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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第八部 第一章
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戦いを終え 04 —どんな力も—





「——という訳なの。だから私がトキノツルベを納品しなければ、こんなことには……」


 全てを語り終えた莉奈は、両手の拳を握りスッと前に差し出す。ライラやレザリアの名前は、あえて出さなかった。私だけがお縄につけば——。


 誠司は腕を組み、ポラナの方を見た。


「だ、そうだ。材料があれば『トキノシズク』を作れるんだろう? ポラナ君、お願いできるかね」


「あ、もちろん。他の材料は店とかで買えるから、あとは場所さえ貸してくれれば」


「ふむ。しかし幸運だったな。莉奈が場所を知っていたとは」


 両手を突き出す莉奈を置いて、『トキノツルベ』の作成について話し出す面々。あれ? 莉奈は首を傾げ、恐る恐る申し出た。


「……ええと、あのう、誠司さん。お縄は? 臭い飯は?」


「ん? 君は何を言っている。そんなことで捕まるわけがないだろう。もし責任の所在を求めるのなら……まあ、ギルドだろうな。そうだろ、ハウメア?」


「そうだねえ。ただ、ロゴール国経由で依頼を出せばまず分からないだろうからね。しかも『トキノツルベ』は魔力草として希少な植物だ。ギルドに依頼があっても何らおかしくはない」


「でもでもでも! 私のせいでもしかしたら世界が!」


 そう。ドメーニカが『発芽』することによって『滅びの女神』が復活してしまう可能性があるのだ。もしそうなってしまった場合どうなるか、想像に難くない。


 責任を感じ何故か食い下がろうとする莉奈。そんな彼女の様子を見て、誠司は口を開いた。


「あのなあ。君は責任を感じているようだが、結果論だ。だから——」



「——リナはなんにも悪くない」



 突然、ライラがポツリと漏らした。莉奈は驚いてライラの方を見るが、彼女はうつむいたままだった。誠司は口元を緩め後を引き継ぐ。


「そう、ライラの言う通りだ。それとも何かね。君は、世界を滅ぼしたいのか?」


「……うっ。そんなことない。滅んで欲しくないから……」


「だったら世界を救うために頑張ろうじゃないか、『白い燕』さん。道具をどう使うかなんて、人それぞれなのだから」



 ——『どんな力も、結局は使いようよ』



 ふと、莉奈の頭にルネディの言葉がよぎった。悲しい罪滅ぼしを続ける彼女たち。そっか、あの娘たちの気持ちが、少しだけ分かったかもしれない。


「……ごめん、わかった。私が案内できると思うから」


「すまないね、お願いする。それでポラナ君、君が最後に見た時、種の様子はどんな感じだったのかな?」


 誠司に話を振られたポラナは、宙を見上げながらうーんと考えだす。


「えっと。最後にうちが見たのは一ヶ月くらい前に結界を破った時。種って言っても五メートルくらいの大きさがあるんだけど——」


 そこまで言ってポラナはブルッと身体を震わせた。


「——結界を破った瞬間、種は脈動を始めた。いちおー、ヘクトールの見立てだと数ヶ月で『発芽』するってことだったけど……ごめん、うちも正確なことはわかんない」


「……そうか。まあ、その『発芽』とやらをする前に、なんとかせねばなるまいな。ちなみにポラナ君、二十年ほど前に現れた『炎の厄災』について君は何か知っているかな?」


 誠司の問いに、彼女は眉をしかめて考え込む。


「……わからない、かな。ヘクトールが種を与えた『厄災』は全部で六人。『影』、『砂』、『氷』、『土』、『風』、『光』。六つの種ってヘクトールは言ってた。だから七人目はいないはず。ドメーニカっていうのは種の中だし、ヘクトールは最後にオルクスに『光』の力を与えて……あっ」


 ポラナは何かを思い出したかのように手を打った。注目する一同。


「そうそう、関係ないかもだけど。ヘクトールは種の結界を『光の厄災』の力で破ろうとしたんよ。でもオルクス……『厄災』サーバトが反旗を翻して、『光の雨』を魔法国に降らせたの。で、サーバトも種の結界を破ろうとして……」


「それで?」


 誠司の問いに、ポラナはこめかみに人差し指を当て当時を思い返す。


「サーバトの光線で、種を守る結界にヒビが入った。でもそれだけ。その後うちらの『凍てつく時の結界魔法』でサーバトの時を止めて、うちらも被害者を装うためにサーバトを地上に解き放ったの。ホントクソジジイ」


「……ヒビ……ね」


 ポラナから状況を聞いたグリムが深く考え込む。だが、しばらくして彼女は首を横に振った。


「……仮説はいくつか思いつくが、どれも確証には至らないものだ。あとでアルフレードとすり合わせをしてみるよ」


 当時、エリスがその身をもって空間に封印した『厄災』ドメーニカ。


 奴の復活の可能性はあるのか——そう、『厄災』を復活させている張本人に聞くしかない。


 交わす会話に沈黙が訪れたところで、ハウメアが頷いた。


「ありがとう、グリムにポラナ。では、そろそろ行くとしようか——」


 ハウメアは立ち上がり、静かに目を伏せる。



「——セイジ。あなたの友人である大罪人、ケイジョウ・ツバキの元へと」




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