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ライラと『私』の物語  作者: GiGi
第八部 第三章
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対『最後の厄災』攻略戦 08 —嘲笑—





 無尽蔵の魔力。それが今、四つの結界点に惜しみなく注ぎ込まれる。


 いっさいの動きを止める『最後の厄災』。皆の目に、希望の光が灯る。



 だが——。



「……ぬう……」


 ジョヴェディは眉をしかめ『最後の厄災』を睨む。その様子を見たグリムは、険しい表情でジョヴェディに尋ねた。


「どうした、ジョヴェディ。時間は止められたのか?」


「……フン。見ての通り、と言いたいところじゃが——」


 相変わらずの視線で睨みながら、ジョヴェディは続けた。


「——『止めきれない』。ワシの、無尽蔵の魔力を持ってしてもな」


 今、『最後の厄災』の動きは()()止められてはいる。


 しかし——ジョヴェディの『無尽蔵の魔力』を持ってしてもなお、結界の完全構築には至らなかった。


「……規格外だな……」


 グリムはうめく。はっきり言って、想像以上だ。だが、計画の遂行は可能——彼女は逡巡したのち、皆に指示を出した。


「……予定通り行く。ジョヴェディ、お願いできるかい?」



「——フン、ワシを誰だと思っておる。容易いことじゃ」



 その声が、天から響いてくる。その場にいる皆が見上げると、空には五人目のジョヴェディ——ジョヴェディの本体の姿が、そこにはあった。







「では、メルコレディ。彼奴の氷の力を解除するんじゃ。慎重にな」


「うん、わかった!」


 ジョヴェディの言葉を受け、メルコレディは慎重に氷の力を解除する。氷が溶け、露わになった『最後の厄災』は——見た感じでは、一切の動きを止めていた。


 しかし——。


「……見ておるのう」


「……ああ」


 ジョヴェディは、グリムは感じとる。『最後の厄災』の視線が、意識が、はっきりとこちらを捉えていることに。


「では、やるぞ」


 そのジョヴェディの言葉に、皆が固唾を飲み見守る。


 そう、グリムの推測が正しければ——







「——『最後の厄災』。奴は『概念的存在』だ」


 あの日の会議で、グリムは語った。対『最後の厄災』攻略法、その一手を。


「そして……私の知識の中に、『概念的存在』に実体を与えることが可能な人物が、一人だけいる」


 あらかじめ話を聞かされていた『魔女の家』の面々は神妙にうなずく。ピンとこないセレスは、マッケマッケと目を合わせて不思議そうな顔で尋ねた。


「……え、誰?」


「はは、セレス嬢。キミも私も、その能力に翻弄され苦戦しただろう?」


「……うーん……って、えっ、まさか……」


 セレスの思い当たった人物。魔法の理を超えた事象を扱った人物。


 その思いつきを肯定するかのように、グリムは口角を上げた。


「そうだ。実体のない『分身体』に実体を与え、独立した動きを可能にした人物……世界最高峰の魔術師、『土の厄災』の使い手、ジョヴェディだ」







 ジョヴェディが軽く腕を振り上げると、『最後の厄災』の周りの土が盛り上がり、その存在にまとわりついていった。


 やがてそれは安定し——『最後の厄災』に、土塊の肉体が宿った。



「よし、彼奴の存在に『肉体』を与えた。成功じゃ」



 その言葉を聞いたグリムは、通信魔道具を立ち上げて号令をかけた。



「——『最後の厄災』の実体化に成功、まずは魔法だ!」



 ジョヴェディの分身体に持ち場を任せた四方の魔女たちは、すでに氷竜を引き連れて近くまでやってきていた。



 そしてこの地方、最大級の力を持つ魔女たちの言の葉は——紡がれた。



「——『闇深き鋭刃の魔法』!」


「——『旋風かぜ吹く氷刃の魔法』!」


「——『凍てつく氷の魔法』!」


「——『空間を削る魔法』!」



 ——乱れ飛ぶ、乱れ飛ぶ——



 最高峰の魔法が、『最後の厄災』に向かって襲いかかる。


 色彩鮮やかな光に包まれる『最後の厄災』。そこに追い打ちをかけるかのように、世界最高峰の魔術師の究極の魔法が降り注いだ。



「——『爆ぜる光炎の魔法』!」



 煌めく光。巻き起こる爆発——。


 十分な距離をとって見守る皆は、息をのみ目をこらす。



 やがて土煙が晴れる中——『最後の厄災』の姿は、散り散りになって消え失せていた。


「……やっ——」


 莉奈が喜びの声を上げようとした、その時だ。


 塵の残滓が渦巻き、人の姿を再び形取る。それを見たジョヴェディは、各場所の分身体に改めて魔法を唱えさせた。


「——『凍てつく時の結界魔法』!」


 渦は完全に『最後の厄災』の姿となり、再び時間の動きを止める。微笑みかけている『最後の厄災』。


 それを忌々しげに眺めるグリムは、次の指示を出した。


「……ジョヴェディ、再び実体化を! 次、物理攻撃、メルコレディ、ルネディ、全力でサポートを!」


 その合図と同時に駆け出す誠司と莉奈。後方からレザリアの一矢が『最後の厄災』を穿つ。


 深く矢に貫かれる『最後の厄災』、だったが——。


「……効いているようには見えないな」


「……そうだね」


 駆けながらボヤく誠司に同意する莉奈。そんな二人の身体を、ルネディの薄影が包み込む。


「少なくともこれで即死はないわ。メル、何かあったらすぐに全部凍らせてね」


「任せて、ルネディ!」


 駆ける誠司、後ろから追う莉奈。


 そして——



 —— 斬



 ——誠司の一刀が、『最後の厄災』の首を刎ね落とした。その首をキャッチした莉奈は——



(……飛ぶ!)



 ——結界内、離れた場所に『空間跳躍』し、首を置いて慌てて戻ってくる。その場から離脱する誠司と莉奈。


 結果は——



「……うそでしょ……?」



 ——実体化したはずの首はサラサラと溶け、『最後の厄災』の頭部が再び元の位置に渦巻いていく。その顔は『微笑み』を浮かべ——



「——『凍てつく時の結界魔法』!」



 警戒していたジョヴェディが魔法を解き放つ。再び『微笑み』を張り付かせたまま固まる『最後の厄災』。



 ——それはまるで、足掻く誠司たちを楽しみ、嘲り笑っているようであった——。



 グリムは拳を握りしめ、苦渋に満ちた表情で『最後の厄災』を見据える。



「……次、魔道具の使用だ。私が行く……」




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