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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第八部 第一章
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戦いを終え 07 —『リアライズ』②—





「そうしてジョヴェディを倒した君達は、幸運なことに僕の元……ここブリクセンを訪れるって言うじゃないか。震えたね。残る『厄災』はあと二体。次はブリクセンに現れた『厄災』ヴェネルディの復活。順番もバッチリだ」


 彗丈は満足そうにうなずく。皆は余計な口を挟まず、ただ彗丈の独白の続きを待った。


「ただ、問題があった。ヘザー人形は君達の家にいるし、修理の人形を預かってしまえば君達を『観覧』することができない。だから僕は半ば無理矢理、莉奈、君に『白い燕人形』を作って渡したんだ」


「……そういう意図が、あったんですね」


「——彗丈、私たちにバレるリスクを冒してか?」


 グリムの質問に、彗丈は満足気にうなずいた。


「そうだ。残りの『厄災』も少なかったからね。それにその頃には魔法国に怪しい動きがあるのを察知していた。遅かれ早かれ、『人形にアクセスできる能力』を明かさない訳にはいかなかったからね」


 魔法国の企み、各地を襲う戦争『魔女狩り』だ。彗丈は静かに目をつむる。


「まあ、今回の相手はヴェネルディだ。正直、僕は楽観視していた。ハウメアも同行しているしね。ところがどうだ。あのペチカとかいう女の子のせいで——」


 誠司の義手に、虚ろな彗丈の視線が向く。


「——誠司。君の右腕は失われてしまった」


「……彗丈。ペチカ君は何も悪くない。お前が『厄災』を復活させたのが原因だろう」


「そう怒るなよ、誠司。怒りたかったのは僕の方なんだからさ。それにお詫びに、君の腕をなんとかしてやっただろ?」


「フン。それはまだ、『厄災』が残っていたからだろう?」


 その誠司の問いに、彗丈は堪えきれずに笑い出した。


「あはは! さすがに僕もそこまで人の心を失っている訳じゃない。誠司、僕は昔から君には感謝しているし、困った時には助けてやりたいと今でも思っている。僕達、友達だろう?」


「……いいから続けてくれ」


 誠司は不快な表情を隠そうともせず続きを促す。彗丈は微笑み、咳払いをした。


「わかった。その後は君達も知る通り、魔法国の仕掛けた戦争、『魔女狩り』だ。先行してサーバトを復活させてもよかったけど、どう転ぶか分からなかったからね。だから僕は先に君達に、ヘクトールを排除してもらうことにした」


 悪びれない彗丈の言葉を聞き、皆は戦慄する。ヘクトール以上の邪悪、間違いなくその素養をこの男は持っていると。


「そして全ては上手くいった。ありがとうグリム、君のおかげだ。これで舞台は整った。グランドフィナーレだ。邪魔者が全て消え失せた舞台に、僕は『サーバト人形』を歩いて向かわせた」


「……ああ。その時点でのアレには『魂』がなかった。そこで私はそれが人形だと気づいた。ついでに彗丈、君が全ての黒幕だという確信をな」


「はは、僕の計画は全て終わったからね。もう隠す必要もないって訳だ。ありがとう誠司、僕に付き合ってくれて。そしておめでとう誠司、無事に帰ってきてくれて」


 パンパンとゆっくり拍手をしだす彗丈。その顔は喜びに満ち溢れている。


 全てを聞き終えても——いや、全てを聞き終えたからこそ理解できない。この男の思考が。


 誠司は震える声を絞り出す。


「……なあ、彗丈。お前に罪の意識は、ないのか?」


 彗丈の動きが止まる。そして彼は、不思議そうに誠司に尋ね返した。


「罪の意識? 感じているから僕は今、この拘置所にいると思うんだけど」


「……私にはとてもそうは見えんがね」


 どこか憐れみの視線を送る誠司に対し、彗丈は真顔で答える。


「ああ、別に僕は死罪になるだろうな、とは思っているよ。でもね、その前に是非、聞かせて欲しいんだ」


 彗丈は皆を見渡しながら問いかけた。


「なあ、僕はいったい何の罪を犯した? 世界にどれだけの損害を与えた? なあ、教えてくれよ。頼むから僕の罪を教えてくれ。死罪になるのは構わないが、罪状くらいは述べてくれよ」


「……彗丈、お前は……」


 目を細めながら彗丈は、一人ずつを覗き込むように見ていく。そして彼は、笑みを浮かべた。


「それでも、僕がやったことが罪だと言うのなら——」


 彗丈の視線が、メルコレディのところで止まった。


「——なあ、君は復活できて、僕に復活させられて……自分の存在を『罪』だと思っているのかい? 教えてくれよ、15号……いや、『厄災』メルコレディ」


「……彗丈さん!」


 莉奈が彗丈を睨む。彼の独白を聞き不安定な気持ちになっているメルコレディの瞳から、涙がこぼれ落ちた。


 そんな彼女のことを、莉奈は優しく抱きしめる。


 薄ら笑いを浮かべる彗丈。周囲から怒りの感情が伝播する。



 が。



 そんな中——




 ——彼女は、前に出た。




「面白い。キミの詭弁に付き合ってやろうじゃないか。フィギュア原型師、椿 彗丈——」



 その青髪の女性、元AIのグリムは、固く、強く、手を握りしめていた。



「——でもね、私は今、非常に不愉快な気持ちを感じている。できるだけ論理的にいくが、感情プロトコルに乱れが生じたら失礼、その時は諦めてくれ」




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