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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第七部 第五章
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『父』と『母』の物語・異変 10 —決意—






「んー、そうだねー。普通に戦えば、厄介、かな…? いや、厄介という言葉で済む相手じゃないねー」



 ——ここはブリクセン城、通称『魔女の城』の貴賓室。


 目の前の女性『北の魔女』ハウメアは、宙を見上げながらそう答えた。


 エリスが面会を申し出るとすぐに応じてくれ、この場は設けられた。そして今、こうして『厄災』ヴェネルディの話を聞いているのだが——。



「……普通に戦えば、とは?」


「うん、いい疑問を持つね、ええと……セイジ……だっけ?」


 私のことを格好つけながら指差し、首を傾げる女帝ハウメア。彼女の側近が、ハウメアの頭をポコッと叩く。


「もう、失礼だよ、ハウメア。さっき自己紹介したばかりでしょ?」


「そうだよ、ハウメア。エリスさんの旦那さんが三つ星冒険者になったって、この前報告書渡したばかりだよね?」


 二人の女性に挟まれポコポコと頭を叩かれるハウメア。威厳も何もあったもんじゃない。


 ちなみにその可愛らしいバイオレンスを行使する二人の女性は、三つ星冒険者のヒイアカとナマカ。


 冒険者でありながらこの国の摂政的役割もこなしているという、なんとも不思議な姉妹だ。


 ハウメアが頭を抑えながら私に謝る。


「ごめんごめん。それでセイジ、簡潔に答えるよ。わたしの戦った『厄災』ヴェネルディとかいう奴。多分ね、奴は不死身だ」


「なるほど……って、はあっ!?」


 普通の口調で話すのでつい聞き流してしまうところだったが、とんでもない事実が告げられたような気がする。


 驚く私とエリスを見ながら、ハウメアは気怠げに息をついた。


「それじゃあ、最初から話そう——」





 今から十日ほど前、街中で『風鳴りの崖に、風を操る『厄災』ヴェネルディと名乗る男がいる』という噂が広がり始めた。


 真偽を確かめに城へ詰め寄る人々。もちろんハウメアも、この止まない風を手をこまねいて見ていた訳ではない。


 噂が広がり始める前にはもう、彼女は『風鳴りの崖』へと兵士を派遣していた。目撃者本人かは分からないが、城にそのように書かれた文書が届いていたからだ。


 やがて戻って来た兵士の報告では、確かに『風鳴りの崖』には奴らしき人物がいて、高笑いをしながら佇んでいたとのことだった。


 しかもちょうどその頃、このトロア地方各地で異変が起き始めているとの情報も入って来ていた。


 何か良からぬものを感じ取ったハウメアは、ヒイアカとナマカに国を任せて彼女自身が『風鳴りの崖』へと向かう——。





 ——『あなたが『厄災』ヴェネルディなのかな?』


 ——『……フゥッフッフゥッ……ボクハ……ヴェネルディ……ヴェネルディ?……ヴェネルディ……』


 うわごとのようにつぶやく彼を中心に、風は巻き起こり始めた。ハウメアは早々に対話を諦め、魔法を解き放つ。


 ——「——『闇深き鋭刃の魔法』!」


 その刃は、ヴェネルディの両椀を切り落とした。だがヴェネルディは身体をくねらせて、切り口から腕を再生し始めたのだ。


 ——「——『凍てつく氷の魔法』!」


 ハウメアはヴェネルディを氷漬けにし、そして杖を振り下ろす。ヴェネルディの身体ごと粉々になる氷塊。


 しかし——ヴェネルディの身体は破片になりながらも、もぞもぞと互いが結びつこうとする動きを見せていた。


 そのおぞましい光景に一歩後ずさるハウメアだったが、彼女は魔法を放ち続ける。


 ——「——『氷嵐の黒刃魔法』!」


 ヴェネルディの身体が氷嵐に巻き上げられ、漆黒の刃に切り刻まれる。ハウメアに同行していた魔法が使える者たちも、氷嵐に向かって一斉に魔法を解き放つ。


 ——「——『火弾の魔法』!」



 ………………。




 やがてヴェネルディの身体は、一片残らず消え去った。風は止み、辺りは晩秋の空気に包まれる。


 ハウメアは身を震わせ、独り言をつぶやいた。


 ——「……ヴェネルディ……あなたはいったい、何者だったんだい……?」





「——という訳で、それが今から三日前の話だ。わたしも今さっき帰ってきたところなのさー」


「……なるほど……再生能力、か」


 彼女の話を聞く限り、その『厄災』という存在を倒すことが出来ればその地の異常気象は解消されるみたいだ。


 だが、粉々になっても再生する相手。他の『厄災』もそうだとは限らないが、果たして私の剣は通用するのだろうか——。




 ——その後、この地方の現状を共有し終えた私たちは席を立つ。帰り支度を始めようとするエリスに、ハウメアが声をかけた。


「エリス、ちょっといいかな?」






 人払いをした貴賓室。そこで魔女二人は話し合う。



「どうしたの、ハウメア。先輩が動くなんて珍しいじゃん」


「……まあねえ。ただ、流石に今回はそうも言ってられない状況だと思うけど」


「……確かに、ねえ」


 ため息をつく魔女二人。ハウメアは目を伏せる。


「わたしは、デメルトロイの件も今回の件も、ヘクトールのジジイが絡んでるんだと思ってたんだけどね。その肝心の魔法国は『光の雨』で滅んでしまった。何が何だか分からないよ」


「……うん。それでハウメア、どうするの?」


「そうだね……この地方全体の国力が弱まっている今、迂闊にわたしは動けない。エリス、あなたには苦労をかけるけど……」


 そう。ハウメアは動けない。この地方を狙っている大陸の国は、確かに存在しているのだから。


「気にしないで、ハウメア。まあ出来るだけやってみるよ」


「悪いね。ただ物資面の備蓄は進んでいる。好きなだけ持っていって構わないよ」


「うん、ありがとね、ハウメア——」







 城からの帰り道、私はエリスに問いかける。


「何を話してたんだい、エリス」


「……うん。救援物資の話。結構もらえるから、あとでゲート使って各地に運ばなきゃだねえ」


「……そうか。それはありがたいな」


 私たちは歩く、平穏を取り戻した街並みを。その光景を見ながら私は心に誓う。各地で苦しむ人々を、早く『厄災』から解放しなくては。


 私はエリスに再び問いかけた。


「——なあ、エリス。『厄災』達に『魂』はあると思うか?」


「……どういうこと、セイジ?」


 立ち止まり首を傾げるエリス。私は彼女に、決意を告げた。



「私が『厄災』とかいう奴らを探し出してみせる。恐らく私にしか出来ないことだ。エリス、力を貸してくれ」



 子供たちが、私たちの横を声を上げながら駆けていく。


 この当たり前にある日常を取り戻すため、そしてやがて生まれてくるであろう私たちの子供の未来のため——エリスも強く、頷いてくれるのだった。





お読みいただきありがとうございます。


これにて第五章完。

そして次章、過去編最終章となる第六章「『父』と『母』の物語・別れ」が始まります。


ライラの始まりまで描かれます。引き続き見守っていただけると幸いです、よろしくお願いします。


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