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ライラと『私』の物語  作者: GiGi
第八部 第三章
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対『最後の厄災』攻略戦 06 —静寂を巡る攻防—





  静かに  時は  凍りつく





 ——静寂。終焉の炎が収まる。『最後の厄災』が動きを止める——



 『凍てつく時の結界魔法』は、発動した。莉奈が急いでエリスの方へと意識を飛ばすと——



「……ふう。まずは成功、だね」



 ——炎は晴れ、唇を舐めながらつぶやくエリスの姿がそこにあった。


「——エリスさんは無事! 魔法も成功!」


 莉奈は大声で皆の脳に声を飛ばす。安堵の表情を浮かべる一同。


 そして、問題の『最後の厄災』は——



「…………ホ……ロ…………ビ……ヲ…………」



 ——静止した時間の中で抗い、歪に微笑もうとしていた。


 ゴーグルを掛けその様子を観察したグリムは、叫ぶ。


「メルコレディ! 防ぐんだ!」


「うん!」


 メルコレディは手を振り下ろし、『最後の厄災』を氷漬けにする。その氷の中でも『最後の厄災』は微笑み、炎を巻き起こし、内部から氷を溶かそうとしていた。


「……どうだい、メルコレディ。抑えられそうか?」


「……うん。これくらいなら……」


「よし。ライラはビオラの元へ、マッケマッケはここでハウメアに魔力回復薬を手渡してくれ」


「うん!」


「はい!」


 エリスとセレスは自前のバッグから魔力回復薬をいくらでも取り出せるが——寒さで魔力量が増すハウメアはともかく、問題はビオラだ。


 ビオラも補充用の魔力回復薬をたくさん身につけてはいるが、長期戦を視野に入れライラに魔力回復薬の補充をお願いすることになるだろう。


 ひと息ついたグリムは、誠司に話しかける。


「……それで、どうだい、誠司。十八年前と比べて」


「……ああ。あの時と比べ……奴の動きは活発なような……気がする」


「……そうか」


 グリムはうめく。想定はしていた。なので話に聞いていた十八年前よりも、各人との距離をさらに縮めて結界を発動した。


 しかし——十八年前よりも時を止められていない。その原因があるとすれば、ビオラだろう。


 ナーディアとビオラの経験による実力差、それが表面化してしまった形だ。


 グリムは祈るようにつぶやいた。


「……今はただ、耐えてくれ……あと、少しだけ……」







「それじゃ、よろしくね、ルネディ!」


『ええ、任せてちょうだい』


 エリスから魔力回復薬を受け取ったルネディの影は、ビオラの元へと移動を開始する。同時にセレスの方にも影を派遣し、こちらと同様ハウメアの元へと移動をさせていた——。



 やがてルネディの影がビオラの元に辿り着くと、ちょうどライラも到着したところだった。


『ライラ。エリスから受け取った魔力回復薬よ。受け取りなさい』


「ありがと!」


 ライラは空になったビオラのポーチに魔力回復薬を差し込んでいく。思ったよりも消費が激しい。ビオラは飲み干したばかりの空の瓶を投げ捨てた。


「……ごめんね、アタシの魔力量が少ないせいで……」


 そうは言うものの、ビオラの魔力量は『300』をゆうに超えている。この年齢の人間族の中で、そこまでの高みに達した者はそうはいない。


 ただ、魔法を研鑽し続けた彼女の師匠ナーディアや、魔族の魔女と呼ばれる者たちには、どうしても劣ってしまう——。


「そんなことないよ、ビオラ。ビオラがいなければ、ここまで出来なかったんだから!」


「……ふふ、ありがと、ライラ。アタシ、頑張るわ!」


 ライラの励ましに笑顔で返すビオラ。ルネディの影はいつのまにか消えていた。次の運搬に取り掛かっているのだろう。


 そして一緒にいる氷竜ルーは、竜の姿のまま真っ直ぐに『最後の厄災』を見据え、有事の際にすぐにブレスを吐けるよう身構えている。


(……お姉さま、みんな……アタシに力を……!)


 ビオラは力を込め、結界点に魔力を注ぎ込む。本来この魔法は、一度構築さえしてしまえば持ち場を離れても大丈夫な魔法だ。


 しかし、『最後の厄災』の膨大な力を前に、少しでも気を抜くと結界の維持が破綻してしまうのが術者として肌に感じられる。


「ごめんね、ビオラ……。私がその魔法使えたら、役に立てたのに……」


「いいのよ、ライラ。これはアタシの役目。アナタには別の役目があるでしょ?」


 そう。この魔法はこの時のために先代南の魔女ナーディアから受け継いだ魔法なのだ。


 ビオラは彼女の師の姿を思い返す。



(……お婆様、アタシ……!)



 その時、結界点が一段と輝いた。その現象を見たビオラは青ざめる。



 ——力を、気持ちを、込めすぎてしまった。



「……くっ!」


 ビオラは急ぎ、魔力回復薬を取り出す——。



 本来、魔法の力を行使するにあたって、力を込めることは悪いことではない。


 だがビオラの場合、常人の枠を超えて『想い』を込めることができてしまうのだ。


 それすなわち——彼女の魔力量では、魔力切れに直結してしまうということ。



 頭がふらつく。身体中から力が抜ける。



 そうならないよう、魔力量コントロールには細心の注意を払っていたというのに——。


 異変を感じたライラがビオラを支え、手助けをする。でも、このままじゃ結界が——



 結界点の光が急速に弱まっていく。



 ——ビオラが何とかしようと踏ん張った、その時。




「……フン、まだまだじゃのう。まあしかし、ここまでよくやったぞ、ビオラ」




 ——声が、した。ビオラの待ち望んでいた声が。



 その者はライラと共にビオラの身体を支え、トンと杖を結界点に突き立てた。まばゆい光に包まれる結界点。



「……お爺さま……!」


 ビオラの呼びかけに、その者はニイと笑った。



「あとはワシに任せておけい。さて、ワシの無尽蔵の魔力に、どこまで抗えるかな?」



 無尽蔵の魔力、現存する全ての魔法の使い手——



 ——グリムが、対『最後の厄災』攻略戦の特効的役割を果たす人物として用意した『世界最高峰の魔術師』ジョヴェディ。彼が今、この地に降り立つのであった。





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