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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第七部 第八章
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五秒の終わり 02 —天敵・Ⅲ—





「……キサマ……やはり、エリスか」



 グリムを始末したサーバトは、障壁の方へと向き直る。そこには、白い杖を彼の方に向ける少女——エリスの姿があった。


 エリスは、答えることなく障壁の外へと静かに歩み出す。


 サーバトが指を向ける。しかしエリスは、すでに言の葉を紡ぎ終えていた。



「——『揺らぎの魔法』」



 サーバトの指から放たれる光線群。しかしそれらはエリスの目の前で角度を変え、全てが彼女を避けるように飛び散っていった。


 眉をしかめるサーバトは、続け様に何発もの光線を発射する。だが、『揺らぎの魔法』を唱えながら進むエリスには、一発とて届くことはなかった。


「……なんだ、それは」


「空間をただユラッとさせるだけの魔法、だよ」


 そう。それは『空間魔法』の適性をチェックする魔法。空間をただユラッとさせるだけの魔法。


 ——そして、『光を屈折』させる魔法。



「………………」


 サーバトは無言で、手を頭上にかざした。エリスの脳裏に、ライラの記憶が流れ込んでくる。



 ——メルコレディが指をくるりと回すと、部屋が涼しくなった。


 ——マルテディが右腕を振り上げると、真っ直ぐに砂の道が伸びてゆき、街道一帯は瞬く間に砂で覆われた。


 ——ヴェネルディが剣を振り上げると、誠司の右腕を中心に鎌鼬かまいたちが巻き起こった。



 何かしらのトリガー。エリスは紡いだ言の葉を、サーバトに解き放った。


「——『空刃の魔法』」


 その圧縮された空気の刃は、視認出来ないほどの速さでサーバトの右腕を切り落とす。吹き出すドス黒い血。


 だが、畳み掛けようと立て続けに詠唱を始めるエリスの隙を見て、サーバトは残された左腕を上げた。



「——終われ」



 そうつぶやき、サーバトは左腕を振り下ろした。





 障壁の中で戦いを見つめる誠司は絶望する。間違いない、一国を滅ぼす力を持つ、『光の雨』だ。


 誠司は天井に空いた穴を見上げる。その上空には光が煌めき始めていた。


「……エリス!——」


 誠司が声を上げた、その時——エリスは詠唱を中断し、トンと杖で床を叩いた。



「——『結界の魔法』、発動」



 その言葉と共に、見上げる空は暗い幕に覆われた。直後、魔法国跡地に降り注ぐ光の雨。



 しかし——その雨は、ひと垂れすらこの地を穿つことはなかった。


 そうか。誠司は思い出す。


 二十年近く前に『厄災』サーバトと戦うにあたり、エリスは保険として『秘策』を準備していた。


 そしてそれは、『手記』にも記載していた——。



 さすがのサーバトも困惑した表情を見せる。エリスは空を見上げ、ふうと息を吐いた。


「よかった、まだ結界点が生きてて」


「……答えろ。何をした」


 睨むサーバトを見据え、エリスは息を吐く。


「ただの結界。空間魔法を練り込んだ、ただの結界だよ。この地域一帯に張っておいたの。だからね——」



 そう。エリスの結界。それは、対象を惑わす結界。



「——『光』を対象に張らせてもらった。あなたの雨はもう、私たちに辿り着けない」







「……クソッ!」


 悪態をつき、エリスに向かって連続で放たれる光線。しかしそれらも、揺らぎに邪魔されエリスに辿り着くことはない。


「——『揺らぎの魔法』」


 エリスは揺らぎを増やしていき、一歩、サーバトに近づく。


 それを見たサーバトは——かつて『魔王』との異名で恐れられていた彼は——一歩、後ずさった。


「さて」


 エリスが杖を向ける。


「ほんとはね、数百回は殺してあげたいんだ。私の家族を苦しめた分を、あなたにはしっかり味わって欲しい」


「……何を、言っている……?」


 会話をしながら前に出るエリス。後退するサーバト。


「でもね、早く終わらせてあげる。良かったね、一回で死ねて」


 詠唱を始めながら迫り来るエリス。サーバトの脳裏に、以前殺されたあの日の光景が蘇る。嫌だ、死にたくない——その時、サーバトにある考えが閃いた。


(……そうだ、光の力に頼っていたが、俺は『魔王』。『魔王』オルクスだ。魔法で消し炭にしてくれるわ……!)


 サーバトは詠唱を始める。詠唱が短く、かつ殺傷能力が高めの『火弾の魔法』。


 そう、火弾なら揺らぎも関係なく、目の前の女を燃やし尽くしてくれるはずだ。サーバトは手早く詠唱を終え、魔法を解き放った。


「——『火弾の魔法』!」


 巨大な火の球がエリス目掛けて飛んでいく。炎に包まれるエリス。誠司の脳裏に、あの日の光景がフラッシュバックする。


「——エリスーー!」


 飛び出し駆け寄ろうとする誠司。


 だが——その炎に包まれた人影は、炎を振り払ってペロリと舌を出した。


「残念だったね、サーバト。私の娘の『身を守る魔法』は、強力だよ?」


「………なっ」


 固まるサーバト。エリスの魔力は極限まで高まっている。



 ——彼女は、もう、言の葉を紡ぎ終えていた。



 エリスの双眸が赤く染まる。そして彼女は——魔法を解き放った。



「——『空間を削る魔法』!」



「……ぬ、ぐっ……うおおぉぉぉぉっっ!」



 サーバトの身体が空間に包まれ、歪み、ひしゃげ、彼の身体を粉微塵にしてゆく。


 その光景を赤い瞳で見つめるエリスは、声を上げた。



「セイジ、よろしく!」



「——ああ」



 駆ける誠司。彼は妻の横を通り抜け、少しだけ目配せをし——




 —— 斬




 ——万感の想いを込めた誠司の一閃を前に、サーバトの魂は斬りさかれ、散り散りになっていく——。




 こうして彼らは実に『二百三十三回』のループを経て、『厄災』サーバトの消滅に成功したのだった。





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