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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第七部 第七章
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五秒の始まり 02 —裏切る決意は赤く燃え—





 この家の地下にある書庫。


 光線の破壊の痕跡がある書庫。



 私はカルデネに勧められるがままに、一冊の本を読んだ。


 それは、長い長い物語。


 お父さんとお母さんの物語。




 やがて、最後の一文を読み終えた私は——カルデネの胸に飛び込み、泣きじゃくった。


「……キャル……キャル……!」


「……ごめんね、ライラ。家族でもない私が、勝手にこんなことしちゃって」


 違う。カルデネはもう、私たちの家族だ。私はカルデネの胸で首を横に振り続ける。


 カルデネは優しく私の頭を、ずっと、ずっと撫で続けてくれた。やがて落ち着いてきた私は、グシっと涙を袖で拭った。


「……ありがと、キャル。お父さんも……お母さんも……こんなに、いっぱい……私のことを……」


「……うん、そうだよ。セイジ様も、そしてエリス様も、とってもライラのことを愛してたんだよ」


 そう言って、カルデネは私の肩に手を置いた。


「だからね、ライラ。今のあなたの姿を見たら、お父さんとお母さんはすごく悲しくなっちゃうと思うの。だから——」


 私は肩に置かれた手を、強く包み込んだ。少し驚いた顔をしているカルデネに、私は真っ直ぐに伝えた。



「——キャル、お願いがあるの。そして力を貸して欲しい。私を妖精王様のところへ、連れて行って」








「——それにしても良かったです、ライラ。あなたが前を向いてくれて」


「心配かけてごめんね、レザリア。私はもう、大丈夫だから」


 私はレザリアに嘘をつく。大丈夫ではない。これから私は、みんなを裏切ることになるのだから——。



 妖精王様の住む場所へと向かう私とカルデネ、そしてレザリア。


 これから私がやろうとしていることに、妖精王様とカルデネの協力は絶対に必要だ。



 そして翌日、私たちは妖精王様の住む神殿へとたどり着いた。


 レザリアが扉に向かって声をあげる。


「妖精王様、おいでですか。レザリアです。『月の集落』のレザリア=エルシュラントが参りました」


 やがて中から「入ってきてくれ」と声が聞こえてきた。レザリアが扉を開ける。



 そこには、妖精王様らしき人と——



「……フン。誰かと思えば、ライラよ、久しいのう。随分とやつれているが、どうじゃ、元気にしとったかのう?」



 ——かつて『厄災』ジョヴェディとしてこの地に脅威を振り撒いた人、ジョヴお爺ちゃんがそこにいたのだった。




「……ジョヴお爺ちゃん」


 私を守るようにレザリアとカルデネが立ちはだかる。私は二人の腕をつかんで下げ、ゆっくりと前に出た。


「どうしたの、ジョヴお爺ちゃん。こんなところで」


「リョウカと約束しとったからのう。先の戦、協力すればこの場所を教えてやると」


 ジョヴお爺ちゃんは腕を組みながら、もう一人いる男の人の方を見る。私たちがジョヴお爺ちゃんと戦った時にいた妖精王様だ。


 その人——アルフさんはため息をついて、私たちに話しかけた。


「で、今日はどうしたんだい。世界は大変なことになっているみたいだけど」


「世界が……?」


 目を伏せ語るアルフさんに、レザリアが尋ね返した。それを聞いたアルフさんは、再び深い息を吐く。


「『厄災』サーバトだよ。どうやら奴は『光の雨』を武器に各国を脅しているらしいじゃないか。小さい村とかを容赦なく焼き尽くしてね」



 ——『厄災』サーバト、お父さんとお母さんの仇——



 その名前を聞いた私の視界が、一段と赤く染まる。


 私は拳を握りしめ、アルフさんにお願いをした。


「妖精王様、今日はお願いがあって来ました」


「……君はエリスの娘だね。なんだい、言ってごらん」


 私は赤く染まる瞳で、アルフさんを真っ直ぐに見た。



「——私に魔法を、作ってください」







「——さあ、出来たよ。受け取ってくれ」


 私は作ってもらった紙束に目を通していく。それを横から覗き込むジョヴお爺ちゃんは、鼻を鳴らした。


「なんじゃいアルフレード。ワシには作ってくれんクセに」


「……いや、ジョヴェディ。君のリクエストは僕の倫理観に抵触するものばっかりじゃないか……」


 そのやり取りを横目に、私はカルデネに紙束を渡した。


「ねえ、キャル。この魔法の最適化、お願いしてもいいかな?」


「……最適化? うん、ちょっと見せて——」


 カルデネは紙束を読み込んでいく。その間、私はアルフさんにお礼を言った。


「ありがとうございます、妖精王様。それで、しばらくの間この場所を借りてもいいですか?」


「……理由は?」


 アルフさんは私を見据える。私はジョヴお爺ちゃんに向かって頭を下げた。


「ジョヴお爺ちゃん、お願いがあるの。私に『魔法の詠唱』のコツを教えて」


 ジョヴお爺ちゃんは私の目を覗き込む。そして、しばらくして——。


「……フン。確か『今度いっぱい教える』と約束しとったのう。アルフレード、しばらく場所を借りるぞ」


「……ありがとう、ジョヴお爺ちゃん」


「……いや、僕の意思は……別に構わないけど……」


 そのようなやり取りをしている時だった。紙束を読み込んでいたカルデネが顔を上げた。


「うん、ライラ。この魔法、やっていることはシンプルだから、かなり最適化できると思うよ」


「ありがと。じゃあお願いするね。ねえ、妖精王様。キャルも一緒にいい?」


 私の言葉を聞いたアルフさんは、肩をすくめて苦笑した。


「……まあ、『その魔法』で世界を救ってくれるのなら構わないさ。ここは好きに使ってくれ」


「ありがとうございます、アルフさん」


 私はどこまでも嘘をつく。私に世界は、救えない。



 こうしてひと通りの区切りがついたところで、レザリアが私の方を心配そうに見た。


「……あの、ライラ。私に何かお手伝いできることは……」


「……うん、レザリアは家に戻ってて。もしリナが戻ってきた時に、誰もいないのは寂しいと思うから……」


「……そうですね。私は先に戻ります。ライラ、あなたもちゃんと、帰ってくるんですよ?」


「心配しないで。ここでやることが終わったら、ちゃんと家に戻るから——」




 こうして私は、この神殿でしばらく過ごすことになる。


 全ては、世界を裏切るため。


 私は秘めた決意を、赤く、赤く燃え上がらせるのだった——。




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