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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第八部 第三章
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対『最後の厄災』攻略戦 07 —切り札—






「ジョヴお爺ちゃん……!」


 ライラが駆け寄り、ジョヴェディにぴょんと抱きつく。そして、顔を埋めながら嗚咽を漏らした。


「……ごめん、ごめんねえ……私、ジョヴお爺ちゃんのことを見捨てた……」


 当然ではあるが、ライラが言っているのは『赤い世界』のことであって、今のジョヴェディには関係がない。


 だが、その言葉を聞いたジョヴェディは——しばらく無言でいたあと、鼻を鳴らして少女の頭に手を置いた。


「……フン。お主の言っていることはワシにはわからん。じゃがな、気にするな、ライラよ。お主は——」


 ジョヴェディは一瞬言い淀んだあと、ライラに語りかけた。


「——戦い、そして、勝ったんじゃろ? よくぞ頑張った」


「…………!!」


 ライラは驚き、顔を上げ、ジョヴェディの顔を見る。あの時、赤い世界でのジョヴェディの言葉——



 ——なあ、お主は今……戦っておるのじゃろう?——



 真っ直ぐな少女の視線を一瞥したあと、ジョヴェディは前を向いた。


「さあ、お主の出番もありそうじゃな。気を持ち直せ」


「……うんっ!」


 ライラは目を拭い、杖を握り直す。



 切り札的存在、ジョヴェディ——その彼は、他の魔女のところにも出現していた——。






 ここはセレスの担当場所。そこに現れたジョヴェディの『分身体』は、セレスの結界点を引き継いだ。


「久しいのう、『東の魔女』よ……ふむ、さすがじゃ。よく練られておるのう」


 結界点の様子を確認しながら感嘆するジョヴェディ。セレスにとっては中央部での決戦以来の再会だ。


 セレスは息を吐いてその場に座り込む。


「……ありがと。本当に来てくれたのね」


「……まあ、な。青髪が約束してくれたからのう。そのためなら、な」


 ジョヴェディが来ることは事前に聞かされてはいた。


 グリムの語った、『時を止めたあと、取るべき手段』。それをするのに、彼の存在は必要不可欠なのだから。


 魔力回復薬を飲むセレスを尻目に見ながら、ジョヴェディは笑みを浮かべた。


「すべて片付いたら、お主とも再戦しようか」


「……遠慮しておくわ。サシならどっちが上か、はっきりしてるでしょう?」


「……クックッ。ワシと互角に渡り合った者が、何を言う」


 そう言いながらジョヴェディは、結界点に力を注ぎ込んだ。







 ここはエリスの担当場所。


「いらっしゃい、ジョヴェディ。待ってたよ!」


「……フン。青髪が言っとったが、本当に復活しとったとはのう」


 ジョヴェディの分身体はエリスと場所を引き継ぎ、結界点に杖を立てる。そして、目を細めて彼女を眺めた。


「しかし、本当か? ワシとの『再戦』、引き受けてくれるというのは……」


「ふふ。いいよ、全部終わったらね。あなた、私と戦いたがってたもんねえ」


 ジョヴェディにとって、情景の存在であるエリス。彼は以前、彼女との再戦を願うばかりにこの地を脅かした。


「そのためにはまず、此奴をなんとかしなくてはのう」


「頼りにしてるよ、ジョヴェディ!」


 ジョヴェディの肩をポンポンと叩くエリス。ジョヴェディは口角を上げ、彼女を愛おしむかのように見つめた。


「……ワシが何とかする。じゃからもう、死ぬなよ、エリス」


「……うん。約束するよ、ジョヴェディ」


 そう返事をするエリスの瞳を覗き込んだジョヴェディは、静かに目を瞑った。


「フン」


 彼は鼻を鳴らし、結界点に力を注ぎ込んだ——。






 ここはハウメアの担当場所。


 現れたジョヴェディの分身体に、グリムが声をかける。


「やあ、待っていたよジョヴェディ。協力、感謝する」


「フン、青髪よ。復活したエリスと戦わせてくれるというのなら、このくらい容易いことじゃ」



 そう、グリムは交渉した。この『稀代の魔術師』、ジョヴェディと。


 ジョヴェディがどこにいるか。それは、赤い世界を経験したライラが予測していた。恐らく、妖精王アルフレードのところに訪れると。


 そしてその予測通り、彼は来た。その彼をつかまえて、『エリスとの再戦』を材料にし、今回の協力を願い出たというわけだ——。



 ジョヴェディはハウメアと交代し、結界点に杖を立てる。その具合を確認して、ジョヴェディは満足そうに頷いた。


「さすがは『北の魔女』、氷人族の血を引くだけのことはある。完璧な結界じゃ」


「恐れ入るよ、ジョヴェディ。それで、何とかなりそうかなー?」


「フン、待っておれ。ビオラのところの結界を念の為、上書きしておく」


 無言。ジョヴェディは動きを止める。ビオラの場所の結界に集中を始めたのだろう。


 ——全ての魔法を扱えるジョヴェディ。『凍てつく時の結界魔法』のことわりをも知る彼ならば、このように他人の作った結界点の引き継ぎを行うことができる。


 莉奈が小声で囁いた。


「……ねえ、グリム。あの人、全部の魔法使えるんだよね?『胸を大きくする魔法』も使えるのかな?」


「……聞こえておるぞ、燕よ」


「ひっ!」


「フン、アルフレードが作ったワシの知らない魔法のせいで、新たな生き甲斐ができたわい」


 そう言ってジョヴェディは、楽しそうに笑った。



「……クックッ、ではいくぞ。改めて……『凍てつく時の結界魔法』、発動!!」



 ——まばゆい光が辺りに満ちる。




 その瞬間——『最後の厄災』の微笑みが、完全に凍りついた。




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