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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第七部 第六章
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『父』と『母』の物語・別れ 11 —決意—





「……バカ……な……」



 ——『凍てつく時の結界魔法』の中でも抗い、動きを見せるドメーニカ。



 皆が描いた中で、最も最悪のケース、『魔法が通用しない』。


 攻撃魔法はおろか、この地方最大級の力を持つ四人の魔女の力を持ってしても、ドメーニカの動きを完全には止められなかった。


 ドメーニカは動きを取り戻そうと抗っている。彼女がぎこちない笑みを浮かべるたび、燻った炎が煌めき、立ち昇る。


『——どうなったの、セイジ!?』


 セレスから通信魔法が入る。私は全員へ向け、通信を返した。


「——……ドメーニカは無傷だ。さらに奴は、動けない時の中でも動きを見せている……」


『——………………』


 無言。誰も返事を返せない。伝わってくる絶望。


 私は壁から降り立ち、エリスに問いかけた。


「エリス、動けないのか?」


「……うん。完全に構築しちゃえば大丈夫なんだけど、今の状態だと……持ち場を離れた瞬間に結界は壊れると思う」


「……そうか。よし、エリス、『結界石』を私に」


「……セイジ……」


 ——『結界石』。エリスの結界魔法と空間魔法の力が込められた魔道具だ。


 私はエリスから結界石を受け取り、氷の壁を駆け上りながら通信を入れた。


「——皆。私が奴に結界石を試してみる。そのまま『時の結界』を維持し続けてくれ」


 そう、ここで動かなければ何のための私だ。私は氷の壁の反対側へと飛び降り、ドメーニカへと向けて駆け出す。


 その時、南のナーディアさんの持ち場の方から一つの『魂』が駆け寄ってきた。


「セイジ様!」


「マッケマッケ君! ナーディアさんは?」


「ええ、セイジ様の力になってあげなさいって!」


 ——まったく、あの人は——。


 私は笑みをこぼし、結界石を強く握りしめた。


「頼む、マッケマッケ君。『水の障壁魔法』を」


「——『水の障壁魔法』!」


 彼女は私に言われるまでもなく、言の葉を紡いでいた。私の身体を水の膜が包み込む。


 歪に微笑もうとするドメーニカ。炎が弧を描き立ち昇る。私はクナイを取り出し彼女目掛けて投擲した。


 だがそのクナイは、ドメーニカの身体をすり抜けてしまった。『厄災』サーバトの時と同じ現象だ。


「……チッ。やはりか……マッケマッケ君、ここまでで大丈夫だ。危険だから戻りなさい」


「セイジ様ぁ!」


 私は速度を上げ、駆ける。はっきりと見えてくるドメーニカの顔。


 その顔は、身体は、鈍く輝き、そしてその質感はまるで無機物のようだった。


(……他の『厄災』どもの方が、まだ人間味があったな)


 まるで彫刻のような顔立ち。例えるなら、そう、まるで『女神』のような——。


(……ふざけんなよ)


 私は結界石に魔力を込める。淡く輝き出す結界石。なけなしの私の魔力でも、魔道具の起動くらいはできる。


「……頼むぞ」


 私は、跳ねた。立ち昇る炎。視界が赤く染まる。


 そして私は——水蒸気をまといながら、炎を抜けた。


 私は手を伸ばし、ドメーニカに結界石を押し付ける。頼む、どうにか——。




 ——その願い虚しく、結界石を握りしめた私の手は、彼女の身体をすり抜けた。







『——駄目だ……奴には結界石すら通用しない……』



 誠司からの通信が皆に入る。


『——そうかい。アタシが『支配の杖』を使ってもよかったんだけどね。その様子じゃ、犬死にになっちまうか』


『——……ああ、だろうな。だからナーディアさん、変なことは考えないでくれ』


 その通信魔法のやり取りを聞きながら考えこむエリスの元に、ハウメアが駆け寄ってきた。


「先輩!!」


「やあ、エリス。あっちは分身体に任せてきた。しかし、どうしたもんか。お手上げだねー」


 口調とは裏腹に、真剣な表情のハウメア。その彼女を見て、エリスは微笑みを浮かべた。


「よかった。先輩、ここ変わってくれる?」


「ああ、そのつもりさ。エリス、この場は撤退しよう。ゲートを構築してくれ」


 ハウメアにうなずき、エリスは場所を明け渡す。そしてエリスは——氷の壁を上り始めた。


「……!……エリス、何やって……!」


「ふふ。ごめんね先輩。でも、ここで倒さないともうチャンスがないかもしれない。だから、私に任せて」


 そう言ってエリスは振り向き、ペロリと舌を出した。そして瞬く間に氷の壁の向こうへと消え去っていく。


「エリスーー!!」


 ハウメアは苦渋に満ちた表情で彼女の名を叫ぶ。しかし、彼女がその声に応えることはなかった。






「——『水の障壁魔法』!」


「すまない、マッケマッケ君」


 私はドメーニカと距離を取りながら、今後の行動を考える。


 物理攻撃も効かない、魔法も通用しない。かろうじて『凍てつく時の結界魔法』だけ効果が現れているが、炎の吹き出すタイミングは速くなっていっている。破られるのは時間の問題だろう。


(……ここまでか)


 撤退の二文字が頭をよぎる。ここでどうにか出来なければ、遅かれ早かれこの地方は全滅してしまうだろう。だが、現状手の打ちようがない。


 ハウメアの『魂』がエリスのもとへ向かったのには気づいていた。事前の段階で話し合っていたことの一つに、『いざという時はハウメアの分身魔法でフォローする』というのがあった。恐らくはそれだ。


 エリスの元に向かったということは、離脱用のゲートを構築してもらうつもりなのだろう。


 ——やはり、撤退か——そう私が納得しかけた時だった。



「——セイジーー!」



 氷の壁の向こうから、エリスが飛び降りてこちらに駆けてきた。唖然とする私。


 私は彼女の方へと駆け、声を掛ける。


「……どうした、エリス。何かあったのか?」


 その私の呼びかけに、エリスはドメーニカの方を見ながら答えた。


「ねえ、セイジ。任せて、私が何とかしてみせる」


「……何とかって……」


 彼女は、決意の込められた眼差しで私に答えた。




「——私が座標となって、ドメーニカを『出口のないゲート』に閉じ込める。それで全て、終わるはずだよ」






章の途中ではございますが、明日より第七部完結まで毎日投稿いたします。よろしくお願いします。



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