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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第八部 第三章
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対『最後の厄災』攻略戦 02 —勝算—





 訪れた者たちは、皆と挨拶を交わし合う——。


 

 ここまでのグリムの話をまとめると、戦闘参加者はエリスの構築したゲートを潜り抜けロゴール国へと移動。そこにあるヘクトールの遺産、『転移陣』を使用し、魔法国の城の大広間へと出る。


 そのあとは氷竜娘たちやメルコレディの氷の力で『最後の厄災』へと接近を試みる。十八年前のアレンジ版だが、当時と比べると比較的安全にそこまでは達成できるだろう。


 氷竜娘や『厄災』娘たちが席に座るのを確認し、グリムは皆を一望した。


「それでは、ここまでで何か質問はあるかな?」


「ねえ、グリム。マルティはやっぱり来られないの?」


 莉奈がルネディたちの方を見ながら質問する。『砂の厄災』マルテディ。事前に莉奈たち『魔女の家』の者は作戦のあらましは聞かされていた。その時、彼女の参加は難しいと聞かされてはいたが——。


「そうだね。彼女にはケルワンの捕虜の住居を構築してもらっているからね。四千人の捕虜を捕らえておく住居だ。今回はそちらに専念してもらう」


「……そうね。彼女にはだいぶ助けられているわ」


 セレスはマルテディの姿を思い返す。相手の兵を捕らえたはいいが、四千人もの住居スペースなどすぐに用意できるわけがない。しかし彼女は率先して、その役目を引き受けてくれたのだった。


「それで——」


 引き続きマッケマッケが手を挙げた。


「——そこまでよしんば上手くいったとして、その先ですよ。『最後の厄災』の動きを止めたとして、その後はどうするんですか?」


 もっともな質問だ。前回もそこまでは上手くいったのだ。グリムは目を伏せ、静かに語り出す。


「そう、それが問題だ。ここから先、確定的な要素は何もない。全てが希望的観測だ。聞いてくれ、私の考えを——」




 ——グリムは語る。時を止めた、その後に、取るべき手段を。


 彼女の立てた作戦は、ある意味論理的で、ある意味感覚的で——。



 それでも皆に、『それ以外はない』と納得させるものではあった。



 ひと通りの話を聞き終えた誠司は、腕を組みながら息を吐く。


「……それで、グリム君。勝算はどのくらいある?」


「……率直に言おう。『最後の厄災』の一時的な無力化、それも勝利の内に入れるとしてだ——」



 誠司に、皆に向かって、グリムは無表情で告げた。



「——勝算は五割もない。私はそう判断する」



 沈黙が訪れる。勝率五割未満。完全に倒し切る可能性を考えればもっと低い数値になるだろう。


 グリムは改めて皆を見回した。


「だが、悲観しないで聞いて欲しい。もし今回ダメだったとしても、皆が無事に撤退できる可能性は非常に高い——」


「……撤退して、その後はどうするの……?」


 莉奈が、グリムを真っ直ぐに見据える。その視線から逃れるように、グリムは目を逸らした。


「……そうだね。キミ達にはエリスのゲートを通って遠くへと逃げてもらう。そしてどこまで奴の力が広がるかは分からないが、最悪、世界中が燃やし尽くされてしまう前になんとか対抗手段を——」


「それって、みんなを見捨てるってことだよね?」


「莉奈……」


 グリムは唇を噛む、自分の限界を感じて。莉奈の言う通り、撤退せざるを得ない状況に陥った場合、大多数の人の命を見捨てることになるのだから。


 作戦に必要だとか、個々のスキルの重要性だとか、言い訳はいくらでもできる。


 だが。


 結局グリムも、莉奈の、そしてこの家族の生存を優先させたいのだ。情なのか直感なのか——グリムは思う。この家族を失うわけにはいかないと。


(……私もだいぶ、人間に染まってきたのかな……)


 グリムは顔を上げ、莉奈を見据えた。


「ああ、場合によってはね。ただ……あの時も言ったはずだ。『キミの為なら、いくらでも知恵を絞ってやる』と。皆を見捨てることにならないよう、私も全力で知恵を絞るよ」


「……そっか。ううん、ごめんね、グリム」


 莉奈が優しい目でグリムを見つめる。だが、この空気を面白くないと感じているのはレザリアだ。彼女はスッと手を挙げた。


「グリム。その『あの時』のことを詳しく聞きたいのですが。どういう経緯でリナを口説いたのですか?」


「ンッ。レザリア君、落ち着きたまえ……」


 誠司の咳払いにレザリアはピシッと背筋を伸ばした。まあ発言はアレだが、必要以上に緊張したこの場に、弛緩した空気が流れるのが感じられる。


 その空気を感じ取ったハウメアは、口元を緩めた。


「まー、やるだけやるしかないからねー。その後のことはその時考えよう。まずはグリムの立てた仮説が通用するかどうかだ。皆、無理はしないこと。一回の撤退は許容範囲内だ。それでいいかな?」


 力強く頷く面々。頼もしい面々。『火竜迎撃戦』も『魔女狩り』も、最小限の被害で乗り切った素晴らしいメンバーだ。ハウメアは微笑んだ。


「じゃあ、今晩はみんな、この城でゆっくり休んでくれ。明朝、作戦を開始する。トロア地方を、よろしく頼むよー」


「「はい!」」


 ハウメアの掛け声のあとも、思い思いに会話を交わし合う者たち。その光景を目を細めて眺めながら、ハウメアは息をついた。



(……わたし達がこの地方に来てから三百年。エリス、セレス、もう少しだ。このトロアに、真の平和を……)



 彼女たちならきっと成し遂げてくれる。ハウメアは期待を込めた眼差しで、その光景を眺め続けるのだった。





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