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ライラと『私』の物語  作者: GiGi
第八部 第三章
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対『最後の厄災』攻略戦 01 —スペシャリスト—





 グリムが『最後の厄災』を観測してから四日後——。



 ここブリクセンの『魔女の城』の会議室には、誠司を始めとする魔女の家の面々、そして四方の魔女ら、運命に抗おうとする者たちの姿があった。


 皆が着席したのを見て、ハウメアの隣に立つグリムが口を開く。


「ではまず、現状報告だ。私の端末、全てがたどり着き観測できたわけではないが、『最後の厄災』が放つ『終焉の炎』、それはあと十日も経たずに人の住む地域へと到達することだろう」


「……あの時と一緒ね……」


 セレスがポツリと漏らす。十八年前の『終焉の炎』、それと全く同じ事態が起こっていると、改めて痛感する。


 そのようにうつむくセレスのことを、グリムは優しい視線で見つめた。


「そうしょげるな、セレス嬢。逆に考えれば十八年前のキミ達の経験が活かせる、これは大きなアドバンテージだ」


「……そう、ね」


 少なくともここにいる誠司、エリス、ハウメア、セレス、マッケマッケは『終焉の炎』がどのようなものか知っている。無論それは、相手の強大さをも肌で感じているということなのだが。


 グリムは続ける。


「さて。十日とは言ったが、明日には赴くことになる。場合によっては撤退も視野に入れているからね」


「それって、その場合仕切り直すってことでしょうか?」


 マッケマッケの疑問に、グリムはハウメアと顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。そしてマッケマッケに頷いてみせた。


「まあね。不測の事態の発生、あるいはこちらの立てた手が全て通用しなかった場合だ。まあ後者の場合、少なくとも私の頭脳ではもう何も思いつかないけどね」


 元AIのグリム。もし彼女の手が全て通用しなかった場合、それは人類の敗北と捉えて間違いないだろう。彼女の立てた策がどれか一つでも通用することを祈るのみだ。


 グリムは改めて皆を見回した。


「では、基本的な戦術だ。キミ達が十八年前に使った『凍てつく時の結界魔法』、それが主軸になる。当時、その魔法だけは奴に効いたからね」


 『凍てつく時の結界魔法』、対象の時を止める魔法——。


 あの時、完全に動きを止めることは叶わなかったが、唯一『最後の厄災』に影響を与えることができた魔法だ。


 ビオラがゴクリと唾を鳴らす。その彼女を横目で見て、マッケマッケが手を挙げた。


「でもグリムさん。今回はどうやって『最後の厄災』に近づけば……」


「当然の疑問だ。十八年前はエリスのゲートが存在していたからね。残念ながら今回、それは失われてしまっている」


「なら……」


 言葉を続けようとするマッケマッケの言葉を手で制し、グリムは口角を上げる。


「実はそのためにこの四日間、エリスには動いてもらっていた。エリス、長旅お疲れ様」


「ううん。空の旅も楽しかったよ!」


 にっこりと笑うエリスの表情を見て、事情を知らないセレスとマッケマッケは顔を見合わせる。グリムは肩をすくめて息を吐いた。


「これに関してはヘクトール様々だ。全ての歯車が噛み合った。キミ達は魔法国とロゴール国が繋がっていたことは知っているよね」


「ええ、まあ……」


 そう。先に行われたヘクトールの仕掛けた戦争『魔女狩り』。魔法国は大陸のロゴール国と結託してこのトロア地方を制圧しようとしていた。


「なら、質問だ。ヘクトールはロゴール国の兵をどうやって移動させていたと思う? そして魔法国の民をどのような方法でロゴール国へ逃していたと思う?」


「……あっ!」


 マッケマッケが声を上げた。彼女のその反応を見て、グリムは大きく頷いた。


「そう、『転移陣』さ。ロゴール国を制圧したゼンゼリア王の協力を得て、一度潰したロゴール国側の『転移陣』を復活させた。そしてその『転移陣』は——」


 グリムはひと息入れ、続ける。


「——魔法国の城の大広間へと繋がっている。私の端末を使った転移実験も、成功済みだ」


「そうなの。だから私がロゴール国へ行って、ブリクセンへと結ぶゲートを繋げてきたの。ロゴール国まで直通だよ」


 口元を緩ませながら身体を揺らすエリス。それを聞いたセレスは、目を開いて彼女に問いただす。


「エ、エリス? ここからロゴール国って、四日じゃ絶対に行けないと思うけど!?」


「ふふーん」


 エリスは得意気に踏ん反り返る。そのやり取りを見たハウメアは、呆れた様子で笑みをこぼした。


「ほーら、エリス。もったいぶらない。でもね、セレス。本当に四日もあれば、十分行けちゃうんだな、これが」


「……あの、ハウメア? もったいぶらないで?」


 要領を得ない説明にセレスは困惑する。そんな彼女を見て、グリムは指を鳴らした。


「まあ、そろそろ入ってきてもらおうか。彼女たちの存在は、この戦いにおいて大きな力になるはずだ」



 扉が開く。



 別の個体のグリムに先導され、複数の人物が部屋の中に入ってくる。


 セレス達が注目する中、淡く青に輝いた半透明の布を基調とした服を身にまとっている娘たちは、皆の前に並び立つ。


「ご機嫌よう、人の子ら。リナ様の命に従い、あたしたちが力を貸してあげないこともないわ」


「いや、命令してないしっ!」


 莉奈がテーブルに突っ伏す。セレスは入ってきた三人のうちの一人、見覚えのある顔を見て声を上げた。


「サンカ!?」


「セレス、さっきぶりー!」


 氷竜の娘、サンカ。先ほどまでケルワンにて捕虜の監視を手伝ってくれていた氷竜だ。


 そして三人の氷竜は莉奈の前へと向かい跪く。


「「リナ様」」


「……レザリア、よろしく……」


「リナが所望しております、立ち上がりなさい」


「「はい、マスター」」


 ビシッと立つ氷竜娘たち。莉奈は薄々気づいていた。レザリアがいると莉奈に対する態度が大げさになると——。


 ポカンとその状況を見つめるセレスや、マッケマッケにビオラ。そんな彼女たちに向かって、エリスは舌を出した。


「というわけなの。あとで紹介するけど、このフィアの背中に乗せてもらってロゴール国に飛んでもらったんだあ」


「……はあ、なるほど……」


 腑に落ちたような落ちないような表情で返事をするセレス。グリムは口角を上げながら続ける。


「氷竜たちだけじゃないぞ。さあ、入ってきてくれ」


 続けて入ってきたのは——。


 少女が二人——いや、まだ再生途中ながらも、身体をだいぶ元に戻したあの二人だった。


「ふふ、私は私を殺そうとする者を殺すだけ。別に協力するわけではないわ」


「もう、ルネディやっぱりすにゃほひゃ……らめてー」


 言うまでもない、『厄災』ルネディとメルコレディ。彼女たちを手で示し、グリムは改めて皆を見渡した。



「どうだい、十八年前と比べて氷のスペシャリストたちの層は厚いだろう? 彼女たちの協力を得て、まずは『最後の厄災』の時を止める。不可能ではないはずだ」





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