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ライラと『私』の物語  作者: GiGi
第八部 第二章
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秋桜は炎に揺れる 07 —日常③—





 莉奈たちが『妖精の宿木』で食事を終えた頃——。



 ここ魔女の家でも、皆が昼食を取り終えたところだった。


「「ごちそうさまでした!」」


 食卓を囲んでいたのは誠司にエリス、ライラにレザリア、そしてカルデネ。加えて、街へ行ったものと別の個体のグリムだ。


 食器を片付け始めるレザリアを眺めながら、エリスはグリムに話しかける。


「それで、グリム。リナ達は街、楽しんでる?」


「ああ。向こうもちょうど食事を終えたところだよ」


 ピク。レザリアの長い耳が反応する。彼女も同行を願い出たかったのだが、本分はこの家の給仕であるため泣く泣く諦めた形だ。


「へえ。何食べたの?」


「妖精の宿木でおすすめランチだ。人間の身体は不思議なものだな。クレープを食べたばかりなのに皆、残さず食べたよ」


 ピク。ライラの耳が反応する。ライラは我慢ができず、会話に割り込んだ。


「……ねえ、グリム。『キジヤワ』? それとも『キジカタ』?」


「クレープかい? 三人揃って『キジヤワ』だ。美味しかったよ」


「……もう!『キジヤワ』ってリナが勧めたんでしょ? ずるい!」


 キジカタ派のライラとしては捨ておけない問題だ。初見のポラナとグリムには絶対にキジカタを勧めようと思っていたのに——。


 そんなライラの様子を見て、エリスは微笑んだ。


「ほおら、ライラ。早く仲直りしないと、どんどん『キジヤワ』派が増えていっちゃうかもよー?」


「べ、別に仲悪くないしっ! お母さんが『キジカタ』派だったらそれでいいもん!」


 他愛のない会話。この愛娘が莉奈と元の仲に戻るのにはあと一歩か、とエリスは感じる。あと一つ、何かきっかけさえあればどうとでもなるだろう。


 そして——クレープの生地戦争は、カルデネにも飛び火する。


「ねえ! キャルは『キジヤワ』と『キジカタ』、どっち!?」


「……ええっ!?」


 膨れっ面のライラを見ながらカルデネは思考をフルで回転させる。正直どっちでもいいのだが、この場合どう答えるのが正解か——。


 そこへ、食器を一往復運び終わったレザリアが参戦する。


「ライラ。私は『キジヤワ』派です。こればかりは譲れません」


「……レザリアのは参考にならない。リナがそうだからなんでしょ?」


「いえ。はい」


 どっちだよ、とそのやり取りを微笑ましく眺める誠司は、心の中でツッコむ。しれっと去っていくレザリア。さて、こちらに話題が振られる前に退散するか——。


「……お父さんは?」


「ンッ!」


 咽せた。愛娘がジト目でこちらを見据えている。ここでライラに話を合わせるのは簡単だが、教育上いかがなものか。


 そう。誠司的にはクレープなんかより、あたりめ的なものの方が良いのだ。酒のつまみ的な意味で。


「……そうだなあ。お父さんは固い方が好きかなあ」


「……お母さん。お父さんに『微睡み伝える魔法』かけて」


「ふふ。ライラが言うんじゃ仕方ないなあ。セイジ、覚悟はいい?」


「ンンッ! 私は忙しいんだ、後にしてくれ」


「「あっ、逃げるんだあ」」


 母娘のハモりを受けながら誠司は席を立つ。やることがあるのは本当だ。彗丈の作ったヘザー人形のスペアボディ。それを放置しておくのも落ち着かないので、念の為、分解して仕舞わなくてはならないのだから。


「お父さーん、ほんとはどっちー?」


「……すまない。私は甘いものは——」



 幸せな時間、在るべきはずだった時間。


 エリスは記憶と肉体を取り戻せたことに、深く感謝するのだった——。








 同時刻、魔法国跡地——。



 ここに派遣してあるグリムの端末は、魔法国城をのんびりと眺めながら考えていた。


 とりあえずの異変はなし。ヘクトールの言葉を信じるなら数ヶ月の猶予はあるが、油断をする訳にはいかない。


 ポラナが『トキノシズク』を作成できるのは幸運だった。目下、封印された部屋の内部を確認するのが最優先事項である。


 引き続き、警戒を怠らず——





 パキ





 何かが、割れるような音がした。


 グリムは急ぎゴーグルを掛け、音の出どころの方に意識を向ける。


 その光景を見たグリムは、驚愕のあまり目を大きく開く。可能性は考えてはいたが、ゼロに近い数値だと判断していた。



 グリムの視線の先、そこには——



 ——ひび割れた空間から吹き出す炎。そしてその炎に包まれながら、人の影らしきものが地面に落ちてくる姿があった。



(……確かめなくては)



 次の瞬間にはもう、グリムは駆け出していた。駆けながら自らの身体を切り落としてゆき、端末を増やしていく。


 人の影はゆっくりと起き上がる。近づくにつれ、はっきりとわかるその存在。



 ——『実体を持たない、まるで神を模したような彫刻像』、私はそんな印象を受けたかな——



 エリスの言葉が脳内に再生される。視界に映るその者の姿は、まさにエリスの印象通りの存在だった。


(……脅威レベル:未知数。優先事項の更新:出現存在の行動目的、能力、敵意の有無の特定【最優先】。行動オプション:対象の行動、エネルギー放出、周囲への影響を継続観測。もっとも優先されるのは——)


 グリムは跳ね、短刀をその存在に振り抜いた。すり抜ける刃——。


(——非破壊的スキャン:物理的な干渉無効。試行完了。引き続き——)


 その存在は、思考を重ねるグリムを嘲笑うかのように『微笑み』を浮かべた。



 途端、渦巻く、終焉の炎——。



 空が燃える。赤々と燃える。熱波に舞い上がる花びらは、炭となって消え——




(……観測……完了……)




 ——その場にいたグリムたちは炎に包まれ、一瞬にして全てが蒸発してしまったのだった。







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