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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第八部 第一章
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戦いを終え 01 —少女は目を逸らす—





 なんだかライラの様子がおかしい。



 魔法国での戦いを終え、丸一日。私たちは馬車で二日ほどのブリクセンへと向かっている。


 いるんだけど——。



「ほら、ライラ。おかわりするでしょ?」


「……うん。だいじょぶ……もういらないよ……」



 ——おかしい。あの食いしん坊のライラがおかわりをしないだなんて。


 しかもそれは今の夕食に限らない。昨日からずっとそうだ。


 ライラは食事を終え、そそくさと誠司さんとヘザー——いや、エリスさんの元へと向かっていく。


 明らかに元気がない、というか、そもそも私と目を合わせてくれない。泣くぞ。


 私は片付けをしながら考える。なんか前にも誠司さんで似たようなことはあったが——そうそう、あの時は私に致命傷を負わせたことが原因だったんだっけ。


 別に今回はライラに殺されかけてもいなければ胸を見られてもいない。いや、普段から温泉で見られてはいるけど。


 私は隣で片付けを手伝ってくれている彼女に尋ねてみた。


「ねえ、ポラナ。私とライラってさ、どんな感じに見える?」


 ——この娘はポラナ。魔法国でヘクトールに長いこと操られていて、青春を無駄にした娘だ。


 そのポラナは、私の方をマジマジと見ながら答えた。


「姉さんとライラ? うちからは普通に見えるけど」


「そっかー……って、あなたの方が年上でしょ?『姉さん』はやめようね?」


「ううん。うちにとってリナは心の姉さんだし」


 ……昨日からこれだ。


 彼女はあの後、誠司さんの『尋問』で完全にシロだと断定された。


 それで一応、魔法国の内情を知る者としてブリクセンへと同行をお願いしているのだけど——彼女はどうやら根は優しい娘みたいで。


 こうして積極的に雑務を手伝ってくれているんだけど、私にめっちゃ懐いている。なんでも彼女の粗相を秘密裏に処理してあげたのが嬉しかったらしい。いや、そりゃ誰だって十字架は背負いたくないでしょうに。


 まあ、今はライラだ。ヘザーがエリスさんの記憶を取り戻して、テンションは上がれど落ち込むことなんてないハズなんだけど——。


 私は食器に『汚れを落とす魔法』を唱えながら、うんうんと考え込む。そんな私の様子を見て、ポラナがずいと身を乗り出してきた。


「じゃあさ、姉さん。グリムに聞いてみたら? あの人、ちょー頭いいんでしょ?」







「それは恐らく、『未来』で何かあったな」


「へ?」


 ——今は夜。馬車の中で家族水入らずで過ごしている誠司さん達三人から離れて、私とグリム、ポラナはホットミルクを啜りながら外で語っている。


「……『未来』って……あの、『死に戻り』ってやつ?」


 サーバト戦の会話の中で察してはいたが、どうやら誠司さんとライラは何度も『死に戻り』を経験していたらしい。今こうして訪れている、在るべき未来をつかむために。


「そうだ。何があったのかは私も聞いてないが、確かにあの後からライラのキミに対する態度は変わった。なあ、未来で何をしたんだ?」


「いや、わかるわけないでしょ」


 とはいえ、グリムの推測には納得がいく。もし私が未来でライラになんかしちゃったんだとしたら、あの態度にも説明がつく。おい、いったい何したんだよ、恨むぞ未来の私。


 ポラナもホットミルクをちびちび舐めながら考え込む。


「んー。姉さんの言う通り、うちらにとっては普通に時間過ぎただけだし。でも、優しい姉さんが何かするとは思えないけど」


「甘いよ、ポラナ。私は結構、自分勝手な人間だよ?」


「そうだね。キミは放っておくとすぐに自分で何とかしようとするからな。危険をかえりみずに」


「……うっ。それは言わないで、グリム……」


「ほら、やっぱ優しいし」


 二人の視線を感じながら、うつむいて考える私。もしかして私、未来でライラにひどいこと言っちゃったとか? ありえる。私なら十分にありえる。


 そのように何だか落ち込んでしまう私に、グリムは馬車の方を指差して声をかけた。


「まあ、事情を知っている人に聞いてみるのが一番だろう。莉奈、彼女に聞いてみたらどうだ?」


 グリムが指差す方、そこには——


 ——馬車から降りてきて私たちの方へと向かってくる、エリスさんの姿があるのだった。





「よいしょ。セイジもライラも寝ちゃったからねえ。私も話に混ざっていい?」


 そう言いながらエリスさんは私の隣に腰掛ける。そう、記憶が戻ったとはいえエリスさんはヘザー人形の身体、相変わらず睡眠も食事も必要としないみたいだ。


「もちろんさ。なあ、エリス、どうやら莉奈が悩みを聞いて欲しいみたいだぞ?」


「わっ、ちょ、グリム!」


「ふふ、嬉しいなあ。なあに、リナ。お母さんに全部話してみて?」


「……うっ、え、ええと——」


 私はエリスさんに話す。ライラに避けられている感じがすることを。


 話を聞き終えたエリスさんは、顎に人差し指をあてながらしばらく考え込んでいた。


 やがて——。


「——うん、そうだねえ。確かにリナのこと、避ける気持ちも分かるかも」


「……えっ。あの、私、ライラに何をしちゃったの……?」


 やばい、本当に泣くぞ。くそ、未来の自分、絶対に許さないからな。


 そんな困惑する私の髪を撫で、エリスさんは微笑んだ。


「安心して、リナはなんにも悪くない。これはあの娘自身の問題。だからね——」


 エリスさんは皆を見回した。


「——みんな、あの娘と普段通りに接してあげて。そしてあの娘が割り切れるようになるまで、見守ってあげてね」


「……うーん。そっか、ライラ……いっぱい悩んでるのかな」


「そういうこと。私からは言わないけど、もしあの娘が前を向いた時は優しくしてあげてね、お姉ちゃん!」


「あ、それはもちろん!」



 どうやらライラが私を避けているのは、私の方が原因ではないらしい。本当か?


 ——まったく、未来のことは未来の内に解決しておいてよね。


 私は夜空を見上げ、未来の私に文句を言うのだった。





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