対『最後の厄災』攻略戦 04 —決戦へ—
決戦、当日——。
エリスのゲートを潜り抜けロゴール国へと到着した一同は、ゼンゼリア王の歓迎を受ける。
「久しいな、ハウメア。先日の件では世話になったな。おかげでこの国をものにすることができた。感謝する」
「なあに、お互い様さ。あなたが攻め落としてくれたから、今こうして、わたし達の足がかりになっている。助かったよー」
握手をしながら笑みを浮かべる二人。
——ここロゴール国は、先日の『魔女狩り』の一連の流れでゼンゼリア国の支配下に入った。
トロア地方に攻め入ったロゴール軍をハウメアたちが引きつけ、その隙にゼンゼリア軍がロゴール国を攻め落とす。
もはや空城に近い形になっていたこの国を落とすのは、ゼンゼリア王にとって実に容易いことだった——。
「さて。歓迎したいところだが、やることが多すぎてな。できれば君たちの力にもなりたいのだがね」
「ああ、気にしなくていいよゼンゼリア王。あなたはこの国を正しく導く使命がある。そっちに注力してくれ」
ロゴール国は圧政を敷いていた国だ。民から貪り、私腹を肥やし、領土を拡大しようとして——。
ゼンゼリア王も野心がないわけではない。だが彼は、民という基盤を第一に考えている。この国にいるグリムの端末を通して彼の政策を聞いたハウメアは、感心したものだ。
「でも、ゼンゼリア王。大丈夫かな? 捕虜はできるだけ早めに返すけど、この国は周囲が他国に囲まれているよね。同盟を裏切ったあなたを、諸国は許しそうかい?」
「フッ。優秀な参謀がついているからな」
そう言ってゼンゼリア王は、傍らにいるブカブカのコートを羽織った人物を見た。フードから覗く青髪——グリムだ。
「恐れ入るよ、ゼンゼリア王。まあ油断はならないが、上手いことやっておこう。ハウメア、落ち着いたら捕虜の移送計画について話し合おうか」
「ふふ。あなたがついていれば大丈夫だ。でも、トロアに攻め込むのだけは勘弁ね。まあ、その話し合いを進めるためにも——」
ハウメアは深く息を吐き、真剣な眼差しになった。
「——『最後の厄災』。早いとこケリをつけなきゃね」
そう、全てはそこからだ。この国にある、魔法国の城へと繋がっている転移陣。そこを抜ければ、決戦が始まる。
ゼンゼリア王は皆を見渡しながら、うなずいた。
「ああ。あらましは聞いたが、私からもお願いだ。皆、どうかトロア地方を、世界を守ってくれ。転移陣へはグリムが案内してくれよう。その前に——」
そう言いながらゼンゼリア王は、皆の方に向かって歩き出す。そして、一人の人物の前で歩みを止めた。
「——君が、『白い燕』かな?」
「ひゃい!?」
彼は莉奈の前で立ち止まって声をかけた。変な声を上げる莉奈。マズい、威圧感のある一国の王を前に、動悸・息切れが止まらない。
ゼンゼリア王は涼やかな笑みを浮かべ、莉奈に右手を差し出した。
「英雄『白い燕』よ。俺も君のように、民衆に語り継がれる王になってみせる。武運を」
「あひゃい、ひゃいっ!?」
莉奈は困惑しながらもゼンゼリア王の手を握り返して、ブンブンと振る。もう頭がグルグルだ。
その様子を見たゼンゼリア王は吹き出した。
「フッ。英雄らしからぬ、な。話に聞いた通りだ。だが、だからこそ民衆に愛されているのかもな。わかる気がするよ」
「!?!?」
相変わらずパニック状態の莉奈。だがその時、彼女の諸悪の根源センサーが反応した。これはアレだ。レザリアとクラリス、二人が歌をうたう流れだ。
莉奈は二人にだけ声を飛ばす。
『——はあい、ストップ。それ以上なにかしようとしたら、私、帰っちゃうかもよ?』
ピタ。動きを止めるレザリアとクラリス。そんな裏で行われている攻防戦の中、ようやくゼンゼリア王は莉奈の手を離してマントを翻した。
「では皆も、必ず生きて帰ってこい。祝賀会の準備をして待っているぞ」
そう言い残して、ゼンゼリア王は去っていった。莉奈は放心状態のままつぶやく。
「……あの……グリム。あなた、何言ったのよ……」
「いや。ゼンゼリア王は元からキミの評判を知っていたぞ?」
「……はは……さいですか……」
ため息をつく莉奈。やがて彼女は顔を上げ、頬をかきながらハウメアとセレスをマジマジと見つめた。それに気づいたセレスは、首を傾げて尋ねる。
「どうしたの、リナ?」
「……あはは。国のトップにも、普通の人っているんですね……」
「……マッケマッケ、ハリセン貸してくれるかしら?」
†
一同は、転移陣のある部屋に並び立つ。
グリムは最終確認を始めた。
「では、初動のおさらいだ。皆が転移陣に乗り、魔女たちが『護りの魔法』を唱える。それが確認できたら転移陣を起動。転移に成功したら、メルコレディ、まずはキミにかかっている」
「……うん!」
両手を握りしめてフンスと気合いを入れるメルコレディ。次にグリムは、氷竜娘たちの方を見る。
「その後、安全が確認でき次第、メルコレディとキミたちに動いてもらう。フィア、サンカ、ルー、頼んだぞ」
「ええ、任せてちょうだい!」
三人のうち、サンカが真っ先に声を上げた。神妙に頷くフィアとルー。
「そして舞台が整ったらキミ達、魔女の出番だ。『最後の厄災』の場所が確認できたら、『凍てつく時の結界魔法』の準備を始める」
「まっかせといて!」
エリスの元気な返事に、ハウメア、セレス、ビオラの顔が綻んだ。
「誠司、莉奈、ライラ、レザリア、マッケマッケ、ルネディ。キミ達は当面は魔女たちのサポートだ。私の指示に従ってくれ」
「お、おうよ!」
莉奈が気合いの入った返事をする。釣られて笑う面々。
「最後に、クラリス——」
グリムは、『歌姫』クラリスを真っ直ぐに見た。
「——キミはいつも通り伝説を歌ってくれ。キミの歌が『最後の厄災』に届くのかどうか……奴に歌を理解できる知能があるかどうか、それを確かめたい」
「お任せあれ!」
透き通った声で返事をして、トンと胸を叩くクラリス。全員の準備は万端だ。
皆は転移陣に足を運びながら、静かに号令を待つ。
『護りの魔法』が張られたのを確認して、グリムは厳かに宣言した。
「——では、行くぞ」