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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第七部 第六章
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『父』と『母』の物語・別れ 14 —彼女の遺したもの—





「……嫌だ……エリス……嫌だ……」



 私はつぶやき、目の前で天に還ろうとしているエリスの『魂』を見つめる。


「……駄目だ……エリス……逝っては……」


 私は無意識のうちに『結界石』を握りしめていた。エリスの結界魔法と空間魔法の込められた魔道具。



 ——そして、私の『魂』に干渉する能力。



 結界石が淡く輝きだす。私は彼女の『魂』を優しく包むように——そっと、エリスの『魂』を結界石の中に封じ込めた。


「………………」


 ナーディアさんは黙ってその様子を見ていた。私は結界石を大事に懐に抱え込む。ああ、エリス、君はここにいるんだな——。


「……セイジ……」


 ふと、誰かの手が伸ばされた。私はその手を払いのける。誰も、誰もエリスに触らせてなるものか——。




 どのくらいの時間が経っただろうか。


 私は、エリスの遺した白い杖と黒いカバンを身につける。


 あと——




 ——『わあ……うん、そうなの。セイジとの思い出の花なんだあ』——




 ——彼女の好きだった、ヘザーの花をあしらったブローチ。何気ない日常。何気ない言葉。それを大事に思っていてくれた彼女。



「……はは……エリス……君は、私が……必ず…………」



 私はエリスの焦げた服からブローチを取り外し、懐にしまった。そして立ち上がり、フラフラと歩き出す。


「…………——、————?」


 誰かが何かを言っているような気がする。だが私はその声に応えることなく、エリスを抱きしめ歩き続けるのだった。







 どのくらい歩いただろうか。疲れ果てた私は、岩場の陰で横になる。




 ————…………。





 ——これは夢だろうか。暗く、何もない世界。



 しかしその場所には、一人の胎児が横たわっていた。



(……まさか、ライラか?)



 まるで明晰夢を見ているような感覚。私は座り、その胎児をジッと眺める。


 その時だ。ふと、声が聞こえてきた。


「やあ。君がこの空間の持ち主だね?」


 私が虚ろな目で声の方を見ると、その者はいた。


 長い緑髪を後ろで束ね中性的な顔付きをしたソレは、杖をつき私の横に立っていた。


「……君は?」


「僕かい? 僕はこの杖の力の概念。本来、この身体の持ち主の『魂』を封じ込めておく役割を担う者さ」


「……言っている意味が分からないのだが……これは、夢なのか?」


 ただ、夢にしては目の前の胎児からは妙に生命力を感じる。私の疑問に、その者はかぶりを振って答えた。


「……夢、ではないね。いや、君にとっては夢みたいなものか? ただ、この空間は確かに君の中に存在し、この赤子は確かにここで生きている」


「……そうか。ライラは、生きているんだな」


 エリスに託された、私たちの子。ライラは、生きている。


「ライラちゃんっていうんだね。彼女は無事、生きているよ。まったく、とんでもないことをしてくれたもんだね」


「……とんでも、ない?」


「そうさ。僕は本来、『魂』だけに干渉する存在なんだ。それがどうだ。空間は作り上げられ、僕はここを管理しなくてはならなくなった。大変だよ」


 駄目だ、話が見えてこない。私は端的に知りたいことを聞く。


「教えてくれ、管理者。ライラは育ち、生まれることは出来るのか?」


 その問いに管理者は、目を瞑り答えた。


「……ああ。君が生きて栄養を供給し続ければ、この子が死ぬことはない。なんたって、『魂』が混ざり合ってしまっているからね」


「……そうか……そうだな……確かに私の『魂』とライラの『魂』が、一体化してしまっているのは感じる」


 私の言葉に管理者は眉を動かした。そして薄く目を開き、私に問う。


「まさか君は、『魂』が見えるっていうのかい?」


「……まあな。とりあえず質問に答えてくれ。ライラは、生まれることは出来るのか?」


「……そうだね。確約は出来ない、出来ないけど……この場所、そして君たちの魂を管理する僕の考えだと、しかるべき時から君たちは『入れ替わり』の生活を送ることになると思う」


「入れ替わり、ね……なあ、その然るべき時とは?」


 管理者は、優しく微笑んだような気がした。


「それはもちろん、この子が外の世界に出かける準備ができた時さ」







 何日も歩き続けた。半ば自暴自棄になっている私は、エリスとライラのことだけを思い歩き続ける。


 管理者とやらの忠告に従い、食欲はなくとも食べられるものは何でも食べた。エリスに託された、私たちの子、ライラのために。


 睡眠中は、『空間』の中で管理者と話し続けた。一連の事件、エリスを失ったこと、そして、私の想いを——。


 ともすれば感情的に語る私の話を、彼は黙って聞いてくれた。もし彼がいなければ、どこかで私の精神は崩壊していたかもしれない。




 ——そして、どのくらい歩き続けただろう。ついに私は、目的の場所へと到着する。






 ブリクセン国。


 すっかり平和を取り戻した街の一角にある店の扉を、私は開ける。


 そこには、私の姿を見て驚く彗丈けいじょうがいた。


「……どうしたんだい、誠司! いや、その白い杖は……まさか、一人なのか……?」


 そう。ここは『人形達の楽園』。


 私はふらつく足を踏みしめ、エリスの『魂』が入った結界石を強く握り、彗丈にお願いをした。



「……彗丈。女性の等身大の可動式人形を用意してくれ……お願いだ……金ならいくらでも出すから……」




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