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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第八部 第一章
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戦いを終え 03 —『トキノシズク』—





「まずは、魔法国の『残党』……ポラナには悪いが、こう表現させてもらう。どうやら彼らは全員、事前にロゴール国へと避難していたみたいだ。転移陣を使ってね」


 グリムの説明に、ポラナが頷く。


「うん。ヘクトールが城を浮上させるから、巻き添えを喰らわないようにって。って言っても、二十年前の『光の雨』で二百人も残っていなかったんだけどね」


 ポラナにとっては数少ない同胞の者たち。サーバトの『光の雨』は、想像以上に人々の命を奪っていた。


 ポラナは顔を伏せながら、グリムの顔を覗き見た。


「……ねえ、グリム。避難した人は無事なのかな?」


「ふむ。現状ではまだ把握しきれていないが……ゼンゼリア王は約束を守った。全員無事、とまでは言えないが、ゼンゼリア王は兵たちに徹底して民間人に手を出すようなことはさせなかった。ハウメア、キミの読み通りだ」


「まあねー。じゃなきゃこんな取引、持ちかけないよー」


 にへらーと満足そうに笑うハウメアを見て、ポラナの顔が少しだけ緩んだ。


「……そっか。うん、うちらのしたことって許されることじゃないのは分かってる。けど、お願いがあるの。できればみんなは関係ないから許して欲しい」


「もちろんさー、ポラナ。悪いのは全部ヘクトールのジジイだ。一般の皆にまで罪を追求することはないだろうねー」


「ありがとうございます、『北の魔女』ハウメア。うちはどうなってもいいから……」


 ハウメアに向かい頭を下げるポラナ。操られていたとはいえ、彼女は今回の戦争の将を任されていたのだ。その彼女に、ハウメアは優しく語りかける。


「『魔法の力により操られ、もしくは喪失していた者はその責を負う事なく、全ては術者が責を負うものとする』、この世界に共通する法律だ。まさに今回の事例はそれにあたる。ポラナ、あなたも罪に問われることはないと思うよ」


「……え、それじゃあ……」


「うん。ただし、しばらくはわたし達に協力して欲しい。ヘクトールの残した『ドメーニカの種』。あれを何とかしなきゃいけないからねー」


 ハウメアを真っ直ぐに見て強く頷くポラナ。だが、『ドメーニカの種』。その言葉が出た瞬間、その場の空気は引き締まった。


 皆を見渡してハウメアは続ける。


「さて。それじゃあそっちの話題に入ろうか。グリム、あなたの端末が様子を見に行ってるんだよね?」


「ああ、ポラナに聞いた通り、地下深くにそれらしき部屋はあった。だが——」


 グリムの視線を受け、ポラナがあとを引き継いだ。


「——うん。あの部屋の入り口は、ヘクトールしか開けない魔術結界で封印されてるの。用心深かったからね、まったく、あのジジイは……!」


 青春を奪った爺の顔を思い浮かべムカムカしだすポラナ。隣に座っている莉奈が、落ち着かせようと彼女の手を握った。


「ねえ、ポラナ。なんか開ける方法ないの?」


「……姉さん……。んっとねえ、うちの持っていた『トキノシズク』ならワンチャンあるかもだけど。セイジさん、持ってったよね?」


 トキノシズク、結界を破る魔法薬だ。皆の視線を集めた誠司は、深く息をついた。


「あれはヘクトールの結界を破るのに使ったよ。元々残り少なかったからね。あれで使い果たした」


 息をつく一同。ヘクトール亡き今、現状、種の部屋へと続く魔術結界を破る手段はない。そんな中で莉奈は、聞き覚えのあるその単語に引っかかりを覚える。


「ねえ、ポラナ。その『トキノシズク』ってさ、『トキノツルベ』と関係あったりする?」


「あ、さっすが姉さん。そうそう、半年ぐらい前かな? なんか偶然手に入ったみたいで。ドメーニカの種の周りに張られている結界を破るために、ヘクトールは『トキノシズク』の原材料となる『トキノツルベ』をずっと探してたんよ。うちが預かったのはその余り、って感じ?」


 ビクッ。その説明を聞いた莉奈とライラの肩が跳ね上がる。莉奈はそーっとライラに視線を送るが、ライラはすぐにうつむいてしまった。


 莉奈はポラナに向き直り、乾いた声を絞り出す。


「も、も、もしかしたらさあ! それ、ギルドに依頼してたとかっ!?」


「はあぁ……なんでもお見通しなんだね、姉さん。そうそう、西の森にあったみたいで。そんであのジジイは『ドメーニカの種』の周りに張られている結界を破って、滅びの力を手に入れようとしてたってわけ。マジクソジジイ」


 マズい。莉奈の動悸・息切れ・震えが止まらない。そう言えば、ギルドで野次馬達がこんな会話をしていた。



 ——『……おい、二年間手付かずだった『トキノツルベ』の採取が剥がされたぞ……』



 それだ。間違いなく、初クエストの『トキノツルベの納品』が原因だろう。私じゃん! 私が封印を解くのにひと役買っちゃってるじゃん!


 見ると、ライラも過呼吸を起こしてヒューヒューいっている。莉奈はぎこちない動作で顎に指を当て、ポラナに尋ねた。


「ポ、ポ、ポラナ? その『トキノツルベ』があれば、『トキノシズク』が作れるわけ?」


「んー。抽出に時間がかかるけど、二週間くらいあれば。てか、作らされたのうちだし」


「……わ、わ、わ」


 莉奈はゴクリと空唾を飲み込み、口をパクパクさせる。皆の視線が集まる中、莉奈は涙をツツーッと流しながら笑顔で言った。


「……わ、私、知ってるかも。その……『トキノツルベ』のある場所……」



 ——私、逮捕されちゃうかもなあ……。



 そんなことを考えながら、莉奈は皆に経緯を話すのだった。




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