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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第七部 第六章
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『父』と『母』の物語・別れ 01 —捕捉—





 サランディア地方の西部に位置する広大な森。


 その森の西端部にある、私とエリスの住処である『魔女の家』。そこから比較的近くにあるエルフ族の集落『月の集落』を私は訪れていた。


 ブリクセンで彗丈とハウメアから話を聞いたのが十日ほど前。


 それからの私は、この西の森にいると思わしき『『厄災』ルネディ』の捜索に時間を費やしている。




「じゃあ、セイジ。見つけても一人で戦おうとしちゃダメだよ?」


「ああ、分かってるよ、エリス。得体の知れない相手だ、慎重に行くさ」


 私をゲートで送り届けてくれたエリスは、手を振ってゲートへと戻っていく。


 ブリクセン国が提供してくれている物資——それを彼女は、ドワーフ族の力を借りて各地に届けているのだ。


 とは言え、エリスのゲートも何処にでも通じている訳ではない。


 まずはサランディア王国。ここに運び込んだ物資は、サラ王女達の決断により魔法国の南部、『土の厄災』に見舞われている土地へ送り届けようと試みている。


 だが、地盤沈下の影響により思うようにはいっていないみたいだ。そもそもサランディア自体も『厄災』に見舞われているため、余裕がないというのが実情である。


 そして南部、スドラート地方。この地方は、ナーディアさんのいる『魔女の館』、そこに物資を運び込んでいる。


 ここを中継地点とし、サランディアの魔法兵達を中心に何とか孤立している村や集落へと物資を送り届けることが出来ないか模索しているようだ。


 王都サランディアから比較的近く、状況の確認できた村や集落の状況を見るに、決して芳しい状況ではないらしい。


 食料もそうだが、同じくらい重要なのは『防寒魔法』と『暖房魔法』。その村にそれらの魔法の使い手がいない場合、魔法兵の派遣が間に合うかどうかで人々の生存率は大きく変わってくるだろう。


 あとは東の国、オッカトル。そこの首都ケルワンに物資は運び込まれている。


 水の用意ができた首都ケルワンや、ブリクセンに避難できる北部の国境に近い者たちは助かるだろうが——それ以外の地域は相変わらず孤立状態だろう。そちらに関してはセレスやマッケマッケ君の手腕に期待するしかない。



 そのようにドワーフ族を引き連れ各地を飛び回っているエリス。私も出来れば一緒について行きたいが、私にはやるべきことがある。


 ——そう。『厄災』ルネディの捕捉。


 このままでは遅かれ早かれ、トロア地方は滅亡の道を辿ってしまうだろう。


 なので私は月の沈んでいる間は、この集落のエルフが満月の夜に見たという『立ち昇る黒い影』周辺を捜索しているのだった。





「では、行ってくるよ、ナズールド。今日は深夜三時過ぎには戻る」


「はい、セイジ様。どうかお気をつけ下さい。シズル、しっかり案内するんだよ」


「はい!」


 ここ『月の集落』の長ナズールドに見送られ、私は案内人の女エルフを連れ集落を出る。


 彼らから聞いた情報、『立ち昇る黒い影』。それは満月の夜に目撃されたらしい。その情報をエリス経由で聞いた私は、以来この集落を起点に捜索している。かれこれ一週間くらいか。


 捜索可能なのは月の出ていない時間。今日は『二十六夜』。夕方前から明け方前までは影を気にせずに動ける。


(……早く……早く、見つけ出さないと……)


 私ははやる気持ちを抑えつけ、暗くなりゆく森の中を進むのだった。





「……セイジ様、大丈夫でしょうか……」


 物陰から誠司のことを見送った『月の集落』の女戦士レザリアが、ナズールドに話しかける。


「どうしたんだい、レザリア。隠れてないでちゃんと見送ってあげれば良いのに」


「わ、私などが恐れ多い!」


 レザリアは両手を広げてブンブンと振る。


 この西の森に住まう『白き魔人』——伝説の冒険者とも呼ばれる『西の魔女』エリス。


 その伴侶である三つ星冒険者の誠司が原因排除のため身を粉にしてくれているのだ。


 幸いなことにこの『月の集落』に犠牲者は出ていないが、他の集落には犠牲になった仲間もいる。


(……どうか……どうか、ルネディを……)


 レザリアは祈るように、自身が見た『立ち昇る黒い影』の方向を眺めるのだった——。





「——あの、セイジ様。そろそろ時間になります」


「……そうか。今日も見つからなかった、な……」


 深夜二時、集落へと戻る時間になり私たちは引き返す。


 エルフが目撃したという『立ち昇る黒い影』。それが現れた付近を探しているが、今日も私の探知範囲である半径五百メートル以内に不審な『魂』を見つけ出すことは出来なかった。


 もしかしたら『厄災』という存在は魂を持っていないのかもしれない。もしそうだとしたら、私のやっていることに意味はあるのだろうか。


 帰り道の道中、そんな事を考えていた時だ。シズル君は肩を落としながら私に漏らした。


「あの、セイジ様。申し訳ありません、私が上手く案内出来ないばかりに——」



「——待て」



 私はシズル君の言葉を遮り、注意深く意識を集中させる。そして彼女に伝えた。


「シズル君、君は戻りなさい。私は少し、確認したいことが出来た」


「……!……セイジ様、もしや!」


「……ああ」


 ここから五百メートル離れた場所。地中に潜む一つの『魂』を私は見つけた。


 私は暗く冷たい瞳でその先を見据える。



「——本当に『厄災』なのかどうか、確認しなくてはな。確認したらすぐに戻る。君は先に戻って皆に伝えてくれ。集落から意外と近い、警戒を怠らないようにとね」




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