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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第八部 第一章
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戦いを終え 02 —魔女狩りを終えて—





 帝都ブリクセン——。



 魔法国での戦い、そして各地で起こった『魔女狩り』という名の戦争から二日。


 街中を歩く誠司たちの目には、時折り捕虜となって連行されるロゴール国の兵士らしき姿が映り込む。


 その光景を横目に、誠司たちはグリムに案内されるがまま『魔女の城』へと向かった——。




 貴賓室ではハウメアと、別個体のグリムが待っていた。部屋の扉を開けると、ハウメアは破顔しながらエリスに手を広げた。


「やあ、エリス、グリムから聞いたよー。あなた、エリスとしての記憶が戻ったんだって?」


「久しぶり、せん……ハウメア! うん、もうバッチリ、だよ!」


 手を取り合って喜ぶ二人。普段は飄々としているハウメアだが、この時ばかりは目尻に輝くものが見えた。


 しばらくしてハウメアは、皆に着席をうながす。


「さて、積もる話もあるけど後回しだ。今回ヘクトールのジジイが起こした『魔女狩り』とかいう戦争の顛末、そして——」


 ハウメアは座りながら、誠司の方を見た。


「——あなたの友人、ケイジョウについて話をしようか」


 椅子に座ろうとしていた誠司の動きが一瞬止まる。そして彼は何事もなかったかのようにハウメアに返した。


「ああ。それでハウメア、彗丈は今どこに?」


「……拘置所で大人しくしているよ。彼は黙秘を貫いている。『セイジが来たら、全て話す』ってね」


 深く息を吐くハウメア。少しの間の沈黙が訪れたが、皆が椅子に座ったのを見計らって彼女は口を開いた。



「では、先に『魔女狩り』についてだ。まったく、失礼なネーミングだよね。で、結果から言うとこちらの被害はほぼゼロ。各地、グリムの作戦通りに上手くいった。グリム、ありがとねー」


「いや、礼には及ばない。私からも補足しよう。魔法国と繋がっていたロゴール国は今朝方無事、ゼンゼリア国が堕とした。こちらも狙い通りだ」


 そう。先日の魔法国城での戦いもロゴール国への急襲も、元はといえばヘクトールが企てた『魔女狩り』のカウンターに過ぎない。ハウメアは続ける。


「この戦争で捕虜にした兵士たちは、落ちつきしだいロゴール国へと順次送還する。ゼンゼリア王も大変だろうけど、特にセレスんところは四千人も抱えているからねー、なるべく急いでもらうよ」


 何とも慌ただしいが、ロゴール国領にも急いで捕虜を返す必要がある。野心を持った国はまだ少なからずあるのだから。ヒイアカとナマカは寝る間も惜しんで駆け回っているらしい。


 そこまで状況を共有したところで、ハウメアは誠司の方を向いた。


「それで、だ。念の為の確認。セイジ、ヘクトールは完全に滅んだ、ってことでいいんだよね?」


「ああ。奴の『魂』は斬り裂いてきたよ。消滅も確認した。奴に関しては、問題ない」


「……そしてあのジジイは、『厄災』ドメーニカ……いや、『転移者』ドメーニカの『発芽』は止められない。そう言っていたんだね?」


「……そうだ。『発芽』まであと数ヶ月、そう言っていた。どう足掻いても止められない、ともな。ヘクトールは『凍てつく時の結界魔法』で何とかするみたいだったが——」


 誠司は眉を寄せ、ハウメアを見た。


「——なあ、ハウメア、一つ聞きたい。なら、当時私たちが戦った『『厄災』ドメーニカ』とは何者なんだ?」


 そう。千年前の当事者、アルフレードは語っていた。ドメーニカは軍人ファウスティのチートスキルで種に封印されたと。


 そしてヘクトールの反応から見るに、ドメーニカの封印は『まだ』解かれた様子はない。ポラナの証言とも一致している。


 なら、二十年前に出現した、誠司たちが『『厄災』ドメーニカ』だと認識していた者の存在はいったい——。


 ハウメアは気怠げに息をつき、グリムの方を見た。


「ねえ、グリム。あなたの考えを聞かせてくれるかな?」


「……ふむ、そうだな。アルフレードにも改めて詳しく聞き取りを行うが、情報が足りていない。キミ達からも当時の詳細を聞かせて欲しいのだが——」


 その会話を聞いていたエリスの頭に、ピコーンと電球が浮かんだ。


「——あっ。ならさあ、セイジの『手記』、グリムに読ませてあげたら? 結構詳しく書いてあったよね?」


 ピキ。誠司の動きが止まる。エリスの隣ではライラがコクコクと頷いている。


「ふむ。そのような資料があるのならありがたい。是非——」


「——駄目だ」


 腕を組み、めちゃくちゃ渋い顔で即答する誠司。彼から実に弱々しい殺気が放たれる


 エリスは首を傾げ、誠司の顔を覗き込んだ。


「なんで?」


「駄目なものは駄目だ」


 そう。あの手記はその昔、莉奈と出会う前。誠司がライラのために自死を考えていた時に書いたものだ。今となってはあの『後記』は黒歴史だ。読ませるわけには——。


「いーよ、グリム。家に帰ったら読ませてあげるね」


「ありがとう、助かる」


「……おい」


 ライラはコクコクと頷き続けている。自慢の父の、ライラへの想いが込められた一冊だ。できればみんなに読んでもらって自慢したい。


 ハウメアは状況をなんとなく察し、苦笑いを浮かべた。


「まあ、わたしもグリムに覚えている限り話すよ。あなたの『端末』は置いていってくれるんだよね?」


「ああ。情報の共有は基本だからね。各地に派遣してある私の端末はそのまま配置しておくよ」


「ありがとう。では話を戻そうか。魔法国、そして、『転移者』ドメーニカの現状だ。グリム、そしてポラナだったね。お願いできるかな?」


 魔法国の実情だ。ハウメアの問いかけに、グリムとポラナは顔を見合わせて頷いた。




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