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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第七部 第六章
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『父』と『母』の物語・別れ 06 —救国の英雄 後編—







 ——ひとつの国が、救われた。




「——彗丈の言っていた通りだな……」


「……うん。大丈夫だとは思うけど、セイジ、気持ち悪くなったらすぐに言ってね」



 ここは魔法国南部。『土の厄災』の影響のある土地だ。


 彗丈からの情報で聞いた通り、この地の土は腐り、沈み、そして腐った土に好んで咲くという『腐毒花』が咲き荒れていた。


 だがそのおかげで、『土の厄災』ジョヴェディとかいう奴の居場所は検討がついていた。


 何でも自らが腐らせた土地に咲く、腐毒花の瘴気から逃れるように移動をしているらしく。つまりこの花を辿っていけば、いずれは奴に辿り着くはずだ。


「じゃあ、エリス。地盤のしっかりしている所を通るように」


「わかった。セイジも気をつけてね」


 こうして私たちは、この中央南部の岩壁の上を渡り歩くように歩みを進めるのだった。




 ゲートを張り直して中継地点とし、場合によっては野宿をしながら『厄災』ジョヴェディを追い続けること一か月。


 私たちはついに『厄災』ジョヴェディを捉えた。



「セイジ、行くよ!」


「ああ。君も気をつけるんだぞ、エリス」



 土の中に隠れ移動を繰り返すジョヴェディを、エリスの魔法が追尾する。


「——『空刃の魔法』!」


「エリス、次はこっちだ!」


 私は高台から投げクナイを投げる。そこを目印に放たれる、エリスの追撃の魔法。


「——『空間を削る魔法!』」



 ——戦いは長引いた。土に潜り再生の時間を稼ぐジョヴェディ。そうはさせまいと地面を削り続けるエリス。


 歯痒い。奴の力の特性上、土の地面に踏み出せない私は岩壁の上からのサポートしか出来ない。


 一方のエリスは削った地面の中から剥き出された岩の上を渡り、ジョヴェディに攻撃を続ける。


 その時だ。逃げるジョヴェディを追うエリスが漏らした。


「……魔力切れ……?」


 その言葉に反応したのかは分からないが、動きを止めるジョヴェディ。それを見たエリスはペロリと舌を出した。


「なんちゃって」


 エリスはバッグの中から魔力回復薬を取り出し、一気に口の中に流し込む。そしてジョヴェディに向かって言の葉を解き放った。


「——『切り刻む鎌鼬の魔法』!」


「…………グ……ヌオオォォッッ……!」


 圧縮された空気がジョヴェディの身体を、降り注ぎ、切り刻む、切り刻む——。


 やがて肉片すら刻まれ続けるジョヴェディ目掛けて、エリスは幾房もの束になっている花を投げ込んだ。


「セイジ、お願い!」


「——ああ」


 私はあらかじめ作ってもらっておいた『フリーパス』のゲートを潜り抜ける。


 そこに繋がるのは——エリスがジョヴェディに向かって投げた、『ホワイトヘザー』の花。


 その花を舞い散らし、空間を割って私は躍り出る。


 今や『魂』だけの存在となったジョヴェディに、私は別れの言葉をつぶやいた。



「——さらばだ、ジョヴェディ」







 ——ひとつの国が、救われた。



 魔法国北部、光の雨が降る地——。


 その光は、人も、建物も、自然も、全てを破壊しつくしていた。


 私たちはその光景を離れた場所から茫然と眺める。


「……これじゃあ迂闊に近づけないな、エリス」


「うん。城の近くにゲート作ってあったんだけど、すごい昔だからねえ。新しく張り直さないと」


 魔法国の周囲が国々に囲まれているのが幸いした。ブリクセン主導の元、各国で連携をとり、この頃には光の雨の影響範囲、そしてその中心部であろう地点は特定できていた。


 それは、かつて魔法国が栄えていた場所。


 馬が通れるほどの大きさのゲートは作れないので、私たちは夜間、進めるところまで進んでゲートを張り、家に戻るという作業を繰り返す。


 ただ、『光の厄災』は動く様子はないらしい。私たちは半月と経たず、魔法国跡地へと辿り着いた。


「……確かに、城の跡地に『魂』があるな」


「そっか。じゃあ、念のための作業しとくね」


「ああ。任せた、エリス」


 対『光の厄災』戦。夜間に戦うことは決めていたが、もし光の雨をいつでも降らせられるのだとしたら勝ち目はない。


 そこでエリスは『秘策』を準備したのだったが——結論から言うと、それは使われることはなかった。


 だが、実力が未知数の相手だ。奴に関しては何の情報もない。『厄災』、恐らくはサーバトかドメーニカのどちらか。いくら準備しても、過剰と言うことはないだろう。



 そして、全ての準備を終えた半月後の夜。私たちは魔法国城跡地へと乗り込んだ。



 そこに佇む、長い銀髪に高級な魔術師のローブを身にまとう者。『厄災』の魂だ。私は刀を抜き彼に問う。


「——答えろ。お前は何者だ」


「…………サー、バト…………オレハ…………サー…………」


「……そうか」


 今までの『厄災』と違い、奴は攻撃を仕掛ける素振りを見せない。私は駆け、すれ違いざまサーバトを斬り抜いた。



 —— 一閃……



 私は驚きのあまり目を見開く。確かに、確かに私の刃はサーバトを捉えたのだが——その刃は、奴の身体をすり抜けてしまっていた。


「…………なっ」


 サーバトがゆっくりと私に指を向ける。脳が全力で警鐘を鳴らす。その時だ、エリスの言の葉は、紡がれた。


「——『空刃の魔法』!」


 圧縮された空気の刃は、サーバトの腕を切り飛ばした。


 遅れて放たれる、ひと筋の光線。


 私のことを狙っていたであろうその光線は、明後日の方へと飛んでいった。私は急ぎ、後方に退避する。


「さがって、セイジ!——『空弾の魔法』!」


 連続で放たれるエリスの空弾。それを受けるサーバトは、踊るように崩れていく。


「……魔法は……効くのか」


「……みたいだね……。——『空間を削る魔法』!」


 サーバトが折れたもう片方の腕を上げるよりも早く、エリスの魔法は解き放たれた。削れていくサーバトの身体。


 やがて肉体を失ったサーバトの元に、私は近づいていく。


「……頼むから、『魂』は斬れてくれよ」



 —— 斬



 ————…………。




 静けさが戻る。私は散り散りになり掻き消えていくサーバトの魂を見送り、エリスに声を掛けた。


「……終わったな、エリス。これで確認されている『厄災』は、全部だ」


「……うん。これで平和になってくれればいいけど……」



 懸念事項として、『魂』が消滅していない『厄災』ヴェネルディの復活、そして、出現そのものが確認されていないドメーニカの存在があるが——やれるだけのことはやった。


 私たちは廃城をあとにし、家へと帰る。平和を取り戻した、我が家へと——。







 ——いくつもの国が、救われた。



 この頃には彼らは、人々から『救国の英雄』と呼ばれるようになっていた——。





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