女は辛そうな瞳で彼のことを見ていた。


「……気を遣ってくれてありがとう。そうだね、強力な概念的存在か——」


 アルフレードは再び目を閉じ、グリムに語る。


「——今も言った通り、妖精なら攻撃や衝撃でかき消すことができる。ただ、強い概念体だと……どうだろうね」


「……もし『実体』を与えることが可能な場合は、どうだろうか?」


 グリムはそう言って、同じテーブルに座っているジョヴェディの方を見た。ジョヴェディは「ほう」とつぶやいて口元を緩める。


 しばらく考えたのち、アルフレードは口を開いた。


「……『可能性はある』、としか言えないね。妖精で試してみてもいいけど、そもそもがすぐに消えてしまう存在だ。参考にはならないだろう。他には——」


 彼は神殿の隅に置いてある『支配の杖』の方に視線を向けた。


「——『役目を終えた時』、概念的存在は消えるだろう。あの杖に宿っていたという存在もそうだ。もしカルデネやセイジが何もしなかった場合、あの存在は消えていただろうね」


 『支配の杖』に宿っている存在——アカシアだ。彼は役目を終えるその時、誠司の『魂』の移動により存在の消滅を免れた。今はあの杖の中で眠っているはずだ。


「……そうか。『最後の厄災』の役目とは、なんだろうな……」


「……恐らく……彼女、ドメーニカの持っていた力は……ヘクトールの言葉を借りて言うならば『滅ぼす力』。仮に『最後の厄災』がその力の具現化した存在だったとした場合……世界の全てを滅ぼし尽くせば、『最後の厄災』は役目を終え消えるだろうね」


「……それはナシだ。それを止めるために、私たちは戦うのだから」


「——なら、あと一つ」


 アルフレードはしっかりと目を開け、告げる。


「もし、その存在を生み出したと思われる、今は種に封印されているドメーニカ。その彼女の存在を消すことができれば、あるいは——」


「……却下だ」


 言葉を遮り、グリムはつぶやく。しばらく二人は無言でうつむいていたが、先にグリムが口を開いた。


「……すまない。ただ、現状ドメーニカがいる部屋には入れない。外に『最後の厄災』もいるしね。だからその提案は、今は却下だ」


「……そうか。ただね、グリム、聞いてくれ——」


 アルフレードは千年前の二人の姿を思い返す。


「——ドメーニカはね、ただファウスと一緒にいたいだけの、とっても優しい普通の女の子だったんだ。彼女は決してこんなことを望んでいないと思う。だから、お願いだ、グリム——」


 そこまで言ってアルフレードは、大きく頭を下げた。



「——もし可能なら、ドメーニカを……そしてファウスを、楽にしてやってくれ」



 懇願するその声は震えている。懇願するその肩は震えている。


 グリムは瞳を閉じ——やがて首を横に振った。


「……選択肢の一つとしては考慮しておくよ、アルフ。ただ……どちらにせよ先に、『最後の厄災』を何とかしなくてはな……」


 場に、沈黙が訪れる。


 出された紅茶は、すっかり冷めきっていたのだった——。








 ——様々なことを試した。



 ルネディの『影』の力も。メルコレディの『氷』の力も。


 そして今も——。



「——『木に花を咲かせる魔法』」



 ライラを中心に、腐毒花が咲き誇る。


 莉奈とレザリアの持つ『無限の矢筒』。そこから大量にばら撒かれた木の棒に、ライラの魔法の効果は波及した。


 あたり一面が紫色の瘴気に包み込まれる——。


「——『毒を無くす魔法』」


 ライラは解毒魔法を自身に掛けながら見る。ズブズブと溶けゆく、『最後の厄災』の姿を。


 だが——。


「ライラ、離れろ!」


「——『凍てつく時の結界魔法』!」


 渦巻き再生する、『最後の厄災』の姿。その彼女は、ぎこちない『微笑み』を浮かべようとしていた。


「……ぬう」


 ジョヴェディはうめく。わずか、ほんのわずかずつではあるが、『最後の厄災』は時止めの中で少しずつ動きを見せ始めていた。


 それに気づいたグリムがジョヴェディに耳打ちをする。


「……気づいているか?」


「……うむ。抵抗力がついてきたのか、大気中の『魔素』量が関係しているのかはわからん。じゃが……」


「……ああ、いつまでも止めてはおけない、ってことだ」


 迫り来るタイムリミット。苦渋の顔を浮かべるグリムの耳に、誠司から通信が入る。


『——……グリム君、次の手は?』


 グリムは深く息を吐き——皆に通信を飛ばした。



「——……すまない。考えうる限りの全ての攻撃手段は試した。もう、打てる手がない。撃破は、諦める……」



 その言葉に、皆は沈黙をする。それは、歌い続けていたクラリスでさえも。


 そしてグリムは、歯を食いしばって次の指示を出した。


「——……それでは、事前に話し合った通り、『最後の厄災』の一時的な無力化を狙う——」



 グリムの見つめる視線の先、そこには、エリスがいた。


 その彼女に、血が出るほど唇を噛み締めながら——グリムは、指示を下した。




「——……すまない、エリス。十八年前の再現を……よろしく、頼む」




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