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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第七部 第六章
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『父』と『母』の物語・別れ 16 —『父』から『娘』へ—







 サランディア王国城下街、ベッカー家。



 ここの家の主であるノクスは、就寝の準備をしていた。


 そんな彼の元に、愛妻ミラが娘の手を引いてやってきた。


「……ねえ、ノクス。なんか聞こえない?」


 母親の足にピッタリとしがみつく愛娘のアナ。妻の言葉に、ノクスは注意深く耳を澄ました。


 聞こえるのは、雨の音。今日一日中、降り続けている。明日は晴れるといいが——。


 そんなことを考えながら耳を傾けるノクスだったが、雨の音以外には何も——



 ——ドン、ドン



 ——いや、確かに聞こえる。扉を叩くような音が。


 ノクスとミラは、顔を見合わせて玄関の方へと向かう。こんな夜分に人が訪れることなんて滅多にないのだが。


「……ミラ、一応警戒しておけ」


「ノクス……気をつけてね」


 警戒しながら鍵をあけ、扉を開くノクス。そこには——



「……セイジじゃねえか、どうした!?」



 ——夜の雨の中、外套を羽織ってたたずむ男女が二人。その男、誠司は苦しそうな表情でノクスとミラを見つめた。



「——すまない、ノクス、ミラ……彼女に……ヘザーに子供の育て方を教えてやってくれ……」






 ひと通りの事情を聞いたノクス夫妻は、誠司の願いを快く了承した。


 ミラは涙を目端に溜めながら、ヘザーの手を握った。


「……あなた……エリスさんなのね……」


「……申し訳ありません。私はあなた達と知り合いなのでしょうか?」


「……ふふ、そうよ。あなたはね、私たちの家族を救ってくれた、とってもすごい人なのよ……」




 ミラは自分の知っている育児の知識をヘザーに教え込んだ。


 ヘザーは真剣に話を聞き、彼女の教えを吸収していく。






 そして時は流れ、ある夏の日——



「ホギャアァァ、ホギャアァァーー」



 ——誠司が一瞬の光に包まれたかと思うと、そこには可愛らしい赤子が現れていた。


 どうしていいか分からずに困惑しているヘザー。やってきたミラは優しく赤子を抱きかかえ、布にくるんだ。


「さあ、ヘザーさん。あなたの子よ。教えた通りに、抱っこしてあげて」


「これが……私の?」


 ミラから赤子を受け取ったヘザーは、恐る恐る、教えられた通りに頭と首を支えながらその胸に抱く。


 最初は泣き叫んでいた赤子だったが——やがて、落ち着きを見せ始めた。


「ヘザーさん、話しかけてあげて」


 ミラに囁かれ、ヘザーは赤子を見て、優しく語りかけた。




「あなたはねえ、『ライラ』。ライラっていうんですよ。


 あなたを愛するセイジのために、


 そしてエリスという人のために、


 無事に産まれてきてくれて……


 ありがとう……ございます……」




 ライラはヘザーの胸の中でニコッと笑ったように見えた。



 ヘザーは愛おしそうに腕の中のライラを見つめるのだった——。











 後記




 ここに、私の覚えていることを出来る限り記した。



 ヘザー。これが、君の人生だったんだ。



 君が記憶を取り戻すことはないとは思うが、『エリス』であった時の君の人生を、覚えておいて欲しい。



 そしてもし、私がいなくなった後でライラがこれを読みたいと願ったら、その時は見せてやってくれ。



 君には押しつける形となってしまうが、どうかライラのことを、よろしく頼む。







 ライラ



 これを読んでいるということは、お父さんはもう君のそばにいないのかもしれないね。



 今まで黙っていて悪かった。君のお母さんは、最初からずっと君のそばにいたんだよ。



 でもね。これだけはハッキリと言える。



 お父さんも、そしてお母さんも、君のことを本当に愛していたんだ。



 お父さんがいなくても、君なら大丈夫。ヘザーと……君のお母さんと、幸せに暮らしなさい。



 そして、私のことは忘れてもいいが、君には世界を救った、君のために世界を救った立派な母親がいたことを時々は思い出し、誇りに思って欲しい。



 ライラ。いなくなってごめんな。



 けどね、最後に一つ。




 ライラ、お父さんは君のことを、愛している。



 元気に、生きなさい。





 鎌柄 誠司









 ——少女は父の残した手記を読み終え、



   涙を流す赤い瞳をそっと閉じた——





 そして全てが狂ってしまった、あの『始まりの五秒』を思い返す——。






お読みいただきありがとうございます。


これにて第六章、長らく続いた誠司の過去編が完結となります。


そして大変お待たせいたしました。次章より本編復帰、赤い世界のライラへと物語は引き継がれます。


よろしくお願いいたします。


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