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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第七部 第六章
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『父』と『母』の物語・別れ 05 —救国の英雄 前編—






 ——ひとつの国が、救われた。





「——見つけたぞ。あの感じ、間違いなく『厄災』だ」


 私の言葉を聞き、エリスとナーディアさんは唾を呑み込んだ。



 ——スドラートで『厄災』を探し始めてからひと月半、ついに私は『厄災』メルコレディの魂を捉えることに成功した。





「——キャハハハハハハッ!!」


 メルコレディは凍りつく海の上で、踊るように身体をくねらせていた。


「——『轟く雷鳴の魔法』!」


 ナーディアさんの魔法がメルコレディの身体を吹き飛ばす。飛ばされながらメルコレディは、欠けた身体の部分を氷で補った。


「…………イ、タイ……イタ、イヨ……キャハハ!」


 奴は氷の上を滑り、巨大な氷塊をばら撒いていく。傷口を塞いだ氷の部分も、その間に再生してしまっていた。


「チッ! なんだいありゃ!」


「ナーディアさん、下がって。詠唱の準備を」


 こちらに向かい滑ってくるメルコレディ。私はすれ違いざま——



 —— 一閃



 ——メルコレディの首を斬り落とした。落ちた頭を探す奴の胴体。私は叫ぶ。


「今だ、エリス、ナーディアさん!」


「うん!——『空刃の魔法』!」


「——『焼き尽くす業火の魔法』!」


 エリスとナーディアさんによる魔法の一斉攻撃。炎の中で踊るメルコレディ。



「——イィィヤアアァァァァーーッッ!!」



 奴の断末魔が響く。やがて肉体を失った『魂』を——。




 —— 斬





 …………————。




 こうして、ここスドラートの『雪の厄災』は消滅したのだった。







 ——ひとつの国が、救われた。





 私とセレスは砂嵐の中、罵声を浴びせあっていた。


「フン。顔も見たくないなら、どっか行ったらどうかね」


「あら。あなたの言う通り私が『悪い令嬢』なんだったら、あなたの嫌がることをするのは当たり前じゃなくて?」


「……クソ」



 ——オッカトルで『厄災』を探し始めてから三か月。


 その間、情報を集めてくれている彗丈でさえも、大まかな場所すらつかめていなかった。



『——すまないね、誠司。オッカトルの何処かにいること、そして、『『厄災』マルテディ』という名前らしいということだけは耳にしたんだけど……』



 今はエリスのゲートを少しずつ伸ばし、流砂の渦巻くこの広大な砂漠をしらみつぶしに探している状態だ。


 私は歩きながら、背後からくる攻撃を避けかわす。


「あら、相変わらず避けるのは上手いのね」


「……おい。こんなことをしている場合か?」


「フン。こんな非常時だからこそ、あなたが本当にエリスを守れるのかどうか試しているのよ」


「……チッ」


 まったく、『厄災』を倒したら二度とこんな国になんか来るもんか——。


 そのように私が不貞腐れていると、離れたところの様子を見に行っていたエリスとマッケマッケ君が駆け寄ってきた。


「セイジー! セレスと仲良くやってる?」


「ああ、もちろんさ。なあ、セレス」


「ええ。本当、よく出来た旦那さんね。エリスにはもったいないくらい」


「もー! セレスひどいなあ!」


 頬っぺたを膨らませるエリスを見て、乾いた笑いを浮かべる私とセレス。まあセレスも、エリスがそばにいる時だけは普通に振る舞ってくれるのは唯一の救いか。


 私は気を取り直してエリスに話しかける。


「それで、エリス。何か見つかったか?」


「うーん、特には。この砂嵐じゃねえ……」


 仕方あるまい。この砂嵐の中では遠くを見ることも出来まい。視覚に頼る探索では限界があるだろう。


 やはり私のスキルだけが頼りか——そんなことを考えていた時だ。それまで黙り込んでいたマッケマッケ君が口を開いた。


「……あの、今しらみつぶしで区画ごとに探してるじゃないですか。それであーし、一つ気になったことが」


「なんだい、何でも言ってくれ」


 この国の政治的なことを大部分担っている彼女の気付きだ。私は期待をし、彼女の言葉を待つ。


 マッケマッケ君は座り込み、防風魔法をかけ直して地図を広げた。そして、私たちが探索した場所に矢印を書き込んでいく。


「風向きです。巡っていて気づきましたが、多少のばらつきはあれど、この国の南西部は北西の風、西部は北の風、北西部は北東からの風が吹いています。そして、南東部に位置するケルワンには南西からの風が吹いています。つまり——」


 説明しながら書き込まれていく矢印を見れば、誰にでも分かる。私たちはマッケマッケ君の顔を驚愕の表情で見つめた。


 彼女は最後に、その中心部を丸で囲う。


「——この国全体が一つの巨大な『砂嵐』に覆われているんじゃないでしょうか。もしそうなら、その中心って怪しくないですか?」


「……なるほどな。優先して調べる価値はありそうだ」


 私たちの顔に、希望の光が差す。セレスはマッケマッケ君に駆け寄り抱きついた。


「ありがとう……ありがとう、マッケマッケ。これでこの国は救われるわ!」


「はい、セレス様、ストップ。まだ決まったわけじゃないですし、よしんばそうだとしても戦って勝たなきゃいけないんですよ? 巨大な砂嵐を操る相手と」


「……ええ、ええ。でも、ありがとね、マッケマッケ!」




 ——結局、マッケマッケ君の推測は当たっていた。



 風向きから予想される砂嵐の中心付近を探し始めてから一週間後、『厄災』マルテディの魂を私は捉え——



 ——この優秀な魔法の使い手三人の前にマルテディは散り、オッカトルに無事、自然の大地は蘇ったのだった。





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