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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第八部 第三章
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対『最後の厄災』攻略戦 05 —初動—






「——『転移の魔法陣』、起動!」



 ハウメアが声を上げ杖をつくと、一同は光に包まれた。



 そして——。



「…………!!」



 赤々とした光景。頑丈な石造りの部屋は形を保ってはいたが、周囲はところどころが崩れ落ちており、そこからは天を突くほどの炎が立ち昇っている様子がうかがえた。


「……渦巻く炎の中心部、の中でさえこれだ。急ぐぞ、メルコレディ」


 グリムの合図で、メルコレディは腕を大きく上げてくるりと回した。一瞬にして部屋の中が凍りつく。


「フィア、サンカ、ルー」


 続けての呼びかけを受けて、氷竜三人娘は竜の姿になり飛び立った。前回のヘクトール戦で空いた天井の大穴を抜け、氷のブレスを吐き出していく。


「莉奈」


「はいはーい!」


 莉奈はグリムの呼びかけを受け、周囲に意識を飛ばして『最後の厄災』の位置を探し出す。その間グリムは自らの腕を切り落とし、端末を増やしながらクラリスに呼びかけた。


「クラリス、さっそく始めてくれ。皆に、力を」


「コホン。では、おっ始めますねー!」


 ——クラリスの透き通った歌声が、凍りついた部屋に響き渡る——。


 彼女の歌声を聴いた皆は、活力がみなぎってくるのを感じ取った。グリムは注意深く観察する。


(……炎の勢いが強まった様子はない。少なくとも、声の届かない位置でならクラリスの歌は使える、か)


 その時、莉奈が声を上げた。


「……いた! グリムが最初に見た場所に……うわ!」


 莉奈は一歩後ずさる。どうしたかと周囲の視線を集める中——軽く頭を振った彼女は、唾を飲み込んで皆に告げた。


「……いたよ、『最後の厄災』。あの娘、立ち上がってこっち見て『微笑ん』でいた……」






 しばらくして、飛び回っていた氷竜娘たちが帰ってきた。


 ところどころ火傷を負っていた彼女たちを、構えていた魔女たちが回復する。


「——『傷を癒す魔法』」


「……ふう、すごいわね。この付近は一面凍らせてきたけど、このままだとすぐに溶かされてしまうわ」


 肩をすくめてボヤくフィアに、グリムは真面目な顔でうなずいた。


「ああ、時間との勝負だ。手筈通り、よろしく頼む」


「…………了解」


 再び竜の姿を形取る、ルーを始めとする娘たち。その三人の背に、エリス、セレス、ビオラが飛び乗る。


「じゃあ、行ってくるねー!」


「エリス、キミは撤退用のゲートの構築も忘れないでくれ」


「もちろん!」


 グリムに返事をし、飛び立つ氷竜と魔女三人。


 それを見送った莉奈は、ハウメアを羽交締めにした。


「さ、行きますよ、ハウメアさん!」


「……ほんとに飛び降りるの?」


「大丈夫です、メルもついていますから!」


 高所恐怖症のハウメアは、氷竜の背に乗って飛び立つ役割を全力で拒んだ。なので、その必要のない場所を任されたのだが——。


 くるり。


 メルコレディが指を回すと、いくつもの氷柱が空中に浮かび上がった。彼女が手を振り下ろすと、それらは脆くなった壁を打ち砕き大穴を空ける。


「じゃ、ハウメアさん、GO!」


「——……やめてえぇぇっっ〜〜……」


 莉奈は穴から飛び立ち、ハウメアの絶叫がだんだんと遠ざかっていく。


 それをため息混じりに確認したグリムは、残ったメンバーに呼びかけた。


「では、私たちも行くぞ。メルコレディ、氷の滑り台を作ってくれ」







「……あの、リナちゃん。『空間跳躍』ってやつ使えば、飛び降りる必要なんてなかったんじゃ……」


「……あっ」


 抜けかけた腰を懸命に支えるハウメアの言葉を聞き、莉奈は固まる。いつもならここで言い訳の一つでも言うところだが、事態が事態だ。


 莉奈はハウメアに軽く頭を下げて、各魔女のところへと意識を飛ばす——。





 セレスはサンカと共に、所定の位置についている。ビオラもルーと共に待機中だ。彼女たちは氷竜のブレスに守られながら、魔法の詠唱の準備を始めていた。


 そして、エリス。彼女も氷竜フィアのブレスに守られながら詠唱をしていた。彼女はまず、ゲートの構築。いざ撤退となった時は、そこを潜り抜け逃げる手筈になっている。




 莉奈は意識を戻す。メルコレディが先に降りてきて、この付近に炎を防ぐ氷壁を作り上げていた。城の大広間からは次々と皆が氷の滑り台で降りてくる。増えているグリムの端末が、滑り降りてきた皆を支えるように受け止めていた。


 順調だ。ここまでは事前に話し合った通り。莉奈は改めて、『最後の厄災』へと意識を飛ばす。


 彼女は——。



『——……エリスさん!』


 莉奈はたまらず、エリスに向かって声を飛ばした。『最後の厄災』は——そう、エリスの方を真っ直ぐに見て微笑んでいたのだから——。




 エリスを狙って真っ直ぐに伸びていく終焉の炎。強大な炎の壁が、エリスたちへと向かって押し寄せる。


『…………!!』


 氷竜フィアの吐き出す氷のブレスが押し返されていく。苦悶の表情を浮かべるフィア。


 そんな彼女の横に立ち、エリスは竜の身体に優しく触れた。


「大丈夫だよ、フィア。あなたは上空に避難してて」


『——エリスさんっ!』


 ここでの会話が聞こえているのだろう。莉奈の悲痛な叫びがエリスの脳内に響く。


 彼女は皆に向け、通信を立ち上げた。


「——いい? 合図から二十秒。それまでに『凍てつく時の結界魔法』を発動するからね」


『——エリス!』


 誠司の通信が聞こえる。その声を聞き、エリスは口元を緩める。


「——大丈夫だよ、セイジ。私の『身を守る魔法』は強力だから。それに——」


 エリスは目を細め、不敵に笑みを浮かべた。



「——どこまで持つか、私は身をもって体験している。じゃあ、みんな……よーいドン!」



 それを合図に、氷竜フィアが氷のブレスを吐きながら上空に飛び立つ。炎の壁に飲まれるエリス。


 その光景を、飛ばした意識で見る莉奈の肩に——グリムの手が置かれた。



「莉奈、キミが合図をするんだ」



 ……十七……十六……十五…………



 意識を飛ばし、各人の状況をリアルタイムで把握できる莉奈。そして、声を即座に届けられる莉奈。


 大役だ。莉奈はうなずき、各魔女へと意識を向ける。



 ……十二……十一……十…………



 ハウメア、準備完了。セレス、準備完了。ビオラ、準備完了。エリスは——



 ……八……七……六…………



 ——エリスの姿は炎に包まれて見えない。莉奈は意識をもっと深くまで飛ばす。


 エリスは——



「オーケー!」



 彼女の声が、届いた。莉奈は急ぎ全員に声を飛ばす。



 ……四……三…………



「——GO!」



 莉奈の声が、ハウメアに、セレスに、ビオラに、そしてエリスの脳内に響き渡った。



 ——そして、彼女たちの言の葉は、紡がれた。




「「——『凍てつく時の結界魔法!!』」」




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