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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第七部 第六章
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『父』と『母』の物語・別れ 10 —時は凍りつく—





「エリス、ゲートが!」


「……うわ。開いた状態で炎にさらされちゃったからねえ」


 セレスの叫びにエリスが答える。魔法の適性があまりない私でも感じられる。そこにある魔力が、霧散していくのが。


 ——恐らく、ゲートは壊れた。


「……とりあえず、みんな、『凍てつく氷の魔法』を! 後には引けない、作戦は継続する!」


「うん!」


 ハウメアの号令で、魔女四人が詠唱を始める。私とマッケマッケ君が固唾を呑み見守る中、言の葉は紡がれた。


「「——『凍てつく氷の魔法』!」」


 氷の壁が目の前にそびえ立つ。私たちは、壁に沿って散開を始めた。


「——『凍てつく氷の魔法』!」


  「——『凍てつく氷の魔法』!」


    「——『凍てつく氷の魔法』!」



 …………————。



 氷の壁が円を描くように作り上げられていく。中でも目を引くのがハウメア。彼女は氷人族の血を引いており、寒ければ寒いほど真価を発揮するとのことだ。


 最初は他の魔女と同等程度の『凍てつく氷の魔法』だったのだが——氷が増えるにつれ、彼女の魔法の威力が増していくのが目に見えてわかった。



 だが——。


「……エリス。後方の壁が崩される」


「……——『凍てつく氷の魔法』!!」


 私の言葉を聞き、額の汗を拭いながら言の葉を解き放つエリス。彼女はバッグから魔力回復薬を取り出し、一気に飲み干した。


 布陣はこうだ。


 南のゲートから出た場所、比較的動かなくていい位置にナーディアさん。サポートとしてマッケマッケ君もついている。


 西へ向かうのはエリスと私、東へ向かっているのはセレスとハウメア。最終的にハウメアは、単身『厄災』ドメーニカの北側を目指すことになっている。


 奴の『終焉の炎』の威力は、想像以上だ。張った氷もすぐに溶かされてしまう。


 やがて西側の指定の場所へとたどり着いた私たちは、少しずつドメーニカとの距離を詰めながら慎重に氷を張っていく。


「……参ったな。『魂』がないから、正確な場所が……」


「……うん……——『凍てつく氷の魔法』!」


 通信魔法で、セレスも所定の位置についたと連絡が入った。あとはハウメアだ。


 と、その時エリスが、氷の壁の段差を駆け上った。


「エリス!?」


「よっと!」


 氷の壁の上に立つエリス。彼女は炎に包まれるが——やがて彼女は言の葉を紡ぎながら降りてきた。


「——『凍てつく氷の魔法』!……セイジ、ドメーニカは動いてない。みんなに通信を!」


「……頼むから、無茶をするな……」


 彼女には『身を守る魔法』が掛けられているとはいえ、何かあったらどうするつもりだったんだ——。



 ——だがおかげで、奴の居場所が再確認できた。

 


「——各自に連絡! ドメーニカは場所を移動していない、引き続き作戦の続行を!」


『——りょーかい!』


 ハウメアから真っ先に返事が返ってくる。普段はつかみどころのない彼女だが、今回に関しては何と頼もしいことか。


 続けて返ってくるセレス、ナーディアさんの返事を聞き、私は息をついた。


「……今のところは順調だ、エリス。頑張ってくれ……」


「もっちろん!——『身を守る魔法』!」


 エリスは隙をみて自らに魔法を唱え直す。そんな彼女を見て、私は歯を食いしばる。



 ——私は、何も役に立てていないじゃないか——。



 時間が長く感じる。額に汗をしながら魔法を唱え続けるエリス。まだか、早く、彼女を楽にしてやってくれ——。



 やがて、ハウメアから通信が入った。



『——こちらハウメア、所定の位置についた。セイジ、予定通りあなたが号令をかけてくれ!』


「——わかった」


 私はハウメアに返す。本来の作戦では奴の『魂』の動きを把握しているはずだった私が合図をすることになっていたが——どちらにせよ、魔女は詠唱で手一杯なのだろう。


 私がやるしかない。私は、暗く冷たい瞳でドメーニカが居るであろう方向を見据えた。


「——詠唱の時間を稼ぐ! 総員、最大級の『凍てつく氷の魔法』をドメーニカに向けて放て!」


 返事はない。だが、各場所で魔力が高まっているのがここからでも感じられる。


 そして一斉に言の葉は紡がれた。



「「——『凍てつく氷の魔法』!!!」」



 ——凍りつく、凍りつく。


   終焉の炎でさえも——。



 一瞬の静寂。氷の軋む音だけが聞こえてくる。私は祈るような気持ちで叫んだ。


「——総員、『凍てつく時の結界魔法』をっ!」


 静寂の世界の中、エリスの詠唱だけが私の耳に入ってくる。


 私は氷の壁を駆け上り、ドメーニカの様子を見た。



 ——そこには少女を中心に、再び炎の渦が広がり始める光景があった。



(……頼む……急いでくれ……)


 燃え盛る赤。この詠唱の間に、今まで積み上げてきた氷もほとんどが溶かされてしまうだろう。


 私は祈る。祈ることしかできない。


 そして、いよいよ『終焉の炎』が元の広がりを見せ始めようとした時——ついに言の葉は、紡がれた。




「「——『凍てつく時の結界魔法』!」」






  静かに  時は  凍りつく






 一切の動きを止めるドメーニカ。終焉の炎が収まる。成功だ。私は最後の号令を下した。



「——全員、解き放てえっ!」



 それを合図に、ドメーニカ目掛けて一斉に放たれる色鮮やかな魔法の渦。


 氷が、風が、空気が、雷が、ドメーニカを襲う。



 これで、これで——。



 私は祈りながら中心地を見た。




 そこには——




 ——魔法の渦が晴れたところにいたのは、まったくの無傷の少女が一人。



 その少女は、動けない時の中で——歪に、微笑んだ。





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